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捨てられた大聖女はエルフから溺愛されて自国に舞い戻る  作者: 竹輪㋠


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聖女奪還

 体が宙に浮いている。

 雷の魔法で羽のようなものを生やしたアーノルドが私を掴んでいるのだ。こんなこともできるのか。

「逃げた聖女を呼び戻せ!」

 ぎりぎりと首に回された腕で首が締まる。なんとか逃れようと足をばたつかせたが、びくともしない。

「ぐぅ……あ、あなたのこと、大……嫌いだったわ。今は殺してやり……たい」

 言ってやりたい言葉はたくさんあった。でも、一番言いたかったことを言って、私の首に回っていた腕を火の魔法で焼いた。

「うわっ」

 肉の焼ける匂いがした。簡単に炎で焼かれたのは治癒しかしてこなかった私が、まさか自分を傷つけるなんて思ってもみなかったのだろう。

 アーノルドは慌てて片手を離したが私を離しはしなかった。さすが痛みには慣れているようだ。

 その時、後方で神殿の方からも火の手が上がった。

「くそっ! 聖女を逃がすことが目的だったんだな」

 アーノルドが唸りながら睨んだ。私はそれをひるまず睨み返した。

「聖女はあなたの道具じゃないわ」

「その目、いつも俺のことをどこか嫌悪していたよな。そうだった、お前はどこまでも人の為に尽くす女だ。そんなのが自分の恨みのために戻ってくるわけがない」

 互いに好きであったわけではない。けれどある種の理解はあったのだろう。

 もう思い通りになったりしない。


「……地獄に落ちればいいわ」

「ぎゃあああああっ!」

 アーノルドが炎に包まれる。その熱さに残っていた腕を離したアーノルドに放り出されて体が下に落ちる。

 しかし私は風の魔法を使って自らの身が助かることよりもアーノルドに炎の魔法をぶつけることを選んだ。この男だけは聖女を追わせてはならない。

 そのまま追撃して炎の球を放つ。

「覚えていろ! 必ず、やり返してやる。能力値の高い聖女はまだこちらの手にあるんだ。カスみたいな聖女たちなど、くれてやるっ!」

 アーノルドが吼えて、後方に落ちて行った。

 私の命と引き換えに治したその体……。

 きっとまたジェシカが治癒してしまうだろう。

 なにもかもが忌々しい。

 ああ、ダメだ……間に合わない。私も下に落ちる……。衝撃に備えて目をつぶると誰かに腕をとられた。


「フィー!」

 あ、と思った時には引き寄せられて抱きしめられた。そのまま、ぶわり、と風が巻き起こって体が上昇する。その頼もしい胸に抱かれて心の底から安堵した。

「ヴィクタ……」

 彼はそのまま私を抱えてグライダーを操作した。きっとヴィクタは私を助けようと様子を見てくれていたのだろう。

「まったく、無茶をするな……」

 顔を上げるとアニーもテイラーに引き上げてもらったのか、一緒にグライダーにのっていた。無事でよかった。

「敵は振り切れたのですか?」

「戦っている場合じゃなくなったからな」

 アーノルドが落ちたことで、親衛隊たちもそちらを助けに向かったようだった。

「アーノルドを、燃やしてやりました」

「そうか。よくやった」

 私が震えていることはきっとヴィクタには伝わっていただろうに、それには触れず褒めてくれた。

 一矢報いたことに気持ちは高ぶっていたが、同時にアーノルドに対する恐怖もまた残っていた。

 自分の心の黒い部分が顔を出して本気で殺してやりたいとまで思ってしまった。

 そんな自分のことも怖くなる。

 私を掴んでくれている腕にぎゅっと抱き着く。

 そうだ、私が一番にしなくてはいけないのは復讐ではない。

 私はヴィクタの温もりに心を落ち着かせて目を閉じた。

 なんとか、アーノルドの手から逃れて王宮を脱出できた……。

 後はモモたちを救う……。

 きっとそれをやり遂げてみせる。


 ***


 グライダーでレリア軍の陣営に着いた私はヴィクタの大きな手に励まされて聖女たちの所へ向かった。

「ヴィクタールさま! フィーネ様! 聖女奪還やりましたな。話はざっと先に着いたヨナサンから聞きました。先発部隊はもうすでに王宮に入ってシールドを使えないようにしています」

 将軍が手を上げて私たちを迎え入れてくれる。ヴィクタは握手をしてから現状を報告した。

「だが、まだ二十四名聖女が残っている」

「おまかせください。ここからは私が交渉いたしましょう」

「あの、将軍」

「おお、これはこれは、真っ黒もお似合いですね。ええと……ブラックローズ様」

 おどけて将軍が言うのに少し心が軽くなった。

「残った聖女は動けない状態です」

「わかっています、早期解決を目指しましょう。これだけの大軍を目の前にロッドは聖女たちを渡すしかないでしょう」

 頼もしい言葉に感謝して、他にも確認をしようとするとヴィクタに腰を取られた。

「フィー、聖女たちのテントに行ってやれ」

 促されて急いでテントに向かうとそこには聖女たちが集められていた。


「ブラックローズ様!」

「もう、ここではフィーネでいいわよ」

「フィーネ様!」

「フィーネ様!」

 口々にみんなが私の名を呼んで集まってくる。私は順番にみんなの頭を撫で、抱擁した。

「ライラたちが、儀式を……!」

「ええ、見たわ、必ず、助けるから」

「うう。ううううっ」

「大丈夫よ、ほら、私が来たじゃない」

「うわああああん」

「泣かないの。小さな妹たちが困るわ。それに時間がない。情報をちょうだい。残った聖女はどこにやられたか知ってる?」

「神殿長が王宮の方に連れて行ったんです」

「王宮へ?」

「大聖女様がいなくなってからの神殿長はおかしな行動ばかりなんです」

「二度目でみんなあんなに苦しんだのに、神のお告げだって、ライラたちにまた儀式を」

「待って……儀式はこの間の一度だけではないの?」

「一年前にもしたんです。アーノルドさまが神殿に乗り込んできて、聖女の力が足りないって……もっと治癒できないと戦えないって、その時は十歳以上はみんな受けました」

「そんな……一度でも辛い儀式なのに」

「神殿長も止めようとしてくれなくて。ジェシカ様にも頼んだけど……聞く耳を持ってくれなくて。大聖女を名乗ってもジェシカ様だけは儀式もせずにいつも見て見ぬふりでした」

 怒りに目の裏が熱くなる。こんなの、あんまりだ。


「いい、みんな、落ち着いて聞いてね。治癒の力はね、自分の命を相手に分け与えるものなの。だから、使うと寿命を縮めてしまうの」

 私が静かに説明すると少しざわついた後、聖女たちが青ざめた。それでも騒ぎ出すものはいなかった。

「だから、治癒の能力は使えないようにする方がいいと思います。その方法は体にしみ込んだ毒素を出すことなのだけど、儀式を受けた十歳以上の聖女は今から持ってくる薬を半年ほど飲み続ける必要があるわ」

「そうしたら……治癒の力はどうなるのですか?」

「使えなくなります。簡単な癒しの力は使えるかもしれないけれど、命を脅かすこともなくなるのよ。私を信用できますか? できないなら、薬を飲むのは先延ばしにしてもいいのよ」

 私が説明するとみんな顔を見合わせてから私を見た。

「フィーネ様を信じます」

「私も」

「私も」

「みんな、ありがとう。では配るわね」

 さっそくアテナが作ってくれた薬をアニーが持ってきてくれた。端から配っていくと最後にララとルルが立っていて薬を受け取らなかった。

「どうしたの? やめておきますか?」

 この二人が拒否するのはショックだけれども、強要することはできない。すると二人には違う意図があるようだった。


「治癒力の序列で私とルルは三回目の儀式を免れることが出来ましたが、この中では治癒力が高いです。だから、フィーネ様の役に立つと思います。モモたちを救うまで何があるかわかりませんので私たちは薬は飲みません」

「なにを言っているのかわかっていますか?」

「わかっています。……今までどんなにフィーネ様が命を削ってきたか」

「アーノルドさまが無理を言うときも私たちの代わりに、体が辛くても治癒力を使ってくださいました。ずっと守られていたって、フィーネ様がいなくなって、はっきりとわかりました。でも、私たち、フィーネ様の命を削っているとは知らずに……」

「恩返しさせてください。今ならフィーネ様を治癒することもできますよね⁉」

 私の指の傷を治したララが私をまっすぐに見た。

「あのね、私はエルフの国で助けてもらってもう短命ではないの。ほら、健康そのものでしょう? あなたたちよりもずっと長生きできるわ。だから、気にしなくていいのよ」

「フィーネ様……」

「馬鹿なことを言わないで二人も飲みなさい」

 しかし、二人は首を横に振る。モモたちを助けられたら後でゆっくりと説明すればいいか。このかわいらしい頑固者たちを今説得できる自信はない。


「あなたたちのおかげで私は生きているのよ。あの時、逃してくれなかったら、私はここにはいなかったわ」

 そう言ってララとルルを抱きしめた。感謝してもしきれない。私の姉妹たち。

「だから、私の恩人はあなたたちなのよ」

「フィ、フィーネ様……!」

 ララとルルは泣き出してしまった。どんなに今まで心細かっただろう……。

「大丈夫、レリア軍の将軍がきっと話をつけてくださるから」

 私は二人を抱きしめて、自分に言い聞かせるようにそう声をかけた。

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