171 - 「5連ガチャ」
「そんな事、無視していれば良いだろ。気にするな」
書斎にて、トレンへサーズでの一件を包み隠さず話すと、トレンは片眉を上げ、そう切り捨てた。
「ほ、本当に気にしないだけで良いのか? 向こうは責任取れと言ってるようだけど……」
「じゃあ聞くが、責任って何だ? 夜を共にした責任? それとも、相手を手篭めにした責任とか?」
「うっ……」
「マサト、いいか? あんたはこの国の王だ。強姦ならまだしも、それが狙いで近付いてきたような女を抱いた程度で、いちいち責任取ってたらキリがないぞ?」
「い、いや、まぁ、言われてみればそうなんだけど……」
「罪悪感があるなら、まずは一応立場的に妻の立場にある女王陛下と話したらどうだ? 向こうが強気に責任追及してくるようなら、責任取って王の座を降りるとか、婚姻を解消するとか言えば、女王陛下も大人しくなると思うが。まっ、そんな事で王の座降りるなんて話は聞いたこともないが、もしそういう事態になって困るのは女王陛下だろうしな」
「そ、そっか…… は、話してみる」
「そんな事より、昨日の今日で公国との交易再開とは! 流石だな!」
興奮したトレンが、俺の肩をパンパンと叩きながら饒舌に喋る。
「マサトが公国へ殴り込みに行ったと聞いた時はどうなるか心配したが、まさか何の条件もなく交易再開されるなんてな! これでかねてより計画していた資金稼ぎが実行できる! 商人ギルドも今や大忙しだ!」
「そんな事扱い…… ま、まぁいいか。そうだ、ハインリヒに上級回復薬を一つ渡しておいたけど、問題ないよね?」
「問題ない! むしろ良くやった! 今頃、公国の連中は慌ててるだろうな。隣国が7等級の回復薬の量産に成功したと知れば、血眼でその生産技術を盗もうとしてくるだろうよ」
「それって…… 大丈夫なの?」
「対策は万全だ。既に薬学者の研究所は守りの強固な礼拝堂の地下、後家蜘蛛のアジトへと移してある。技術を盗まれることはないはず。真似して作れる代物でもないしな」
「そか。それなら良いんだ」
「交易が軌道に乗れば、数週間で大量の金が舞い込むはず。白金も相応の量を用意できると思うが…… 間に合うか?」
「いや、その事だけど……」
トレンへ、シルヴァーの封印が解けるまでの猶予があまりないことを話す。
公国の魔導兵量産は、ローズヘイムへの対抗措置以上に、シルヴァーへ対抗するための戦力増強が目的だった。
その点、ローズヘイムは土蛙人との一戦から完全に復興できていない。
闇の手対策である警備強化ですらままならない状況なのだ。
例え禿山のゴブリン軍団によって将来の戦力底上げは可能だとしても、防戦になれば補強だらけの城壁で籠城しなければいけなくなる。
シルヴァーの特性上、増える前に一掃しなければ、時間経過とともに状況が悪くなるのは間違いない。
となれば、相応の力が必要になるのだが――
「それほどないって、どのくらいだ? 具体的な日数は分からないのか?」
「数日と言っていた」
「はぁっ!?」
その事実にトレンが声を荒げる。
「それじゃ交易再開しても意味がっ! せ、せっかくの計画が…… い、いや、交易はこの際いい…… 根本的な問題の対処が先だ…… ふぅ…… そうだな……」
一度は発狂しかけたトレンが、頭から水を被ったかのように、急速に冷静さを取り戻していく。
「それが本当なら、蛙人殲滅してる場合じゃないんじゃないか?」
「その逆だよ。蛙人殲滅を早めないといけない。シルヴァーを討伐するのに、新しい力が必要なんだ」
闇の手という地雷を警戒しつつ、蛙人討伐からシルヴァー討伐までを解決しないといけない。
闇の手の狙いが、俺と公国との戦争だとすれば、奴らは再び仕掛けてくるはず。
幸い、公国とそれまでの食糧問題は解決済みだ。
シルヴァー対策も見込んで、ローズヘイムの守りを更に強固なものにする必要はあるが、シルヴァー相手に城壁が機能するのかという根本的な問題もある。
飛行能力を得られたら最後、城壁を飛び越えられて終わりだ。
シルヴァーの封印が解かれる前に排除できればベストだが、トレンとの話し合いでも良案は思い浮かばなかった。
新しい力――新しいデッキに賭けるしかないのかもしれない。
「おいおい…… それなら、こんな悠長に話してる場合じゃないんじゃないか?」
「まぁね。今日一日休んだら、明日からまた戦だよ。まずは北東の蛙人」
「そうか…… 明日……」
シュビラからは、明日の昼に蛙人討伐戦を決行するという報告を受けていた。
蛙人は夜行性で、陽のある昼間は丁度就寝時間にあたる。
明日の天気も快晴の可能性が高く、シルヴァー復活までの猶予を考えると、明日の決行が望ましいということで急遽決まったのだった。
「ちょ、ちょっと待ってろ。今、マサトに渡そうと貯めていた白金貨を持ってくる!」
そう言って部屋から出ていくトレン。
急いで戻ってきたトレンの手には、ぎっしりと中身の詰まった布袋が。
「ざっと100白金貨。ドワンゴにも協力してもらって掻き集めた。今はこれしか捻出できないが、ないよりマシだろ?」
「トレン……」
トレンの心遣いに目頭が熱くなる。
「あぁ、助かる」
「なーに、助けられているのはこっちの方だ。気にするな。それに、交易品が上手く流れ始めれば、その数十倍は稼げる。それまでは、それでどうにか凌いでほしい」
「ありがとう。やってみるよ」
お互い頷きながら、がっちりと握手を交わす。
「せっかくだから、トレンの前でガチャってみるか」
「がちゃ?」
「新しい力となるカードの錬成みたいなもんだよ」
「ほぉ、ガチャって言うのか。でも、おれが居ても良いのか?」
「良いよ。どうせ見られても減るもんじゃないし、この工程に集中力とか関係ないから。大丈夫」
「そ、そうか……」
「じゃあ、さっそく――」
緊張し始めたトレンを横目に、白金貨20枚を使い、まずは一枚ガチャる。
「勝負!」
ガチャと念じると、机の上に置いてあった白金貨20枚が、淡い光の粒子を舞い上げて消えた。
その光景に息を飲むトレン。
二人の目の前に、一枚のカードが回転しながら現れる。
そのカードを凝視すると、緑色の縁の中央に、青いイラストが微かに見えた。
「これは――」
[C] 蒼鱗のワーム 7/8 (緑)(8)
「「蒼鱗様!?」」
トレンと声が重なる。
「「えっ!?」」
蒼鱗のワームは、ただ大きいだけのバニラモンスターだ。
だが、ME初期からある人気カードの一つであり、「蒼鱗様」という愛称でプレイヤーに親しまれてきた。
因みにバニラというのは、何の能力も持たないという意味で、由来はバニラアイスからきている。
バニラアイスのように何も入っていない、シンプルなという意味らしい。
バニラモンスターとはいえ、サイズの大きいモンスターなので、そこに魅力を感じて使うプレイヤーは多い。
そして、ただ大きいだけでは使えないということを学ぶのだ。
その初心者から中級者になるための通過儀礼を皆に学ばさせてくれるモンスターでもあったため、蒼鱗様という愛称がついたのかもしれない。
7/8というサイズは、それだけで魅力的ではあるが。
「ちょ、ちょっとストップ。トレン、このカードのイラストに書いてあるワーム知ってるの?」
「あ、あぁ。知ってる。その姿は間違いなく蒼鱗様だ。昔話に出てくる有名な神様の一つで、少なくともこの大陸の人間なら大抵知ってると思うが……」
「そっか…… この大陸にも生息してたのか」
「ま、まさか、蒼鱗様を召喚できるようになったの…… か?」
「ん? あ、ああ、召喚できるようになった」
「白金貨20枚で神を召喚…… ほ、本当に恐ろしい力だな……」
トレンが生唾をゴクリと飲み込む。
この世界の住人にとって、蒼鱗様は神格化されているようだ。
それなら、蒼鱗様に街を守ってもらえば、更に民は安心できるんじゃないだろうかと思い付く。
「よし、蒼鱗様は後で召喚して、城壁外周でも守らせよう」
「ばっ! 罰当たりだろ!」
「え…… 蒼鱗様って言ってもただのデカいワームだから大丈夫だって。それに、防御力が高いから、シルヴァー相手にもそこそこ奮闘してくれるはず」
「そ、そういうことじゃ…… い、いや、分かった。マサトが言うなら大丈夫なんだろ。その件は任せる」
「大丈夫大丈夫。もしかしたら、蒼鱗様見たさに観光客増えるかもよ? シルヴァーが片付いたら、ローズヘイムの観光事業とか考えてみたら?」
「観光事業か…… 考えたこともなかったな……」
トレンが遠い目をし始める。
そんなトレンへ、俺はパッと思い付く限りの特産品を告げた。
「火傷蜂の蜂蜜に、空を喰らう大木の特製パン。剣牙獣の肉に、鋼鉄虫製の高級防具。後、ケロりんの香水とか。結構、売りはいっぱいあると思うけど」
「確かに…… その手があったか…… ふむ…… あれも使えるな…… うん、これは面白そうだ」
「よーし、トレンも乗り気になったところで二枚目行ってみよう!」
「お、おう」
「勝負!」
再び机の上の白金貨20枚が消え、目の前に一枚のカードが現れる。
「……ん? また緑?」
次のカードも縁が緑色だ。
だが、イラストにモンスターは描かれておらず、あるのは巨大な白い螺旋――竜巻だった。
「竜巻……」
[R] 竜巻 (緑)(緑)(X)
[竜巻LvX]
「これはどういうカードなんだ?」
「確か、空を飛んでるモンスターにダメージを与える魔法だったはず」
「それで竜巻か。納得だ」
竜巻は、注ぎ込んだマナ分だけ飛行を持つモンスターにダメージを与えることができる、X火力の大型魔法だ。
飛行モンスター限定とはいえ、数の暴力が脅威となるこの世界では、全体除去がかなり重要となる。
緑マナも余裕があるし、これは素直に嬉しい一枚だ。
「神を召喚する魔法に、自然を操る魔法か…… はは、もう白金貨20枚が高いとは思えないな」
興奮したトレンが、汗で濡れた手をズボンで拭きながら話を続ける。
「しかし、このガチャってやつは危険だな。その力もそうだが、何より魔性の魅力がある。おれはもう次のカードが何か気になって仕方がない」
「はは、その気持ち分かるよ。俺の世界でもそうやって破産した人がいっぱいいるし」
「そ、そうなのか……」
「まぁ、大した事じゃない。じゃ、次行こうか!」
「ああ! 次はどんな力だ!?」
「勝負!」
「凄いのこい!」
二人で興奮気味に叫ぶ。
再び白金貨が光となって消え、新たなカードが現れる。
「お! 今度は縁の色が違うぞ!?」
トレンが回転するカードを見て声を上げる。
縁の色は銀色。
イラストは何かの肉が大きく描かれている。
「これは何だ? 肉?」
「ちょっと待って、今読むから――」
食い気味に覗き込むトレンを押し返し、カードを見る。
そのカードには、現実世界で馴染み深い名前が書かれていた。
「松坂…… 牛…… だと……」
[UC] マツザカ牛の最高級霜降り肉 (0)
[ライフ上限+1]
[耐久Lv1]
俺の驚きに、緊張したトレンが恐る恐る問いかける。
「ど、どうした? そんなに凄いカードなのか?」
「凄い……」
「な、何? 何が凄いんだ!?」
「美味い」
「……はっ?」
「いや、だから、この肉は多分恐ろしく美味い」
「言ってる意味が…… まさか、これ…… 食材か? 食材もカードに?」
「そう見たいだね。こんなカードあるんだ。俺も知らなかった」
「結構幅広いんだな…… 神から食材まで揃ってるとは。それにしても白金貨20枚の肉なんて聞いたことないぞ」
「俺も聞いたことないよ。そんなクソ高い肉。あーでも、これ食べると [ライフ上限+1] になるらしい」
「ライフ上限+1?」
「んー、この世界の基準に当てはめると、一回致死量の攻撃受けても死なないくらいにタフになれるって感じかな?」
「はぁっ!?」
トレンが有り得ないことを聞いたと言わんばかりの顔で疑問を表現した。
だが、すぐに頭を振ると、こめかみを抑えながら「落ち着け落ち着け」と呟き、会話に復帰。
「つまりは…… 命を倍に増やす魔法肉ってことか? そ、それなら、白金貨20枚相応の価値は出そうだな」
「まじ? でも、これイラスト見る限りだと200gくらいしかなさそうだけど」
「肉の量より、その効果が問題だ! 命を増やす秘宝なんて、場合によってはレッドポーションより危険な代物だぞ!?」
「ま、まぁそうだよね。よし、気を取り直して次行こう! 次!」
トレンの目が血走り始めたので、さっさと次のカードよ来いと念じる。
白金貨が更に20枚消え、カード出現。
次のカードは、縁が赤色だった。
「赤い…… 炎?」
[UC] 聳え立つ炎の壁 1/1 (赤×3)
[壁]
[(赤):一時能力補正+1/+1]
[生命維持:(赤)]
聳え立つ炎の壁。
赤マナで一時的に強化能力できる壁モンスターだ。
自身は壁であるが故に、攻撃に参加できない。
更には生命維持として、毎ターン(赤)を消費しなければ消えてしまう。
正直、微妙なカード。
「これは…… ハズレかな」
「ハズレ? どんなカードなんだ?」
「炎の壁を作り出せるカード」
「炎の壁か…… おれにはとてもハズレに思えないが…… どのくらいの規模の壁を作り出せるか次第か」
「召喚したことないから分からないけど、強化能力付いてるから、マナ次第ではかなり大きくなるんじゃないかな?」
「どちらにせよ、敵の猛攻を受けるのに有用そうだな」
「まぁそうだね。後は、敵陣の真っ只中に召喚しても効果はありそう」
「そんな使い方が…… 城下町で使われたらひとたまりもないな……」
初心者モードではただの壁も、VRモードでは召喚場所次第で強力な攻撃手段に変わる。
敵が突っ込んできたタイミングで召喚し、慣性の法則で急には止まれない相手に突っ込ませるなんてテクニックはまだ序の口で、上級者になれば、自分の足場にしたり、敵建築物の中で召喚して内側から破壊するなど、アイディア次第で比較的何でもできたりする。
そう考えると、この聳え立つ炎の壁も、それほどハズレではないのかもしれない。
「次が最後か」
トレンが少し残念そうに呟く。
「まぁ、また稼げばいくらでもガチャれるし、取り敢えずシルヴァー戦に向けて最高な一枚が何か出てくれればそれでよし! さぁ、来い!」
「来い来い来い!!」
二人で無駄に気合を入れる。
最後の白金貨20枚が消え、五枚目となるカードが舞い降りる。
縁の色は――
「青い! 青いぞ!?」
トレンが興奮して叫ぶ。
(トレンに博打をやらせたらダメな気がしてきた……)
そんなトレンの気迫に押されつつも、出現したカードを確認する。
[UC] 忠実なドレイク 2/2 (青)(2)
[飛行]
「なんだ…… ドレイクか……」
「なに!? ドレイク!? 今度はドレイクなのか!?」
「ちょ、トレン落ち着いて。興奮し過ぎ」
「うっ、す、すまない。つい、はしゃぎ過ぎた」
深呼吸した気持ちを落ち着かせると、苦笑いしながらトレンが話し始める。
「もう大丈夫だ。落ち着いた」
「トレンがここまでのめり込むとは思わなかったよ」
「い、いや! おれは普通だと思うぞ!? 白金貨が神の力に変わる瞬間に立ち会ったら誰でも興奮するだろ!?」
「はは、そうかもね。じゃあ、このドレイクはトレンにあげるよ」
「……はっ?」
「騎乗用の鞍を着けて訓練すれば、乗って飛べるようになるんじゃないかな? そしたら、何かと有用だと思うし、乗らなくても屋敷の番犬ならぬ番ドレイクにすれば、屋敷の守りも更に強固にできる」
「い、いや、確かにそうだが、マサトの戦力にするんじゃないのか?」
「うーん、このドレイク程度だと少し心許ないかなぁ。いざという時は召集するけど、率先して最前線で使うには、他の亜竜達に比べてちょっと頼りない感じ」
「そ、そうか…… 仮にもドレイクがその程度扱いか……」
トレン曰く、伝記上で竜騎士は存在するが、ドレイクライダーなどこの世に存在しないらしく、仮に騎乗できるドレイクが売りに出されれば、白金貨20枚は余裕で超えるだろうということだった。
もちろん、競売にかけるなんてことはしない。
すると、少し悩んだトレンが、何かを決心した表情になり、俺へ「ちょっと待っててくれ」と再び呼び止め、書斎を後にした。
戻ってきたトレンの手には、一つの小袋が――
「白金貨20枚。いざという時用の予備金だ。これも使ってくれ」
「いやいや、予備金まで手を出したらダメでしょ。いざという時どうすんの?」
「その点は問題ない。この国には金に変わる希少な物資資産が大量にあるからな。いざとなればそれらを担保にできる」
「そ、そう? それなら良いけど……」
トレンが大丈夫というなら大丈夫なのだろう。
もう一回、もう一回というガチャの罠にハマっている気もするが、この先の大戦のことを考えると、遠慮している場合ではないのも事実。
そうと決まれば、泣きの一回、期待せずにはいられない。
「じゃあ…… やるか?」
「おう!」
泣いても笑っても本日最後の一回。
白金貨20枚を消費して、再びカードガチャを実行。
白金貨が淡い光の粒子に包まれて消え、空中に一枚のカードが舞い降りる。
二人の期待を乗せたそのカードは――
「また緑……」
「これは…… 鳥か?」
虹色の美しい一匹の小鳥が描かれていた。
[SR] 虹鳥 0/1 (緑)(1)
[飛行]
[マナ生成(虹)]
―― 本日の収穫 ――
[C] 蒼鱗のワーム 7/8 (緑)(8)
[UC] マツザカ牛の最高級霜降り肉 (0)
[ライフ上限+1]
[耐久Lv1]
[UC] 聳え立つ炎の壁 1/1 (赤×3)
[壁]
[(赤):一時能力補正+1/+1]
[生命維持:(赤)]
[UC] 忠実なドレイク 2/2 (青)(2)
[飛行]
[R] 竜巻 (緑)(緑)(X)
[竜巻LvX]
[SR] 虹鳥 0/1 (緑)(1)
[飛行]
[マナ生成(虹)]





