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超辺境の領主アローの生活~濡れ衣を着せられ追放されましたが、二人の女神と新生活を送ります~  作者: さとう
第八章・【謝罪の行方】

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70・アロー、アテナの結婚式④

 復讐。それは、報復すること。

 直接加害する場合もある。痛みを与える報復は、多くの復讐者が望むこと。

 復讐に意味はない、という者もいる。

 でも……やはり、やられたらやり返すということは、間違っていない。

 それが、どんな方法であろうと……無自覚であろうと。

 

 ◇◇◇◇◇◇


 リアンは、さすがに「おかしい」と思っていた。


「おかしい……ここまでくると異常なレベルだ」


 マリウス領地。

 人が住んでいる、というのは理解できた。原住民との接触も考えていたし、何かあった場合の護衛や、原住民への贈り物も用意していた。

 未開の地。大した物はないだろうという考えだ。

 アローがいるかもしれない。アローが原住民たちに知識を与え、生活を豊かにしている可能性もあると考えていたが、数年やそこらでできるはずがない。


 リアンたちの馬車は止まり、しっかり整備された街道入口を眺めていた。

 横幅の広い街道は丁寧に慣らされ、立派な柵が設置されている。そして、柵を守るように樹木が植えられていた。

 ルーペが、樹木の葉や経皮、根を採取して調べると、わかったことが一つ。


「こいつは、魔獣が嫌う成分が多く含まれてるね。人間にはわからない、魔獣が嫌う匂いが常時発生している。こう、街道沿いに丁寧に植えれば、魔獣なんて近づかないだろうさ」

「魔獣除けの木……こんなの、聞いたことがない」


 驚くリアン。ルーペは経皮や葉を採取し、持参した小瓶に入れる。

 

「ひひひ、面白い素材を手に入れた。やっぱり、来てよかったよ」

「そんなことより……この街道の先には、やっぱり」

「村だろうね。いや……もしかしたら、街規模かもしれないねぇ」


 横幅の広い街道を見て、ルーペはウンウン唸る。

 実際は、ファウヌースが手名付けた魔獣たちが通るのに道幅を広くしているのだが、『魔獣を手名付ける』という発想は、頭脳明晰なリアンも出ない。


「……とりあえず、進むしかないね」


 馬車は、ゆっくり走り出した。


 ◇◇◇◇◇◇


「なに、これ……」


 リューネは、馬車の窓から『整備された街道』を見て唖然とした。

 マリウス領地は未開の地、というのが世の常識。だが、目の前に広がるのは立派な街道だ。どう見ても、人為的な何かがある。

 それを見て、リューネの心臓が高鳴る。


「……まさか、アロー」


 胸を押さえる。

 まさか、アローがいるのか。

 マリウス領地に追放され、この整備された街道の先にいるのではないか。

 そう考え、リューネはブルリと震えた。

 同様に、モエも震える。


「…………」

「ね、モエ。面白いことがわかったけど、聞きたい?」


 アミーがそっと耳打ちする。 

 リューネ、レイアは窓から外を見ているので気付いていない。

 モエは、アミーをジロっと見る。

 長い付き合いであり、アミーの正体を知るモエではあるが……何年、何十年経過しようと好きになれないという確信があった。


「その、アローだっけ? その子はわからないけど……ここには『いる』わよ」

「……いる?」

「ええ。私と同類の『女神』がね。はぁ~……アテナだったら最悪。ルナだったらもっと最悪ね。アテナは私のこと嫌ってるし、ルナは相性的に最悪だし」

「……女神が、いる?」

「ええ。女神同士にしかわからない『神気』を感じるのよ」

「…………」

「ここ、マリウス領地だっけ? 本来はこんな発展をしていない未開の地なんでしょ? 多分、というか確実にルナが絡んでる。あの子の『幸運』を受けた人間は、あり得ないくらい運が良くなるからね」

「…………」


 女神。

 アミーことアラクシュミーは、『貧困と不幸』を司る。

 アテナは『戦いと断罪』を。

 ルナことフォルトゥーナは『愛と幸運』を。

 その女神が受肉し、地上に降りてきたという話は、アミーから聞いている。最初は信じていなかったが、アミーを傍に置いたサリヴァンが瞬く間に不幸になったのを見て、信じるしかなかった。


「ふふ、本当に楽しみ。ね、モエ」

「……あなたは、どうするのですか?」

「何が?」

「その、女神に会ったらどうするのですか?」

「別に? 私、嫌われてるし、挨拶くらいはするけど」

「…………」

「安心して。あなたから離れることはないわ。今はあなたの不幸の味を、しっかり味わわせてもらうからね」


 そう言い、アミーはレイアの隣へ移動し、窓から外を眺めはじめた。


 ◇◇◇◇◇◇


 それは、『罰』だった。


「おめでとう!!」「おめでとう!!」

「幸せにー!!」「わぁ、素敵!!」


 到着した馬車が見たのは、未開の地とは思えないほど着飾った人たち。

 何が起きているのかはすぐにわかった……結婚式だ。


 現在、馬車はカナンの町の入口に到着し、馬車から降りたリアン、リューネたちが、集落の代表に挨拶すべく、護衛を連れて集落の中心へ向かっていたのだが。


 カナンの町に馬車が到着したのに、誰も気づいてない。

 馬車を降りたリアン、リューネ、レイア、モエ、アミーは、今何が起きているのか理解できなかった。

 見えたのは、拍手喝采を浴びる新郎新婦。


「…………アロー」


 リューネがポツリと呟いた。

 新郎はアローだった。立派な服を着て、笑顔を浮かべている。

 

「…………アロー、様」


 新婦は、リューネたちの存在が霞むくらいの美女だった。

 ドレスを着て化粧をした姿は、おとぎ話の女神にしか見えない。

 祝福を受け、この場にいる誰よりも幸せそうに微笑んでいた。


「アテナ、俺……お前のこと、今以上に幸せにするからな」

「ふふ、そんなの当たり前。ってか、私だって幸せにするし」

「はは、お前ってそういうやつだよな」

「ええ。ふふん……」


 そして、二人はキス。

 カナンはこれまでにない、最高の盛り上がりとなった。

 キスをした二人の元にルナが現れると、アローはルナを抱っこする。

 仲のいい夫婦と、その娘にしか見えなかった。


「「…………」」


 リューネは、いつの間にか涙を流していた。

 決して考えてはいけないことなのに、アテナの姿を自分に重ねてしまい、絶望していた。

 モエも、気持ちがぐちゃぐちゃになり、何も考えられなくなっていた。

 レイアは首を傾げ、とりあえず拍手。アミーは……。


「アテナに、ルナ……ふぅん、幸せそうにしちゃって。ふふ、いろいろお話しなきゃねぇ」


 どこか怪しそうに微笑んでいた。


 ◇◇◇◇◇◇


 復讐。

 それは、報復をすること。

 直接加害する場合もある。痛みを与える報復は、多くの復讐者が望むこと。


 だが……最も効果的で、残酷な復讐。


 それは、『復讐相手より幸せになる』こと。


 奇しくもアローは、人生で一番幸せな瞬間を、かつての婚約者に見せつけるという方法を取っていた。


 この幸せがルナによる幸運なのか、この復讐がルナの幸運によってもたらされたものなのか? それは、誰にもわからない。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] この幸せがルナによる幸運なのか、この復讐がルナの幸運によってもたらされたものなのか? それは、誰にもわからない。 この一文が、なんか、自分の語彙では表せないんですがここまで出かかって…
[一言] アローが生きてた事を喜ぶよりも結婚式を見て絶望するあたりこの女達救えないな・・・ 未だにワンチャンあるって思ってた証左だし。 裏切られた直後のアローなら兎も角、今のアローなら女達にあっても復…
2023/10/06 23:08 退会済み
管理
[一言] 女達はこの光景を見た後で本来の目的である謝罪をちゃんと出来るのかな? しかし折角結婚式で幸せの絶頂にいるのに、直ぐ後に憎い女達の顔見て今の幸せな気持ちに冷水ぶっかけられるアローも気の毒にな。…
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