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捨てられた大聖女はエルフから溺愛されて自国に舞い戻る  作者: 竹輪㋠


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大切なあなた

「ヴィクタ、聖女の研究施設も焼いてもいいですか? あの、レリアの魔術師団が悪い研究をするとは思っていませんけれど」

「いや、焼いてしまえばいいだろう。大魔術師からも資料を残すようにとは聞いていない。キーラがしていたのは人道的な研究だったとは思えないしな」

 ヴィクタはすぐに施設にも火を放った。

 施設には見るもおぞましいものが沢山保管されていたようだ。


 誰かの命を犠牲にするような研究はしてはいけない。

 人の尊厳を保ち治癒力を研究することはレリアの魔術師たちに託せばいい。


 キーラの遺体は棺に納めてもらった。

 私は首に彼女が持っていた刺繍入りのハンカチをかけた。その顔は私が知っている神殿長ではなかったけれど、とても穏やかな顔をしていた。

 隷属の首輪はヴィクタが処分した。それはあらゆる行動が制限されるように巧妙に作られていたようで、とてもおぞましいものだったようだ。

「キーラが愛した王弟が眠るロッドの地がいいだろうか」

 ヴィクタが遺体をどうするか私に相談してきたが、裏切られてひどい目に遭っている彼女の気持ちになって考えるとそれは望んでいない気がした。

「そんな、クソ男と一緒に埋められたいわけないでしょ!」

 とアテナの意見も聞いて、キーラの遺体はエルフの国に持ち帰って墓地に埋めることになった。ちなみに何人かの女性陣に聞いてみたが、みんな同じ意見だった。


 テントに戻り、私たちはレリア国に入る準備をした。

 モモは疲れたのか糸が切れたように倒れて眠ってしまった。怖い目に遭ったのだから無理もない。

「さあ、後のことはレリア国に任せればいいわ。だから、あなたたちも薬を服用するのよ」

 私がそう諭すとララとルルは私の手を取って、そこにあった擦り傷を治した。

「なっ! こんなことに使うなんて!」

 気持ちは嬉しいが、生命力を少しでも使ってほしくなかった私は二人を叱った。

「モモには内緒ですよ。最後に、フィーネ様の傷を治したと誇りに思いたかったのです」

 そんなことを言う二人に私はそれ以上はなにも言えなかった。


 次の日にはレリア国に向かい、聖女たちは魔術師の管理下に置かれて暮らすことになった。

 魔術師団が用意してくれていた施設は立派なお屋敷で、みんな顔を輝かせて喜んだ。

 基本的にコアの研究に協力するだけで、勉強をしたり、得意なものを生かしたり、外で働くことも支援してもらえることになった。

 もともと共同生活は慣れているので問題もなく、みんな仲良く暮らしせている。

 子供を聖女にしてしまった親が引き取りを要請してくるかと思ったが、お金を返却しないといけないと思ったのか結局音沙汰はなかった。


 ララとルルとモモの三人はレリア国にあるドム公爵の屋敷で不在の多い私のメイドとして働いている。

 私は主にヴィクタとエルフの国で過ごしていたが、聖女たちの様子を見に頻繁にレリア国にも顔を出した。


 ロッド国家は解体され、その地はガトルーシャヘイブラロ神の聖地としてだけ残った。

 とりあえず今はレリア国がその土地を統治している。


 土地に残る人々は後世に名が残る大悪女の所業を口々に語った。

「大聖女だった悪女は首を切られた恨みで国に戻り、真っ黒な衣装で各地の教会を焼いた。

 それにも飽き足らず、聖女をすべて国から追い出し、二度と聖女を生まれさせない呪いをかけてしまった」と。


 しかし、一部では

 ガトルーシャヘイブラロ神は大聖女を黄泉の国から呼び戻して、腐敗した王家に制裁を加えたと伝えられている。その説では彼女は黒翼の神の使いだったともいわれる。

 相反する言い伝えはだが、もう聖女が現れることが無いことだけは共通して伝えられた。


「噂をそのままにしてよかったのか?」

 エルフの国に戻ってから私はヴィクタにそんなことを言われた。

「構いませんよ。私は『悪女』としてあの国に戻ったのですから。今後、聖女を担ぎ上げて利用する者が出てこないように、うんと恐ろしい話として語り繋いでもらわないといけません」

「確かにロッド国の元貴族たちは震えあがっているようだが」

「自分たちの首が狙われないかと恐れているうちは、聖女を復活させようなんてしないでしょう」

「けれど、フィーが悪く言われているのだと思うと気分が悪い」

 口をとがらせるヴィクタの唇に私は自分の人差し指をのせた。

「それです。もう私は大聖女でも、大悪女でもありません。ただの『フィー』です。ですから平気です」

「私以外に『フィー』とは呼ばせないぞ」

 おかしなヴィクタの返答に思わず笑みをこぼしてしまう。

「大切な人が私を理解してくれるのだから、平気なんです」

 すぐに思い浮かぶのは大切な姉妹たち。

 そして、一番私を大切に思ってくれる目の前の……。


「フィーがそう言うなら……」

「ふふ。ヴィクタ、キスしてくださいますか?」

 少しすねたような彼におねだりすると頬が緩んだ。

「ああ、好きなだけいいぞ」


 美しい、私だけのエルフ。

 ヴィクタが私の全てを塗り替えてしまった。

 きっと彼は私が聖女でも悪女でも、どうでもいいに違いない。


 ヴィクタが私の側にいてくれるから。

 少しでも長く彼と一緒にいるために自分を大切にできる。


 ヴィクタが私を褒めてくれるから。

 私は自分のことを好きでいられるのだ。









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