表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

149/329

145 - 「空を喰らう大木、伐採戦2」


 直径20mはあるであろう空を喰らう大木(ドオバブ)の幹の断面から、大量の水と、樹液らしき柑子色(こうじいろ)のドロドロした液体が噴き出し、その上を黒い何かの纏まりが流れ出てきていた。


 濃厚な甘い香りが辺りに漂う。



「あ、もしかしてあの黒い塊が食残虫(レオフ)か?」



 流れ出る水と樹液の上を飛びながら、水の上に浮かぶ黒い塊に近付く。


 すると、突然塊が弾ける様にして分散し、マサトへと襲いかかった。



「うおっ!? やっぱりこの黒い塊が食残虫(レオフ)か! って、食残虫(レオフ)って羽虫かよ!」



 飛来した食残虫(レオフ)をひらりと躱し、身体を回転させるようにして炎の翼(ウィングス・オブ・フレイム)で焼き払う。


 だが、そんなマサトを、食残虫(レオフ)達は外敵として認識したのか、至る所に点在していた黒い塊が次々と弾け、空を飛ぶマサトへと襲いかかった。


 その数は、空を飛ぶ食残虫(レオフ)により、空が黒く霞んで見えるほどだ。



「く、キモいな…… まるでイナゴの大群だ。って、熱!?」



 腕に熱さを感じ、咄嗟に振り払う。


 いつの間にか腕に食残虫(レオフ)張り付いていたらしい。


 袖がボロボロだ。


 食残虫(レオフ)の酸だろう。


 一匹の量は然程だとしても、空を埋め尽くす程の量の酸を浴びることになれば、きっとただでは済まない。



「うわっ、ぺっ! ぺっ! 口に入った! キモいキモいキモい!!」



 上下左右、見渡す限り食残虫(レオフ)食残虫(レオフ)食残虫(レオフ)……


 兎に角一心不乱に、炎の翼(ウィングス・オブ・フレイム)を最大出力でぶっ放しながら回転し、食残虫(レオフ)を振り払うようにして焼き払う。



「はぁーっ、ふぅーーー! はぁーっ、ふぅーーー!!」



 火吹きの焼印もフル活用だ。


 自分では然程体感できないが、恐らく自分の周りの温度は500度を超えている気がする。


 なぜなら、炎のない場所でも、接近してきた食残虫(レオフ)が自然発火して勝手に蒸発する現象が起きたからだ。


 それと、炎を手当たり次第駆使し続けたお陰で、炎の扱い方も大分分かってきた。


 [火魔法攻撃Lv2] も、ただ火の玉を放つだけでなく、イメージ次第で様々な形の炎を作る事ができる。


 これにより、炎をバリアのように纏うことに成功した。


 食残虫(レオフ)にとって、無敵の対策だ。


 そんなこんなで、炎を纏いながら食残虫(レオフ)を殲滅し続けること一時間。


 ようやく大半の食残虫(レオフ)を消し去ることに成功した。



「ふぃ〜。一時はどうなるかと思ったけど、やっぱり虫に炎は無敵だったな。垂れ流しになった樹液は少し勿体ない気がするけど、まぁ仕方ないか」



 念の為、駆除仕損なった食残虫(レオフ)が残っていないか周囲を見回る。



「大丈夫そうだな。群がってくる食残虫(レオフ)もいなそうだ」



 安全が確認できたので、オーリア達がいる方角へ合図を送る。


 だが、応答がない。


 それ以前に、そこに居たはずの人の気配が感じられなかった。



「あれ。皆どこ行った?」




◇◇◇




 空から大粒の水滴とともに、黒い塊――食残虫(レオフ)が降ってきた。


 黒い塊は、地面や空を喰らう大木(ドオバブ)の幹にぶつかるや否や、弾けるように分散し、怒り狂ったように周辺を飛び回っている。



「に、逃げろ! 食残虫(レオフ)だ! 捕まれば全身溶かされるぞ!!」



 同伴していたサーズの戦士が叫ぶ。


 現場は大混乱だ。


 マサトが空を喰らう大木(ドオバブ)を倒すまでは良かった。


 だが、その倒し方が問題だった。


 大きく空を舞った空を喰らう大木(ドオバブ)は、その中身を周囲にばら撒きながら舞ったのだ。


 当然、空を喰らう大木(ドオバブ)の中を住処としている食残虫(レオフ)も、その拍子に外へと飛ばされ、水や樹液とともに地上へと降り注ぐ結果となった。



「ドラゴン! 私達も退避するぞ!」



 マサトのドラゴン――真紅の亜竜(ガルドラゴン)へと指示を出す。


 すると、ドラゴンが少し顔を上げて周囲を一瞥し、ブフンと炎を吹き出すと、進路方向を森の奥――ではなく、荒野側と森側の丁度中間へと変えた。



「ど、何処へ行くつもりだ!?」



 私の言葉を無視して走り出すドラゴン。


 私は振り落とされないように必死にしがみつく。


 すると、退却する戦士達の中に、ノクトがいた。



「そうか! ノクト殿を! ノクト殿! こっちだ!!」


「オーリア様!? あっ、ドラゴン!!」


「飛び乗れ! 早く!!」


「で、でも」



 躊躇うノクト。


 その視線の先には、屈強な戦士達に囲まれた一人の老人がいた。


 すると、そのうちの一人がノクトへと叫んだ。



「嬢! ノード古老のことは我らに任せよ!」


「は、はい。分かりました。お願いします!」



 手を伸ばすノクトの手を取り、ドラゴンの背へと引き上げる。


 その直後、黒い何かが前方から飛来してくるのが見えた。


 戦士の一人が叫ぶ。



食残虫(レオフ)が来る! 松明を掲げよ!!」



 戦士達が一斉に松明を掲げ、その松明にもう片方の手に持っていた藁を近付け、燃やした。


 途端に灰色の煙がブワッと巻き上がり、鼻をつくような臭いが辺りに広がる。


 すると、食残虫(レオフ)の集団が、その煙を嫌がるように空中で止まった。



「そのまま後退を続けろ! 絶対に除虫草を切らすな!!」



 藁のように見えたのは、虫の嫌がる煙が出る草のようだ。


 相手は極小の羽虫の大群。


 殲滅は無理だ。


 だが、煙で退かせることができるのであれば、退却は可能になる。


 すると、ドラゴンが空中で止まっていた食残虫(レオフ)の集団に向けて、突然口から灼熱の炎を噴射した。


 ブォオオオオという轟音とともに噴出される業火。


 その炎に、ドラゴンの背に乗っている私達も激しい熱波に襲われる。



「あ、熱い!?」



 突然のことに驚きつつも、顔を伏せることで何とか熱波から逃れることができたが、髪の焦げる嫌な臭いが鼻についた。



「い、いきなり何をする!?」


「お、驚きました。とても熱かった」



 私とノクトの抗議も、ドラゴンは何処吹く風だ。


 戦士達も突然の事に目を見開いて驚いていた。


 だが、ドラゴンが食残虫(レオフ)を炎で殲滅したことにいち早く気付くと、すぐさま退却の号令をかける。



「ドラゴンのお陰で、目の前の食残虫(レオフ)は大半が死滅した! 次の食残虫(レオフ)が来る前に退却するぞ!」


「「おおう!!」」



 戦士達は、二足歩行の地龍に跨り、ノクトの祖父――ノード古老を護衛しながら素早く退却を開始する。



「私達も行くぞ!」



 だが、ドラゴンは相変わらず私の指示を聞かなかった。


 再び頭を上げて辺りを見回すと、荒野側を向いて止まる。



「こ、今度は何だ? どうしたのだ!?」


「あ、あれは!?」



 ノクトがドラゴンが向いた先に何かがいるのを発見する。



「何だ!? 何がいた!?」



 私からは何も見えない。


 ノクト殿は余程視力が良いのだろう。



「エンベロープ族!?」


「エンベロープ族? ニドが言っていた空を喰らう大木(ドオバブ)を神聖化している連中か?」


「は、はい。このままだと、マサト陛下の元へ行ってしまいます」


「まさか、空を喰らう大木(ドオバブ)伐採を邪魔するために来たのか?」


「はい。もしくは、空を喰らう大木(ドオバブ)を傷付けたマサト陛下を処罰するためかもしれません」


「何だと!? こんな時に!」



 こちらが引き連れてきていたサーズの戦士達は、先程の一件で散り散りになってしまった。


 周囲には食残虫(レオフ)が徘徊している危険もある。


 各々の判断で退却しているはずだ。


 援軍に向かえる戦力は限られている。



「くっ、ノクト殿、走れるか?」


「えっ? は、はい!」



 私は、即座にノクト殿と走って退却することを選択する。


 この場で戦力になるのは、このドラゴンのみだ。


 だが、私とノクト殿が騎乗していては、ドラゴンも思うように戦えないだろう。


 であれば、最善の策は、私達が走って退却し、ドラゴンを援軍として向かわせることだ。


 そう思い、決断したまでは良かったのだが、その行動を真っ先に制した者がいた。



 そう、ドラゴンだ。


 

 突如、上体を起こし、大きく息を吸い込み始める。


 私達はドラゴンの突然の行動に、振り落とされないように必死にしがみ付くしかなかった。


 そして、以前経験した光景が頭をよぎった。



「ま、まさか!? み、耳を塞げ!!」


「は、はい!」



 嫌な予感は的中する。


 ドラゴンは上体を戻すと同時に、特大の咆哮を放った。




――ギャォオオオオオオオオ!!




 痛みを伴うほどの大音量が全身を貫く。


 筋肉が硬直し、視界が大きくブレた。


 私達は、その咆哮に意識を飛ばされないよう、必死に耐える。


 耐える。


 耐える。


 咆哮が終わると、キーーーーンという耳鳴りが鳴り響いた。


 ノクト殿が無事かどうか確認の声を上げるが、自分の声すら聞こえない。


 だが、ノクト殿はしっかりと私の背中に掴まっていた。


 良かった。


 安堵で胸をなで下ろす。


 すると、ドラゴンが踵を返して森の奥へと走り始めた。


 戻れと叫ぶが、正しく発音できているのかすら分からない。


 正しく発音できたとしても、ドラゴンは私の言う事など聞かないのだろう。


 少なくとも、このドラゴンは加勢に行く必要がないと判断したのだ。


 もしくは、私達を安全な場所に送ることを優先したのかもしれない。


 近衛騎士団(クイーンズガード)団長である私ですらも、マサトが引き起こす騒動には、お荷物にしかならないらしい。


 その事実に、悔しさが込み上げる。


 それと同時に、マサトを心配する気持ちも湧いた。



「くっ…… どうか、無事で帰ってこい…… 頼む……」



 私は無意識にそう祈っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★ ME挿絵カード(WEB版オリジナル)、pixivにて公開中 ★

★★書籍1〜2巻、発売中!★★
↓の画像をクリックすると詳細が表示されます。
i000000
twitter
更新のお知らせなどをツイートしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ