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異世界たちと探し人  作者: みあし
一章 土獣星編

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十八話 やすみ

 

 目を覚ますとゆづりは一人、冷たい畳に横になっていた。

 どうやら中継場に戻ってきた際、意識が飛んだらしい。どのくらい寝てたのか分からないまま辺りを見渡すと、鶴が羽ばたいている襖が目の前にあった。そこにいすずの姿は何処にもない。


「まさか……」


 ここにいすずがいないということは、彼女は土獣星で襲撃者たちと戦っているのか。

 ゆづりは慌てて起き上がると、無意識で襖に手を掛けていた。しかし。


「開かない…?なんで?」


 襖は石で出来ているかのようにずっしり重く、少しも動きそうにない。最初来たときは当たり前のように開いたのに、なんで急にこうなった。

 意味が分からないまま襖を引いたり叩いたりすること数分。色々試してもピクリとも動かない襖にしびれを切らし、ゆづりは部屋を飛び出す。そして神の姿を探していれば、運良くノアが通りかかった。


「おぉゆづり、やっと帰ってきたな。何か見つかったか?」

「ノア!今すぐ土獣星に戻りたい!」

「いや、なんで?今帰ってきたんだろ」

「いいから」


 ポカンとしているノアの腕を取って、無理矢理いすずの部屋に連れ込む。そして開かずの襖を指差し開けてくれと手を合わせた。

 ノアは憮然とした顔をしながらも襖に手を掛けてくれた。しかし、直ぐに手を引くと無理と両手を上げる。


「いすずに拒まれてるな。神の許可がないと星には入れないぞ」

「そんな…」

「何があったんだよ。いすずを怒らせでもしたのか」

「違う」


 不思議そうに首を傾げるノアに、ゆづりはこれまでの経緯を軽く説明する。

 神座剥奪の儀の影響で何度も襲われたこと、ゆづりは鬼に監禁されたこと、最終的にいすずを置いて帰ってきてしまったこと。

 なかなか聞き応えのある波乱な展開の筈だが、ノアはあまり驚く様子は見せなかった。むしろ、まぁそうだろうなと達観した顔を見せていた。


「まー土獣星はいつもそんな感じだからな。お前が傷一つなく帰れたことすら幸運だよ」

「…」

「それに、この話聞く限りはお前はもう星に降りない方がいいだろ。何も出来ないんだろうし。資料はもう少し待つんだな」

「それでも…」

「焦りすぎだ。行ったとしてもお前は足手まといになるだけだろ。星の問題は神に片付ける。放っておくのが一番だよ」


 今度はノアがゆづりの腕を取り、いすずの部屋から追い出す。ゆづりは不燃焼のまま遠ざかる襖を見つめていた。

 ノアの言う通り、自分が土獣星に行っても出きることはない。戦闘力はないし、状況を打破できる能力も持っていない。

 頭ではゆづりが土獣星に降りる理由は何もないと分かっているが、どうにも割りきれない。

 複雑な顔をしているのを見たノアは、明日になればきっと帰ってくるよと楽観的に笑う。


「いすずは強いからな。何せ鬼を倒して神になってんだから」

「鬼…。鬼って強いの?」

「あぁ、最強種族の一角だよ」


 最強に勝ったんだからいすずは最強だよとノアは安心させようとする。しかし、ゆづりは鬼である紅玉の存在を思い出してしまい、余計不安になった。

 ノアは納得いかないと、もやついているゆづりの心中を察したのか、さらにゆづりが地球に帰るべきだという理由を提示しだす。


「ほら、地球はもう夜だろ。そろそろ帰らないと親御さんが心配するんじゃないのか」

「それは…」

「いすずもお前が休んでくれることを望んでいるだろうよ」


 今地球が何時なのかは分からない。が、土獣星では結構な時間が経ってしまっている。確かに一回家に帰らないと面倒なことになりそうだ。


「…分かった。今日は帰る」


 いすずをおいて一人帰るのは心苦しいが、それしか出来ないから仕方ないと自分に言い聞かせて納得させる。そんな様子のゆづりを見て、ノアはほいと一枚の紙を差し出した。


「賢明賢明。褒美にこれやるよ」

「なに、これ」

「叛逆者の日記の一部。今日一日掛けて俺様が翻訳したんだ」

「こんなことしてくれてたの?ありがとう」

 

 知らないところで頑張っていたノアに驚きつつ感謝すると、彼はふんと胸を張りドヤ顔を見せる。うざったいが、これは普通に嬉しいのでもう一度ありがとうと伝えて留める。


「じゃあ戻るね。また明日」

「あ、待て。あともうひとつ」


 潔く地球へ戻ろうとしたゆづりの手をノアは掴むと、知らないだろうから教えてやると前置きして、衝撃的なことを話す。


「あの鬼…紅玉は叛逆者の眷属だ」

「……え」

「初耳だろ?まぁ、俺様も生きてるとは思わなかったけど」

「ど、どういうこと?」

「そのまんまだな。紅玉と叛逆者が、理解者とあの鳥…ピピみたいな関係だったってことだ」


 眷属の概念は、理解者から教わった。眷属は神を支えてくれる存在で、神と同じく不老不死の体を持っていると。


「……だから、紅玉は不老だったのか…」


 ツキとカケルと過ごした家で見つけた、紅玉の古写真。あの中にいた紅玉の容姿と、現在の姿が何も変わっていなかったのは、彼が不老だったかららしい。

 そして、紅玉が八星について知っていたのも説明がつく。彼が叛逆者の眷属なら、神や他の星についての知識があることは当たり前になるからだ。

 悩みの種がおおよそ消えたことに、ゆづりはすっきりとした快感を覚える。

 が、その後に続いたノアの言葉に、またも戸惑うことになる。


「あぁ。それと、もう一つあるんだが」

「なに?」

「眷属は仕えてる神が死んだら一緒に死ぬんだ」

「…………ん?」

「つまり、叛逆者が生きているか、紅玉が眷属だっていう情報が間違ってる、ってことだな」


 ノアはやれやれというように肩をすくめる。ゆづりはどういうことだと戸惑いつつも、今知っている情報を頭の中で纏め出す。


 いすずの前に神をやっていたのは『叛逆者』という鬼族の男。そして、叛逆者の眷属だったというのがあの紅玉。

 眷属は神が死ぬと共に死ぬが、叛逆者が死んだ現在でも、紅玉は不老のまま生きている。更に紅玉は、いすずを殺して己が神になることを望んでいる。


「ワケわかんないな……」

 

 事実と事実が複雑に絡まり、ゆづりの手には負えないことになっている。

 ゆづりは紅玉について何も知らない。そもそも、土獣星についてすらもあまり把握していない。そんな状態で何を考えても、憶測の範囲を出ない。事実には近づけない。

 

「まっ、また紅玉に会えたら聞いてみてくれよ。俺様もまた会いたいからさ」

「分かった。気にかけておく」


 ノアの言う通り、今度土獣星に降りたら紅玉に聞いてみればいい。そこまで気になるわけでもないのだし。

 ゆづりはノアに別れを告げると背中を向ける。そして、そのまま地球へと帰った。



「本当、どうなってんだか」


 ゆづりが帰宅する姿を見届けたノアは茶会の椅子に腰掛け、机に顎を乗せる。考えていることは無論、叛逆者と紅玉のことだ。

 

 叛逆者は五十年前、神座剥奪の儀によって命を落とした。だから、眷属である紅玉も死んでしまったのだと、ノアは疑いもしなかった。だが、それが間違っていたとは。

 

「叛逆者が何かやったのか」


 ノアはいつも意味深な顔をしていた男の顔を思い出す。しかし、ノアは彼の複雑な心境と策など読めた試しがないことをも思いだし、はぁと大きなため息をついた。



****



 すっかり伽藍堂となった学校を出て、一人帰路をたどるゆづり。

 どうやら土獣星と地球でそこまで時差はないらしく、地球もすっかり日が暮れ真っ暗になっていた。

 しんと静寂に染まった道は寂しいものの、頭を動かすには丁度よい。


「紅玉が叛逆者の眷属ねぇ…」


 紅玉が叛逆者と名乗ったことから彼が神だったのかと疑っていたが、どうやら見当違いだったようだ。叛逆者は叛逆者、紅玉は紅玉。れっきとした別人らしい。

 なら、紛らわしい名乗りをするな。今頃になって、紅玉に対して悪態をつきたくなってくる。



「ただいま」


 ゆづりが家に帰るといつも通り誰もおらず、静寂極まっていた。今までの騒動が嘘だったかのように錯覚するほど、ありふれた一日の一ピースに思わず苦笑が漏れる。


「八星がないと本当に普通だなぁ…」


 冷蔵庫から夕飯を見繕っていると、自然に口からそんな言葉が漏れる。

 思い返せば、ゆづりは今までなんの色もないサイクルを繰り返していただけだった。

 とりあえず起きて学校行って寝て、起きて学校行って寝て。土日は起きて寝て起きて寝て。人生つまらないと思うのも当然だ。


「ご飯美味しかったなあ」


 ご飯に冷凍ハンバーグをのせたオリジナルどんぶりを箸で崩していれば、自ずとツキの用意したご飯が思い出された。

 監禁されていたというのにあぁも冷静だったのは、自分が絶対死なないから何されても平気だという心持ちがあったからというのが最大手だろうが、それを意外に支えていたのはあの家の家庭感だったと思う。

 ツキの料理は今まで食べた中で一番美味しかった。洗濯物も人で片付けるのは面倒でしかないが、カケルとやったのは悪くなかった。

 そういう楽しさが警戒心を薄めていたのではないかと思う。


「でも、いすずが大変なことになるのは止めないと」


 今も彼女が戦っている可能性があるのだ。ゆづりが叛逆者の資料を探したいなど言ったせいで。

 悠長にはしていられない。早く何とかしないと。

 その意気に駆られるように、ゆづりは手早く食事を終えるとノアがくれた紙を広げる。


 ノアの字は相変わらず汚い。が、一生懸命に書いたことが読み取れて思わず頬が緩んだ。

 だが、精度の低い翻訳機で訳したような文章に、気付けば顔をしかめて厳しい顔をしてしまっていた。


「儀式のるーる。一番、儀式の期間は夏至付近三日とする。儀式の期間中、神は土獣星にいないといけないます」


「二番、民は期間の間に神を殺せば、神になれれる。神が死んだ瞬間、儀式は終わる。新しく神になったやつを、殺すことは不可能ね」


「三番、神は三日間、民から逃げれば神のまま終わる。また五十年神のまま。

 注意。神が儀式の最中、事故死など誰にも殺されずに死んだ時、眷属がいるなら、一時的に眷属に神の座が引き継がれる。そして、その後にも儀式は同じように続きまする。

 もし神に眷属がいないなら、創造者が適当に神を選んで、儀式は終わらせます」


「三番、儀式は必ず行いましょ。これは星の規定にもあるるます」

 


「規定ねぇ…」


 そういえば、理解者に翻訳してもらった文章の中に、そんな言葉があった気がする。

 確か、土獣星は「神座剥奪の儀の遂行」だった。ようはどの神でも儀式からは逃れられないということだろう。

 いすずを土獣星に行かせず儀式を無視すればどうにでもなると思っていたが、そう簡単ではないようだ。


「いすず、大丈夫かな…」


 一回区切りがついたため紙から目を逸らし背筋を伸ばすと、ソファーの上に置いてあるぬいぐるみと目があった。


「ノアのやつ忘れていったのか」


 これは昨日ゆづりが動物園で買ったぬいぐるみだ。ノアが欲しいと言うから大金を叩いて手に入れたのに、どうやら忘れていったらしい。

 お金はゆづりが払った。なら、ノアに返さずゆづりのものにしてもいいか。結構可愛い顔をしているし、ゆづりが貰ってしまおう。

 ふにふにとほっぺを潰して遊んでいれば、じわじわと眠気が襲ってきた。

 今日はかなり動いた。疲れるのも当たり前だ。ゆづりはうつらうつらと眠い目を擦る。


「もういいや。風呂入って寝よ」


 明日もきっと忙しくなる。今日もさっさと布団に入ろう。

 ゆづりは潔くノアの紙を折り畳み、吸い取られるように風呂場に向かった。

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