表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
捨てられた大聖女はエルフから溺愛されて自国に舞い戻る  作者: 竹輪㋠


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/49

エピローグ

「立派な神殿ですねぇ。ここに八十年ほど前に消えた神の国、ロッド王国があったのですね」

「ええ。足元を焼かれてしまいましたが、ガトルーシャヘイブラロ神の像が中央奥に設置されています」

「どうしてこんなに完璧な神の像の足元が焼かれたんですか?」

「一説によると悪魔が神の足元に巻き付いたためにそれを取り去るために焼かれたと言われています。でもまあ、レリア国が攻め入った時に脅しのために焼いたという説もありますね」

「そうなのですねぇ。こんなに歴史的価値のある美しい像なのにもったいない。これだから信仰心のない国ってのは……」

「ははは……あまり大きな声は控えてください。ここも今はレリア国ですから」


 この地で生まれた僕は聖地にある神殿の案内を時々ボランティアでしている。

 今日は父の仕事でのつながりがある遠く東の国から来たという、歴史学者のパーパーさんを案内していた。

 彼は興味深く彫刻や建物構造を眺め、興奮しながらそれをメモに取っていた。

 祖父母は商人で元ロッド国民だ。

 なので代々ガトルーシャヘイブラロ神への信仰も厚い家系である。


 パーパーさんは素晴らしい建造物や彫刻を破壊した人に憤りを感じているようで、ぷりぷりと怒りながら僕の説明を聞いていた。


「そういえば首を切られた恨みで大聖女が蘇って各地の教会を焼いて回ったという話は本当なのですか? あれもレリア国がでたらめな話で信者の心を削ぐためにやったのではありませんか? まったくなんてことをしてくれたんだ」

「それは……」


 大聖女の話を出されて、僕はこの人をどう説得しようかと考えた。

 僕の一族の中では大聖女は『悪女』なんかじゃない。もっとも尊い聖女だ。

 きっと各地の教会を焼いたのには訳がある。

 その証拠に各地の教会が焼かれても神の像はどこも無事に残されてあるのだ。

 僕はガトルーシャヘイブラロ神の信者であるけれど、足元を燃やされたところで神の価値に問題はないと思っていた。そんなことがあっても神の像は十分美しいし、像は像であって、神が尊いことには変わらないと思っているからだ。

 それよりも戦火を潜り抜け、なお美しくそびえたつ像が魅力的に見えていた。


「各地の神の像の足元にも人の命を吸う悪魔がいたのですよ」

 そのとき、後方から僕たちに声をかけるご婦人がいた。

 その人は長く美しい黒髪を携えていて、隣には銀髪の美しい男性もいた。

 二人は夫婦なのだろう、その距離感が親密さを物語っていた。

 なんて美しいカップルなんだろうと息をのんでいると、隣のパーパーさんも固まっていた。


 彼女は花束を抱えていた。

 そういえば年に一度決まった日に聖女が眠っている場所に花を手向ける人がいると聞いたことがあった。不思議なもので、話しかけてもその人物のことはみんなあやふやで忘れてしまうのだ。


「レリア国はロッド国から聖女を救ってくれたのです。悪く言わないでくださいね」

 にっこりと笑うその人になぜか胸が締め付けられて、思わずその足元に跪きたくなった。

 けれど、ただ眺めるだけしかできなくて、二人が通りすぎていくのを目で追ってしまった。


「フィネルドくん、今の二人は誰なの?」

「いや、僕も知らないです」

「知らないって……絶対只者ではないよね。レリア国の大貴族かな。え? なんで泣いてるの?」

「……わかりません」


 なぜか、僕は泣いていた。

 そしてぼんやりと僕の名づけをした祖父の言葉を思い出していた。


 フィネルドの名は大聖女フィーネ様にあやかってつけた名だ。フィーネ様は素晴らしい心根の持ち主で、私の命を救った神の使いだった。

 我が家は決して彼女のことを『大悪女』と呼ぶことは許さない。

 誰もがそう信じていても、この血統が続く限り、家族には本当の大聖女はフィーネ様だったと伝えなさい。


 と。

 なんらかの意図があるようで、祖父母は大悪女と伝えられるフィーネ様を表立って否定することはしなかった。外で誰が『悪女』として口にしても諭すこともないし、黙って聞き流すことしかしなかった。

 けれど、家の中では悪口を言おうものなら、きつく叱られた。

 それは神も冒涜することだと。そして決まって神の書の一節を読み聞かされるのだった。



 かつて稀有な治癒能力を持つ聖女がいた幻の国があった。

 人間を地上に生み出したとされるガトルーシャヘイブラロ神はその地に人々を癒す『使い』を送った。

 心痛めた者も。

 体を傷つけた者も。

 病気の者も。

 心休まるように。優しい気持ちを持つように。

 しかし神の意思とは違い、『使い』たちはやがて人々に利用され、命を搾取されるようになってしまった。

 ガトルーシャヘイブラロ神は嘆き、自らの髪を切り落とすと特別な黒髪の『使い』をその地に送った。

 やがて大聖女と呼ばれた彼女は『神の使い』たちを救ったと伝えられている。


 ーー新『神の書』 ~第八章神ガトルーシャヘイブラロの黒い使い~より抜粋


これにて完結です!

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

私事ですが、今日誕生日でして……(笑)

そんな日に物語を結ぶことが出来て嬉しいです。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] お疲れ様でした!ムーンの方で愛読させていただいておりましたが、こちらでも十分読み応えのあるお話で嬉しいです。またなろうでも書いてくださいね。そしてお誕生日おめでとうございます❤️
[良い点] ランキングで見つけて読んでましたが、完結おめでとうございます! 毎日更新に切り替わってからは1話しか読めないのが物足りなかったですが(笑)、最後まで読めて楽しかったです^^ [一言] お誕…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ