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捨てられた大聖女はエルフから溺愛されて自国に舞い戻る  作者: 竹輪㋠


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一方的な再会2

 聖女たちはまた儀式を受けさせられていた。

 嫌な予感しかしない。なんとかしないと、なんとか……。

 泣くんじゃない。あの子たちを助けられるのは私しかいない。ここで、なにもかもダメにするわけにはいかない。弱い私ではいけない。

 もつれそうな足を前に出して東屋に戻ると、アニーが慌てて私を着替えさせた。

「もうすぐ侍女が戻ってきます。急いでください」

 あからさまになにかあったと言う顔をしていたようでアニーが心配している。落ち着かないと……。役回りを忘れてはヴィクタやアニーたちも危険になる。


「お待たせいたしました。茶葉が見つからず……ゴルチィーナ産のものではいかがでしょうか」

 目の前に出されたカップ。茶葉がなかなか手に入らないのは当たり前だ。私はわざと王妃のお気に入りの茶葉の銘柄と、催事の時にしか出さない最高級の茶器を指定した。侍女がそれを融通してもらうのに苦労することを見越していたのだ。

「あら、客人に茶葉を分けることもできないのね」

「え?」

「王妃殿下が独占して仕入れているって聞いていたから分けてくださるかと思ったのに」

「す……すみません。あの、お、王妃殿下は……」

 私が知っていることに侍女があからさまに言いよどむ。

 アーノルドの母親でもある王妃は王の人形のようにいつも隣にいるだけだ。ふわふわしていて、ドレスと娯楽にしか興味がない。神の国ロッドに嫁いだのに信心深くもない。余程ロッド国の王家の好みは一致しているのか彼女も白金色の髪にブルーの瞳をしていた。

 ここで少しでも岩塩を譲ってもらうという考えがあれば私に茶葉を快く譲っただろう。けれど私は彼女がお気に入りの茶葉を譲らないことがわかっていた。彼女は自分のことにしか興味はないのだ。

「気分が悪いわ。下げてちょうだい」

「す、すみません」

 どのみちあんな光景を見て、お茶など飲む気にはなれない。早く、聖女たちのことをヴィクタに相談したかった。

 気難しい顔でカップを眺めていると侍女は泣きそうな顔をして頭を下げたままだ。

 その時、向こうからヴィクタが現れた。彼はすぐに私の側にきてくれる。

 心底それにホッとして声をかける。

「交渉はうまくいったの?」

「さあ、王太子様はまだご不満のようでしたけれど」

 その言葉に安堵する。どうやらまた王宮に呼ばれるように話ができたようだ。

「では、帰りましょう。気分が悪いの」

 なにも手をつけなかった私に侍女が青ざめていた。私はツンとしたまま、ヴィクタの手を取って馬車に向かった。時間稼ぎのためにあの侍女にはかわいそうなことをしたが、わがまま放題の姿を見せていたので特に怒られることはないだろう。


「……なにか、あったのか」

 ヴィクタは私の異変に気づくと馬車に乗り込んですぐに聞いてくれた。

「聖女たちが儀式を行っていました。おそらく……力をもっと引きだすために」

 あの異様な様子。吐き気すらしたきつい香り。ヴィクタにも嗅いでもらおうと私は白い法衣を差し出した。

「これは……」

「なんの香りかわかりますか?」

「おそらく、麻薬だな。儀式のときにはいつもこの香りを?」

「そうです。今思えば……痛みを麻痺させるために香を焚いていたのですね。一度でも辛い儀式なのに」

 皆、うつろな目をして蹲っていた。神の目の前で愛し子たちを痛めつけて、許されると思っているのだろうか。強く握りすぎた手は血の気を失っている。

「……また戦争を起こすつもりなのかもしれないな」

 ヴィクタの言葉に顔を上げる。そう考えるのが自然だろう。

「そのために聖女たちを……」

「こちらも入念にロッド国をつぶす準備を整えてきたのだ。ロッド国が動く前にケリをつけて聖女たちを助けよう」

「早く……あの子たちを救わないと。来月は十歳の聖女の儀式と赤子の聖女認定式もあります」

「大丈夫だ、フィー。それをさせないために私たちは用意してきたのだから」

「……そう、ですね」

 ヴィクタが震えてきた私の手を握ってくれた。なんとしても儀式を止めてこれ以上の被害者が出ないようにしないと。

「……私がいる。皆協力してくれている。お前の大切な姉妹たちを救える。ブラックローズはそれをやり遂げる」

 そうだ。

 私はブラックローズだ。

 そのために一年間頑張ってきた。聖女たちを救い、この恐ろしいシステムを壊すために死の淵からよみがえったのだ。

 ロッド国で言いなりに生きてきた大聖女はもう死んだ。


「ごめんなさい、ヴィクタ。弱気になってました。ワイル様にもメンタルを強く持ってくださいと言われていたのに」

「フィーならできる」

「ロッド国に……王家と神殿長にとって稀代の悪女になってみせます」

 私の言葉にヴィクタは微笑んでくれた


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