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119 - 「後家蜘蛛抗争4」


 鉄格子越しに、狐耳の幼な子が、つぎはぎだらけのぬいぐるみを抱きしめながら泣いている。



「こんな小さい子まで……」



 マサトの呟きに、パークスが答える。



「この子は、白鼠色の千里眼マナ・クレアボヤンスと呼ばれる特殊な眼を持つ狐人の娘ですね。眼が片方だけ白鼠色でしょう?」



 幼子の右眼は紅く、左眼は白っぽい灰色をしている。髪色は、暗くて正確にはよく分からないが、恐らく金髪だろう。ところどころに淡い桃色のメッシュが入っている。肌は透き通るように白く、顔はやつれてはいるが、可愛いらしい顔立ちをしていた。


 尚もパークスは続ける。



「視力は殆どないようですが、その代わりに、魔力マナの放流が見えると聞きます」


「だからってこんな小さい子を攫っていいと思ってんのか!?」



 マサトが声を荒げるも、パークスは悲痛な表情をしながら首を振った。


 そして小声でこう言った。



「残念ながら、この子は後家蜘蛛ゴケグモが攫ってきた子ではありません。親から売られた子です」


「なっ……」



 パークスの発言に言葉を失う。



「聞いた話では、その瞳と、両親と異なる髪色から、両親の離婚のきっかけとなってしまったようで…… オッドアイな上に、髪色にも不純の色が混ざっていると、村では忌み子として扱われていました。その結果、実親に売られ、ここへきた訳です。後家蜘蛛ゴケグモは希少な適性持ちを高く買取ますからね。奴隷商人経由ではありますが…… 勿論、本人はこのことを知りません」



 知りたくなかった非情な事実を突き付けられ、マサトは動揺した。


 返す言葉が見当たらない。


 親に売られたことを知らない幼子が、いい子にするからおうちにかえしてと懇願している。


 よくよく見れば、狐耳の幼子の手足はあかぎれのように赤くなっていた。


 この子の言う「いい子にする」というのは、もしかしたら、幼子にとっては重労働すぎる家事や仕事を弱音を吐かずに続けることなのかもしれない。


 実際に見てきたわけでも、そう説明されたわけでもないのに、その子のことを見ているだけで、そう連想してしまう。


 考えてしまう。



「うっ……」



 その子を見るのが辛い。


 助けてあげたいという欲求が、身体の内側で暴れ始める。


 でも、助けて酷な事実を伝えるのか?


 お前は親に売られたんだよ、と。


 無理だ。


 辛すぎる。


 マサトは、その事実から眼を背けるように、視線を伏せ、逃げるようにして先を仰いだ。



「わ、分かった。もういい。先を急ぐぞ。ベルが手遅れになる前に」



 だが、パークスは勝手に説明を続けた。



「この子の名前は、クズといいます。どういう意味か分かりますか? 酷い話です。駄目な子という意味で、親が子にクズと名付けるなんてね」


「くっ……」



 パークスの言葉に、胸が締め付けられる。


 すると、狐人のクズが、追い討ちをかけるように助けを求めた。



「おねがいします。いい子にします。いい子にしますから。だから…… だから、おうちにかえしてください。おかあさんのところに。おかあさんにあいたい…… です……」



 我慢出来なくなったマサトは、クズに駆け寄った。


 そして、目線を合わせるように跪くと、精一杯優しく微笑みながら告げた。



「必ず戻ってきて、君をここから出してあげると約束する。だから、もう少しだけここで待てるかい?」


「は、はい。まてます。いい子でまてます」


「よし、じゃあ少しだけ行ってくる」



 そう言って立ち上がったマサトに、同じ牢に入れられていた女が駆け寄ってきた。



「あ、あたしも助けてくれ! お礼なら何でもする! あたしはここへ拉致られて来たんだ!」



 そう言いながら鉄格子にしがみ付く女性の頭には、茶色い獣耳が生えていた。口からは犬歯が覗いており、とても活発そうな見た目だ。


 すると、他にも助けを求める声が出始めた。


 だが、その中に、助けられたら困ると喚く男もいた。



「お前が後家蜘蛛ゴケグモの奴らを倒したら、家族に金が入らなくなる! 迷惑だ! 帰れ!」



 その男の言葉にマサトが動揺していると、パークスが代わりに返答した。



「あなたは何か勘違いしているようですが、後家蜘蛛ゴケグモが対価として与えるのは、お金ではなく、絶望です」


「な、何だと? 一体何を……」


後家蜘蛛ゴケグモは闇ギルドの一つです。闇ギルドは存在を知る一般人を放置すると思いますか?」


「な、な…… ま、まさか……」


「あなたが家族の前から姿を消したと同時に、家族もこの世から消えているはずです。非常に心苦しいことですが、後家蜘蛛ゴケグモとはそういう組織です」


「あ、あああ……」



 泣き崩れる男。


 和平の心(パシフィストが付与されているパークスの言葉に嘘はないだろう。


 結局は闇ギルドに関わったら最後、弱者は毟り取られるだけの世界なのだ。


 それが嫌であれば自身が強くなるか、強い者に従うしかない。


 そんな非情な現実を改めて痛感したマサトは、捕まっている全員に助け出すことを約束し、先を急ぐのだった。




◇◇◇




 パークスの案内で先へ進むこと数分、地下とは思えない程の巨大な空間に出た。



「ここは…… 土蛙人ゲノーモス・トードの襲撃に合わなかったのか……?」



 ローズヘイムの地下にあるのであれば、地下を掘って攻め込んできた土蛙人ゲノーモス・トードの爪痕が残っているはず。


 だが、それらしき爪痕は確認できなかった。



(さすがにおかしい…… この場所…… 何かが変だ……)



 すると、パークスが大声で叫んだ。



「話し合いに来ました! ここを開けてください!!」


「ばっ!? ばか!!」



和平の心(パシフィストをかけた相手って全部こんな馬鹿みたいな感じになんの!? なんだよ開けてくださいって! 友達の家か!!)



 パークスの背中を蹴り飛ばしたい衝動に駆られたが、そこはぐっと抑えた。今のパークスには悪気がないからだ。余計にタチが悪い……


 すると、突如目の前の大扉がスウッと消えた。


 同時に、周囲の壁も消え、いつの間にか大部屋の中央に二人で立っている状況に変わった。



(な、なんだこれ!?)



 マサトが周囲を警戒しながら、右手の宝剣を強く握りなおす。


 だが、そんなマサトを気に掛ける様子もなく、パークスが前方へ向かって話し始めた。


「穏便に話し合いで解決しましょう。そのためにここへ来ました」



 目の前に灯りがつき、黒と灰色のローブ姿の女が姿を現す。


 そして女達の前には――



「ベル!!」



 ベルが倒れていた。



「くそ!!」



 宝剣から刀身を出し、瞬時に炎の翼ウィングス・オブ・フレイムを展開。


 その場から弾かれるように一気に加速し、一瞬でベルのもとまで駆け寄る。


 女達は、マサトの突然の行動に動揺することなく後ろへ飛び退き、マサトと距離を取った。


 交戦の気配を感じたパークスが、すかさず口をはさむ。



「待ってください! 暴力では何も解決しません! ここは話し合いで解決するべきです!」



 駆け寄ったパークスが、マサトと女達の間に入り、双方に待ったと掌を向けた。


 そのパークスの行動を見た女の一人――黒崖クロガケがくすくすと笑う。



A0エーゼロ。何の冗談だ? いつから宣教師になった」



 黒崖クロガケの問いに答えたのは、その隣に居た灰色のローブを着た女――灰色ハイイロだ。



「あらぁん? パークスちゃん、洗脳されてるのかしらぁん?」


「ほぅ、A0エーゼロを洗脳か。それは確かか?」


「間違いないわん。凄ぉ~く臭うもの」


「そうか……」



 そういうと、黒崖クロガケは不敵に笑った。



「これもマサトの仕業ということか。さぞ良質な適性をたくさん保有しているのだろうな。今からとても楽しみだ」



 黒崖クロガケが手を上げると、マサトを囲うように黒いローブ姿の者達がどこからともなく現れた。



「ちっ、多いな……」



 数十人はいる。もしかしたら百人超えているかもしれない。


 だが、マサトは負ける気がしなかった。



「俺を見くびるなよ」



 そう啖呵を切るマサトに、黒崖クロガケが応じる。



「勿論だとも。油断は命を危険に晒す。私はそんな馬鹿な真似はしない。そうだろ? ベル」


「……は……い」



 黒崖クロガケの呼び掛けに応えたのは、マサトが抱きかかえたベルだった。


 マサトが視線を下ろし、ベルと目が合う。


 ベルの瞳は、以前の綺麗な空色スカイブルーではなく、くすんだ灰色に変わっていた。


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