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ようこそ、最前線の地獄(職場)へ。 私、リナ8歳です ~軍師は囁き、世界は躍りだす~  作者: 輝夜
第十一章:『一年という名の礎』

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間話:『天秤の上の帝国』 276.1

 

 帝都内務省の石壁は夜の冷気を吸い込んでひやりと冷たい。

 アイゼンハルト子爵の執務室だけがランプの灯りを煌々と放ち、眠らぬ意思を示していた。インクの匂いと、とうに冷え切った紅茶の渋い香りが部屋の空気に重く澱んでいる。


 うず高く積まれた紙の山。その頂で、彼の指がある一点でぴたりと止まった。

 北壁の砦へ、経済特区へ。流れ込む莫大な物資と金。その横には、まるで世界の裏側から届いたかのように、疲弊しきった東部農村地帯からの血を吐くような陳情書が無造作に置かれている。

 帳簿の上で数字は雄弁に語っていた。『天翼の軍師』という一つの存在に、帝国の富が異常なまでに集中している。その歪な金の流れが帳簿の上に黒く、濃い染みとなって浮かび上がっていた。

(……異常だ。この一点集中は国家財政として健全ではない。軍師殿の功績は認める。だが、その影で朽ちていく枝葉を放置すれば、いずれ大樹そのものが枯れる……!)


 眠れずに足を踏み入れた資料室の静寂を、背後からの声が破った。

「……天翼の軍師殿のことかね? 止めておけ、アイゼンハルト」

 振り返ると、彼の先輩にあたる老財務官が古狐のように目を細めて立っていた。

「あの方はもはや、我ら官僚が口を挟める存在ではない。皇帝陛下と皇妃陛下、両翼の寵愛を一身に受ける帝国の聖域だ」

「それに、あの方がもたらす利益は計り知れない。王国との和平が国庫にどれほどの余裕を生んだか、君も分かっているだろう? 我らの仕事は、あの方の金の流れを滞りなくすることだけだ」


 だがアイゼンハルトはその「思考停止」に静かな怒りを覚えた。

「利益が出ているから全てが許されるのですか? 我々官僚の務めは、帝国の未来百年の礎を築くこと。目先の利益に目を眩ませ、歪みを放置することではないはずです!」

 彼の若く理想に燃える声に、老財務官は「……青いのう」とだけ呟き、肩をすくめて闇に消えた。


 翌朝。

 朝日が差し込む私室の鏡に映る自分の顔は青白く、だがその瞳には迷いを断ち切った鋼のような決意が宿っていた。

 彼は最も上等な官服に袖を通し、髪を一筋の乱れもなく整える。それは、これから向かう戦場への覚悟の表れだった。もしこの直訴が皇帝の逆鱗に触れれば、自らの未来は絶たれるだろう。だがそれでも言わねばならない。それが帝国に仕える者としての己の信義だと。


 彼は執務室から自らがまとめた詳細な報告書と予算案の対比表を手に取った。そして重い足取りで、しかし決して揺るがぬ歩みで皇帝の執務室へと向かう。廊下の窓から差し込む光が、彼の進む道を一条の筋となって照らし出していた。


なかなかアツい子が居たので、思わずクローズアップですっ。

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― 新着の感想 ―
 今回も楽しく読ませていただきました、これからも楽しくお書きください。  さて、アイゼンハルト子爵、新キャラかな?。当然こういった、国を憂いて善意で忠言する者もでてきますよね。感情ではなく、理屈でもっ…
 輝夜さん、こんにちは。 「ようこそ、最前線の地獄(職場)へ。 私、リナ8歳です 間話:『天秤の上の帝国』 276.1」拝読致しました。  エーレンフェスト子爵。誰だっけ?  本読みの舞台だった気が…
この子とリナちゃんがタッグを組む姿が見てみたいです お体大切にしてくdさあいね
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