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捨てられた大聖女はエルフから溺愛されて自国に舞い戻る  作者: 竹輪㋠


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会議とおねだり

「緊張しなくていい。エルフの国が認めた者はレリア国の友である」


 レリア国王との謁見は広間ではなく会議室で行われた。

 すぐに話し合いをすることになっているようだ。

 私は隣のヴィクタに座ったままでいいと言われ、そのまま国王に頭を下げた。

「ロッド国で大聖女をしていました。フィーネです」

 私が自己紹介すると、みんなが私を観察しているのがわかった。

 アーノルドがどこまで噂を流したのかは知らないが、レリア国にとって私は首を差しだせというほどの大悪人なのだ。

 緊張して様子を窺っていると国王が口を開いた。


「こんな可愛らしい聖女を悪女に仕立て上げて、罪をかぶせるつもりだったのか」

 どうやらここにいる人たちは私に悪意はないようで、国王の言葉にウンウンと頷き合っていた。ぽかんとして聞いていた私を見て国王の隣の男が言葉を続けた。

「私は宰相を務めていますワイルです。お見知りおきをフィーネ様。まずはご回復を心よりお喜び申し上げます。あなたの話はすでにヴィクタール様に報告を受けています。しかも、妻になったとか。エルフがそこまで受け入れる人物が悪女であるわけがありません」

 もしかしてヴィクタは信用してもらうためにも私と結婚してくれたのだろうか。そう思って彼を見ると、私が考えていたことがわかったのか眉間に皺を寄せて『違う、愛しているからだ』と小さな声で投げやりに言われた。

 こんなところで言わせてしまって私の方が赤面だった。


 簡単に会議室に集まった人達の紹介があった。国王と宰相のワイルを初め、将軍、副将軍、大魔術師、財政管理者などそうそうたるメンバーだった。

「さて、ロッド国は未だレリアの国境をうろつき、エルフ族を狙っているようです。先日も仕掛けていたトラップが数個破壊されたと報告を受けています」

 ロッド国を今後どうするかという問題で話し合うようだ。私はヴィクタにロッド国の現状を聞いてみた。

「ヴィクタ、ロッド国は結局レリアに何か譲歩したのですか?」

「ロッドは平和条約を結びたかったようだが、条件は五体満足のエルフと大聖女の首だ。どちらも差しだせなかったのだからそもそも無理だな」

「でも偽物の大聖女の首は届いたのでしょう?」

「それと北の大地を差し出すことで、戦争を吹っ掛けたことをなかったことにしたかったらしい。舐められたものだ。無論、レリア国は納得しない。今、塩の輸入を止めて経済制裁を行っているが、ロッド国が大人しくしそうもないから、この会議で話し合う、という流れだな」

「どうにかエルフ族を捕まえたいなんて、アーノルドは病気のようなものです」

 そして、あの国は私にとって神の国ではないのだ。

「エルフを利用したいのかもしれないな」

「まさか……聖女のように」

「もともと急成長した国だから、なにかあると感じている。だから……」


「ヴィクタール様が名乗り出てくださった」

 そこでヴィクタの名が出たので、私とヴィクタは宰相の方に顔を向けた。ロッド国に彼が潜入する話をしているのだろう。

「塩の交渉に有利だというクアント国の貴族に扮してもらうつもりだ。もう身分も偽の証明書も用意している」

「しかし、急に新参者が現れたらロッド国の貴族も怪しむだろう?」

「確かにヴィクタール様は他の者よりロッド国に詳しいかもしれないが、内部の人間をもっと知る人物と繋ぎをつけてからの方がいいのではないか? 相手はエルフの捕獲に躍起になっているんだ。バレたら危険だ」

「しかし、ヴィクタール様ほどの適任はいないだろう。ロッド国は魔法の研究も進み、扱いにも長けている、それこそ中途半端な者を送り込んでも意味はない」

「ロッド国の貴族となんて繋ぎがつくのか? 神殿に牛耳られている人形じゃないか。こちら側につくなんて考えられない」

「信仰心の強い連中だ。賄賂くらいではすぐにこちらを裏切るだろう」

 どうやらヴィクタは貴族として堂々とロッド国に潜入するようだ。

 ロッド国に詳しく、貴族と繋ぎがつけられる人物……それはここにいる。

 私はふーっと息を吐いてから右腕を挙げた。

「フィー? なにをしてる?」

 ヴィクタの焦る声が聞こえ、意見を交わしていた人たちが一斉に私の方を見た。

「私も、ご協力させてください。貴族のこともよく知っています。ヴィクタール様と一緒にロッド国に潜入します」

「ダメだ、私が一人で行く! 大聖女はロッド国で今悪女と言われてるんだぞ?」

「それを、利用しませんか?」

「え?」

「健康になった大聖女そっくりの女がロッド国に戻ってくるのです。内情を知るものはきっと復讐に戻ったと思うでしょう。高位貴族であればあるほど私が治癒に携わった人たちばかりです。私が説得するのが一番でしょう」

 私の提案に場は静かになった。それぞれ考えを巡らせているらしい。

「突然現れた大聖女そっくりの女……いいかもしれません。ミステリアスに登場すれば、ロッドの内部に混乱を招くでしょう」

 一番に私の話に飛びついたのは宰相のワイルだった。

「混乱すれば綻びができる。内情を調べるには意識を逸らせていいだろうな……」

 そうして将軍も乗り気な発言をした。それを確認して私は交渉を始める。

「そのかわり、お願いがあります。ロッド国の聖女たちは赤子の時から両親と離され、神殿で育ちます。そして慎ましく生活しながら治癒行為をしているのです。そんな彼女たちを保護してほしいのです」

 なんとか、姉妹たちを助けたい。訴えるとワイルが考え込んだ。

「保護するのは構いませんが、それには本人たちの意思もあるでしょう」

「はい! 話は私が付けます。希望する者は保護していただけますか?」

「それには私が名乗りを上げましょう。魔術師の方で引き取り、治癒の力を研究する対価に住む場所と仕事を提供します」

 そこで大魔術師が名乗りを上げてくれた。

「ありがとうございます!」

 話がまとまったとホッとして隣を見るとヴィクタがパクパクと口をうごかしていた。

「だから、ダメだと……!」

「でも、私以上にヴィクタの隣で助けになりそうな人はいないですよね?」

「その言い方は卑怯だと思わないのか?」

「お願いです、ヴィクタ。決して無茶はしません。あなたの助けになりたいし、なによりロッド国にいる姉妹たちを救いたいのです」

「うう」

「観念しろ、ヴィクタール。そなたの妻の方が一枚上手のようだ」

 レリア国王もそう言ってくれて、ヴィクタが折れてくれた。

「大丈夫です。私はあなたの側を離れません」

 そっと手を握って仰ぎ見ると、ヴィクタが困ったように私を見ていた。

「どこでそんなおねだりを覚えたのか……」

「ヴィクタの隣が私の居場所です」

「……はあ。そうだな、お前はそうやって、ずっと妹たちを守ってきたんだったな」

 ヴィクタは複雑そうな顔をして私の頭をひと撫でした。

「では、国を挙げてあなた方夫婦をミステリアスな貴族に仕上げましょう」

 ヴィクタが諦めたことを察してワイルが援護してくれた。

 そうしてヴィクタのロッド国潜入に私も行くことになった。他にレリア王直属の諜報部の人間が同じく潜入する。

 しぶしぶ承諾したヴィクタが私に出した条件は二つ。

 最低限自分で身を守る術を身につけること。

 体重を増やして平均的な健康体になること。


 その日から食事の量を増やし、体術と剣術、そして魔法を習うことになった。

 魔法。そう私は魔力を持つようになったのだ。

 というのも、私は結婚してヴィクタに寿命を半分分けてもらってしまったのだが、私のコアが無属性だったからか、ヴィクタの魔力も受け入れてしまったのだ。

 だから今私は風と火の魔法も使える。

 それどころか普通は魔力の補充は自然のマナから眠っている時にされるのだが、私の特性なのか常に魔力の補充が行われるようになってしまった。

 どういう意味かというと命が繋がっている私とヴィクタは魔力が常に使い放題なのだ。といっても私は魔法を使い慣れていないので主に補給係だ。

 治癒とは違って自分の生命力を使わないので体が疲れることもない。魔法に関しては無敵状態である。

 アテナは聖女のコアから毒を取り除く薬を研究して作ってくれた。三か月ほど服用すればいい解毒剤だ。人数分いるので大量生産してもらっている。


 そうして一通りの準備を一年でなんとか整えた。集められるだけのロッド国の情報も集めてもらった。けれど聖女たちの動向はやはり神殿に守られていてはっきりしない。並行して私は貴族としてのふるまいを学んだ。

 その間もロッド国は反省の色もなく相変わらず国境をウロウロし、レリアの国境でちょっかいを出していた。


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