317 - 「苛立つニニーヴ・リーヴェ2」
なろう側の更新滞っていて申し訳ない!
生きてます!
「セラフは大丈夫かしら」
ヴァルト帝国が誇る最上位支援魔法師であり、小人族でもあるララ・ラビット・アクランドことララが、雪のちらつく夜空を見上げ、ため息交じりに呟く。
「さすがに少し心配なのよ」
空には巨大な積乱雲が広がっており、その雲の中へと続くように、一筋の火の粉が線となって続いている。
悪天候のせいもあり、人通りのない街路で夜空を見上げているのは、マサトたちを見送った面々――息子のヴァート、元後家蜘蛛で今はヴァートの師であるパークス、後家蜘蛛の案内役アシダカ、帝国の元第一位王位継承の王子であるキングことグリフィス・キング・ヴィ・ヴァルトとララの5人のみだ。
ララの隣で、寒さに身を縮めていた無精髭の男――キングが、その呟きに応じた。
「相手があの逸話通りの婆さんなら……まぁ確かに心配になる気持ちも湧くか。あの話が本当ならな」
鼻で軽く笑ったキングに、ララが振り向き、半眼で見つめた。
ララの無言の視線に耐えきれなくなったキングが口を開く。
「な、なんだよ。なんか言えって」
「意固地になっても、現実は変わらないかしら」
「ま、まだ本当にニニーヴが存在すると決まったわけじゃないだろ」
「じゃあ賭けるかしら?」
「ぐっ……」
たじろいだキングに、ララがため息を吐く。
「代々語り継がれてきた逸話や伝説なんてものの大半は、権力者たちによって都合の良いように改変された紛い物かしら。キングもそれは痛いほどよくわかっているはずなのよ」
「そ、それは……まぁ……」
「幼少期に自分が信じてきた昔話の英雄に裏切られたと錯覚するのは自由だけど、勝手に騙されて勝手にヘソを曲げる醜態を見させられるこっちの気にもなれかしら。見てるこっちが情けない気持ちになるのよ。いい加減、自分の心と折り合いをつけて、漢らしく前を向くかしら」
ララが早口でまくし立てる。
反論しようとしたキングだったが、ララが話した内容もあながち間違っていなかったため、口から出かかった言葉をぐっと飲み込んだ。
アリス教の教祖リデルとその弟子であるニニーヴが活躍する話は、帝国では有名な英雄譚であり、帝国で育った子どもたちにとっての憧れの存在でもある。
それは、王族として育ったキングも例外ではなかった。
むしろ、国を担う立場だと教えられてきたキングにとって、国を守った英雄たちの存在は、例えそれが逸話であったとしても、憧れ以上の感情を抱くには容易かったのだ。
キングが頑なにその手の話を信じようとしなかったのも、子供の頃に憧れ、信じてきた英雄たちの腹黒い真実を受け入れるくらいなら、初めから事実無根の作り話――実際には存在しない架空の存在だと信じる方が、キングにとっては楽だったからである。
「ほっとけ……」
口を尖らせて顔を背けるキング。
そんなキングに、ララがお手上げだと両手をあげて首を横に振る。
「仮に、万が一、ニニーヴが本当は味方だったとしても、きっとセラフに殺されて終わりかしら」
「お前はセラフを心配してるのか、していないのか、どっちなんだ?」
キングが脱力気味にそう聞き返すと、ララは素知らぬ顔で断言した。
「両方なのよ。人の気持ちなんて、完全にどっちか綺麗に割り切れるほど単純じゃないかしら」
キングが信じられないといった様子で口を開けて唖然とする。
そして、ぽつりと呟いた。
「この話の流れで、お前は俺にそれを言うのか……」
◇◇◇
空一面に広がる、恐怖心すら感じるほどに巨大で、濃い鼠色の積乱雲。
その積乱雲から降り注ぐ小さな氷の結晶と、触れたものを瞬時に凍結させるほどの凍てつく暴風は、鳥獣の王とも呼ばれるグリフォンですら避けるほどの異常気象だった。
だが、そんな最悪とも言える悪天候の中でも、炎を身に纏ったマサトと、黒い影を身に纏ったシャルルは、雪や暴風をものともせず速度をあげていく。
(シャルルは問題なくついてこれているな)
マサトが後方を追従してくるシャルルの様子を確認する。
シャルルは、深淵のVIPガチャで獲得したカード「永遠の愛を誓う黒の女王、シャルル・マルラン」から召喚したユニークキャラだ。
女王という肩書をもってはいるが、ヴィリングハウゼン組合との戦闘でも圧倒的な力を証明してみせた強者であり、今では召喚モンスターの中で最も頼れる相棒の一人でもある。
マサトの視線に気付いたシャルルが、軽く頷く。
(よし……)
マサトを先頭に、ふたりは何の躊躇いも見せず、巨大な積乱雲へと突入。
当然、雲の中の視界はゼロ――と思われたが、マサトには目指すべき対象がしっかりと見えていた。
まるで雲などなかったかのように、遥か先の対象が、カメラをズームしたかのような映像として視認できていた。
(これが世界喰らいの恩恵か……)
不思議な感覚に、マサトが心の中で感嘆の声をあげる。
(この能力があれば、フィン・ネルの遠隔操作も問題なく行使できるな)
進化した五感の感触を改めて確かめていると、程なくして積乱雲の上空へと抜けることができた。
そこで一旦減速し、その場に滞空する。
遅れてシャルルが雨雲から姿を現わすと、無言のままマサトの隣へと並んだ。
シャルルはマサトに問いかけることはなく、また、マサトも減速した理由をシャルルに話すことはしなかったが、シャルルはマサトの意を正確に汲み取っているかのように、マサトと同じ方向へ視線を向けた。
マサトが意識を集中する。
(これ以上近付くと気付かれるか……?)
マサトの視線の遥か先、一帯に広がる積乱雲を超えた空では、二体のドラゴンが熾烈な空中戦を繰り広げていた。
一体は、水色の鱗が美しいドラゴン。
もう一体は、白い光を放つ靄を纏ったドラゴンだ。
(水色のドラゴンが、センリが言っていた伝説の大魔導師――ニニーヴ・リーヴェか。白いドラゴンは永遠の蜃気楼だな)
センリとは、ダンジョンブローカーをしていた青の天眼のリーダーで、髪を束ねて4つの輪を作った独自のヘアスタイルをした仙女族の美女だ。
彼女から貰った手帳には、ニニーヴの情報も記載されていた。
記憶に残っていたその情報を思い出す。
(水竜の乙女。情報通りなら、あれが真の姿ということか)
水色のドラゴンが放った青いブレスが周囲の雲を照らし、鋭い光を放つ氷の槍が前方を飛ぶ永遠の蜃気楼だけでなく、周囲を旋回する黒い異形の悪魔――ファージの群れに向けても無数に放たれている。
その様子は、航空戦において、戦闘機同士が有効射程圏に敵機を入れようと機動する格闘戦にも似ていた。
(あれを試すチャンスか。シャルル、俺は遠方に意識を集中する。周囲の警戒を頼む)
マサトがシャルルへ視線と念を送ると、シャルルはすぐさま頷いた。
意図が伝わったことを確認し、視線を前に戻す。
(始めるか……)
一度、大きく息を吸い込むと、マサトの眼つきが変わった。
戦闘開始だ。
(いけ、フィン・ネル――)
マサトの身体から分離した六つの白い物体が、コの字の形状に変化すると、そのまま青い光の粒子を発して急加速。
その直後、空の色に溶け込むように姿を消した。
◇◇◇
連続で放たれた氷の槍――水竜の氷牙が、ドラゴンの白い翼を捉える。
高速で飛来する鋭い氷の刃は、敵のその綺麗な白い翼膜にボツボツと複数の穴を作った。
だが、翼を貫かれたはずの白いドラゴンは、減速どころか反応すらしなかった。
みるみるうちに翼の穴が塞がっていく。
(なんて忌々しいの――!!)
ニニーヴは憤っていた。
姿をようやく見せたと思った敵は、あろうことか一定の距離を保とうとするだけで、一向に戦おうとしなかったのだ。
ニニーヴにはその態度が、侮られているようで気に食わなかった。
(竜語も分からぬ劣等種がッ!!)
ニニーヴが怒りの咆哮をあげる。
その咆哮は、氷のブレスとなって白いドラゴンへと放たれたが、白いドラゴンは難なく躱してみせた。
(きぃーッ!!)
ニニーヴが癇癪を起こす。
相手は実態のないエレメント系で、魔力で生成した氷の槍――水竜の氷牙が効かないのは厄介だったが、それ以外にも、ニニーヴの神経を逆なでする存在があった。
奇形の黒い悪魔、ファージだ。
(ええいッ! 鬱陶しいッッ!!)
ニニーヴの隙を見つけては、執拗に飛びかかってくるファージたちに、ニニーヴは水竜の氷牙の弾幕を張る。
同時に、魔力を練り上げた。
(お遊びもこれで終わりよ)
ニニーヴの美しい水色の鱗が輝き始める。
だがその時、ニニーヴは何かの接近を察知した。
(何!?)
すかさず、周囲を見渡すも、何も視認できなかった。
だが、見えないだけで、視覚以外の感覚はそれを捉えていた。
(不可視の敵!? 何者!?)
第六の感覚ともいえる魔力の検知網に神経を集中する。
すると、複数の物体が凄い速度でこちらへ迫ってきているのがわかった。
(次から次へと!!)
ニニーヴが苛立つ。
白いドラゴンの対処を優先したかったが、新手の存在を無視するのは危険だと本能が警鐘を鳴らしたのだ。
(この不快な視線は何……? まさか、私の認知外から監視されてるというの……?)
警戒を高めたニニーヴが、新たに接近してくる何かをブレスで焼き払おうと待ち構える。
だが、ニニーヴが動くよりも、敵が動く方が先だった。
突然、不可視の存在から、青色の光線が放たれたのだ。
(やられた!!)
先手を取られたニニーヴだったが、そこは激動の時代を生き抜いてきた大魔導師。
対応も早かった。
瞬時に魔力による防壁を展開。
ニニーヴを包み込むように出現した円球の光は、不可視の存在から放たれた青色の光線からニニーヴを守った。
光の防壁に阻まれ、粒子となって四方に流れ散る青い光線。
だが、敵の光線は途切れることなく、更に出力をあげてきた。
(うっ……生意気なッ!!)
思わぬ出力の高さに防壁が突破されそうになったが、対抗するようにニニーヴも出力をあげる。
それが敵の狙いだとも知らずに。
そして、ニニーヴの背後に出現する新たな敵と、強い青い光。
(――ッ!?)
ニニーヴの目が驚きに見開かれる。
目の前の敵に意識を集中したことで、敵の接近に気付くのが遅れたのだ。
そして迫る青い閃光。
それは瞬く間に魔力の防壁へと到達した。
(くッ……)
その攻撃は危険だと、本能で察知したニニーヴは、咄嗟に身体を捻りながら急加速し、その場から緊急回避を試みるが、敵の攻撃はニニーヴの想像を超えたものだった。
(なッ……!?)
ニニーヴの瞳に、魔力の防壁を一瞬で貫いてきた青い光が映り込む。
(ああ……!!)
光線を回避することはできず、ニニーヴの自慢の美しい鱗に被弾。
防壁をも一瞬で貫く出力をもったその光は、ニニーヴの右脚の太股を瞬く間に蒸発させた。
「キャィイイインッ!!??」
竜の短い悲鳴があがる。
だが、それだけで敵の攻撃は終わらなかった。
ニニーヴの周囲に、新たに発現する青い光、光、光――。
(そんな――)
ニニーヴの大きな瞳に、複数の青い閃光が映り込む。
彼女の意識は、そこで途切れた。
▼おまけ
【UR】 水竜の乙女、ニニーヴ・リーヴェ、4/6、(青×12)、「モンスター ― ドラゴン」、[飛行] [水魔法攻撃Lv8] [氷ブレスLv9] [魔法障壁Lv7] [(青×3):力の解放、一時能力補正+1/+1]
「竜の言葉も分からぬ劣等種がッ!!――怒りのニニーヴ・リーヴェ」
【UC】 貫く一撃、(青)(2)、「インスタント」、[青い閃光Lv3] [耐性・軽減効果無視]
「とどめの一撃としては物足りず、牽制の一手には強すぎる――青の大魔導師、ポット・クェ」
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