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捨てられた大聖女はエルフから溺愛されて自国に舞い戻る  作者: 竹輪㋠


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作戦決行1

 見るとヴィクタはぎゅっと目を閉じていた。

 同族を大切にする彼らはたとえ追放したとしてもエルフがこの件に関与していることは認めたくなかっただろう。

「……エルフの国の記憶は完璧に消されているのか? ロッド国の王太子にエルフの国の侵入方法が知られるとエルフが危ない」

「それは大丈夫なはずよ。でも、念のためにこちらも対策を練るわ」

「そうしてくれ。他にキーラの情報は?」

「外見は白金色の長髪にブルーの瞳。国にいた時は大人しい人だったって。エルフの国を出ていたのは魔獣の研究をしていたそうで、毒にも詳しかったって聞いたわ」

「……はあ。間違いなさそうだな」

「時間だから通信は切るけど、またなにかわかったら連絡するわ」

「ありがとう、くれぐれも気をつけてくれ」

 ブツ、っと通信が切れると私たちは無言になった。

 エルフのキーラ。毒に詳しいとなれば神殿長の正体がキーラでもおかしくない。けれど、どうしてロッド国の王族のいいなりになっているのだろう? 手際が良すぎたヴィクタの動きを封じた釘……。もしかしてそれもキーラが研究して作った?

「アーノルド王子は私を捕まえた時、ロッド国に帰ったら『特注で作った首輪をかけてやる』と言っていた。キーラの首にそれがかかっているなら、それも納得できる」

 私は詳しくはないが、ロッド国王は魔法の研究に力を入れている。王宮の地下に施設があると聞いたことがあった。

 ふと、キーラの容姿にひっかかるものがあった。

「もしかして、アーノルドがエルフに憧れを持っていたのは、その姿を見たことがあるからでしょうか。白金色にブルーの瞳……まるでジェシカと同じです」

「そうかもしれないな」

 いつからアーノルドはエルフの話をするようになっただろう。幼いころはそんなことはなかったように思える。ジェシカの容姿を褒めだしたのは確か十五歳……。戦場に向かうアーノルドに祈りを捧げる儀式を行った後だった。

「地味なフィーネより、あの白金色の聖女がいい」

 わがままを言い出したアーノルドにあの時神殿長は苦笑していた。

「あなたの婚約者は大聖女であるフィーネです。以後口は謹んでください」

「俺は美しいものが好きなんだ……髪は白金色がいい。それなら我慢する」

 そのままアーノルドは神殿長を見ていた。ヤレヤレと聞いていた私はなにを我慢するんだと思ったけれど……。

 もしも、なんらかのタイミングでロッド国がエルフの捕獲に成功していて……エルフを代々従えさせていたとしたら?

 きっと神殿長を装っているとしたら現王が首輪の所有者なはずだ。だからアーノルドは『自分だけのエルフ』をあんなに切望しているのではないだろうか。そういえば王妃も白金の髪にブルーの瞳をしている。

「どうした、フィー」

 考えると恐ろしい。思わず隣のヴィクタの腕を掴んでしまった。

「神殿長が何者か、確かめないと」

「そうだな。聖女の救出と共に動こう……大丈夫か?」

 私を心配するヴィクタの顔も青かった。そうだ、きっとヴィクタだってショックだったはずだ。

 それから数日間、私たちは聖女を救うため、いろいろな策を講じた。


 そうしていよいよ二度目に王宮に呼ばれる日が来た。

 私たちはこの日に行動を起こせる準備をしていた。できれば神殿に侵入して今日は聖女たちに話をして、後日逃亡する、が理想だけれどアーノルドがどう出るかはわからない。

 あれだけ噂になっているのだから教会を燃やしたのも私だと感づいているだろう。なにより、アーノルドより先に行動を起こさなければならない。


 案内されて前回と同じ部屋に入った。部屋の中にはアーノルドと側近だけでなく、ジェシカが座っていた。ヴィクタが見えないように私の手をぎゅ、ぎゅ、と二回握った。

 私は軽く頷いてからジェシカに体を向けて挨拶した。

「ごきげんよう、王太子妃殿下」

「ごきげんよう、ブラックローズ様」

 なんのために座らせているのか、警戒する。しかし動揺は見せてはいけない。

「ジェシカがどうしてもブラックローズと話がしたいと言ってな。――どうやら君が『大聖女フィーネ』だと疑っているらしい」

 そんなことを言い出したアーノルドの真意を探る。そう思って当然なのだ。彼はジェシカを使って私を大聖女だと確認するつもりなのだろうか。ジェシカを揺さぶるしかない。

「あら。王太子妃殿下はどうしてそう思うのかしら」

 ニヤ、とフィーネが見せなかった顔で笑いかける。そんな私にジェシカは少しひるんでいた。

「わ、私にはわかるのです。あなたが、フィーネ様だってこと……」

「……大聖女フィーネは首を切られてレリア国に送られたのでしょう? ここに居るのがフィーネなら大問題ではなくて? 軽々しく言っていいお話ではないと思いますけれど」

 余裕をたっぷりといったふうにジェシカを見る。こんなに強気に来られるとは思ってはいないだろう。ついでに、ふふふ、と笑ってあげた。

「そ、それはっ」

「レリア国が偽物を送られたと知れば、これまで以上にロッド国は責められるでしょうね。まあ、なんて国を揺るがすスキャンダルなんでしょう」

 部屋に緊迫した空気が流れた。ジェシカはだらだらと汗を流している。軽率なことを言ったと後悔した方がいい。

「まあまあ、この部屋だけのちょっとしたお遊びさ。似ているからそう思ってしまうのだから許してやってくれ」

 黙って見ていたアーノルドが口をはさんだ。そのことでジェシカがわずかに落ち着きを取り戻した。

「気持ちのいいお遊びではございませんね」

 私が抗議するとアーノルドはへらへらと笑った。

「……しかし、俺も少し思うことがあってな。おい、連れてこい」

 アーノルドが指示すると奥の扉が開いた。

 入ってきた人物に私はヴィクタと顔を見合わせた。


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