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捨てられた大聖女はエルフから溺愛されて自国に舞い戻る  作者: 竹輪㋠


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聖女の住む国は(ヴィクタール視点)3

 そして、あの夜。

 私は呪いの場所を突き止め、ベッドの上で少女を組み敷いた。

 押さえつけられた黒髪の少女からは『死期の香り』がしている。


 ――これが、大聖女? ただベッドで死を待つ少女じゃないか。

 困惑したが、確認すべく服を裂いた。露わになった胸には私の呪いが芽吹いていた。

「お前が王子の呪いを解いた大聖女なのか?」

 尋ねると少女はコクリと頷いた。

「指輪をどこへやったか知っているか?」

 単刀直入に聞いたが知っている様子はない。それどころか彼女は王子に良い印象を抱いていないようだ。信用はできないが、私の肘の釘を見てショックを受けていた。そして驚くことに私が魔法を封じられていることを言い当ててきたのだ。

 そして、胸の釘を見せてやると、ぽろぽろと泣き出した。これが演技なら恐ろしいと思っていると彼女は釘を抜かせてくれと言い出した。


「ぐ、ぐうあああああああっ」

 あまりの痛みに声を上げてしまう。けれど釘が抜け落ちて見ると、彼女の方が咳き込んで倒れてしまった。私の腕はまるで、初めから何もなかったのように元通りだ。

 そして、目の前にはその代償をすべて引き受けたかのような少女が気を失っていた。

 どういうことだ? 聖女はどんな種類の魔力を使っているというのだ。対照交換? いや、でもそれだと傷が丸ごと彼女に移るはず。しかも魔力の痕跡が見当たらない。

 治癒能力はロッド特有の力だというが……。

「とにかく抜いてもらったのだから、呪いは解いておく」

 私は破ってしまった服を着替えさせて胸の呪いを解くことにした。信用はしていないが、もうすでに死の香りがしているのに、これ以上は必要ないと思ったのだ。

 もしもすべての釘を取り除いてくれるなら……そんな下心もあって、また夜にくるとメッセージを残した。

 それから、また彼女を訪れると釘を抜いたせいか体力がめっきり落ちているのがわかる。どういう仕組みで治癒力を使っているのかはわからないが、体力が落ちるのは必然なのだろう。薬湯を飲ませて体調を整えることにする。釘を抜かせるためだと毒づいても、彼女は平然とそのつもりで飲んでいると答えた。

 ぽつりぽつりと話を聞くと彼女はアーノルド王子の婚約者でありながら嫌悪を抱いていたようだった。今はジェシカという美しい聖女と婚約を発表したと教えてやっても「ジェシカにお礼をいわないと」と冗談めいて言っていた。

 そして、釘を抜かせてくれと迫る。

「あなたが無事にレリア国に帰れた時、聖女たちは戦争には関わっていなかったと伝えて欲しいのです」

 その理由が神殿に残してきた聖女たちのためだと知った時、私は彼女を信じることに決めた。偏見のフィルターを介さずに見る彼女は……芯の通った心優しい少女だった。

 それから本格的にアーノルド王子から指輪を奪い返す計画を立てることにした。魔法が使えなくても、左膝の釘さえ抜けば王宮に侵入するくらい造作のないことだ。

 なにより右肘一本であんなにダメージを受けた彼女が、心臓の釘を抜くにはダメージが大きすぎると考えた。

 王宮の情報を集め、意を決してエルフの指輪の秘密も告げた。案の定、彼女は全面的に私に協力してくれた。そして詳細に王宮の間取りを教えてくれた上に膝の釘も抜いてくれた。

「フィーネ……ありがとう。今は休め」

 ハアハアと苦しみながらも私の釘が抜けたことを喜ぶ彼女の頭を撫で、初めて彼女の名を親しみを込めて呼んだ。うっすらと笑う彼女はとても清らかで、聖女という名がふさわしい人物に見えた。


 ***


 王宮に侵入すると中は混乱していた。身を潜めて話を聞いていると、どうやらレリア国に大聖女の首を求められて、困っているようだった。しかし、末端の使用人は大聖女が『星見の塔にいる』と知らされていた。

 そんなところに大聖女がいるわけがない。彼女は小さな古い教会の一室のベッドから窓の外を眺めているだけなのだから。

 そうして大臣たちの話を零れ聞く。どうやら大聖女は星見の塔に行く途中に古井戸に身を投げてしまったということになっていた。彼女がぽつりと聖女たちが逃がしてくれたと話してくれたが、彼女たちはずいぶん上手くやったらしい。

 ああ、フィーネは大切にされていたんだな。

 そんなふうに思うと彼女が愛おしく思えた。聖女たちを想うように、聖女たちもきっとフィーネを想って外に逃がしたのだろう。大聖女が飛び込んだとされる井戸は調べてみれば底に魔物が住み着いており、死体もなにも綺麗に無くなっていたため、きっと食べられてしまったのだろうと結論づけられていた。

 私はフィーネに聞いた裏通路を使ってアーノルド王子のコレクション部屋を目指した。彼は戦いの際に相手から奪った金品をコレクションするのだという。私が王子にとって印象深い者になるなら、きっとその部屋に飾っているだろうと彼女は予想した。

 それを聞いてなるほどな、と思った。私を捕まえて宝石類を奪ったものの、耳の飾りと足のミサンガには興味がない様子だった。彼は私の装飾品を警戒して奪ったのではなく、『戦利品』としてなにか具体的なものがあればそれでよかったのだ。

 フィーネの教えてくれた通りに王子のコレクション部屋はすぐにたどり着けた。面白いことに彼女はその部屋の暗証呪文もちゃんと覚えていた。初めて会った時から思っていたが、なかなか頭が回る娘だ。床をはがしてレバーを引くと、奥の本棚が開いた。中には宝石類と言うよりは怨念が宿っているような物品が並んでいた。


 趣味が悪すぎるな。

 その空気に吐き気がする。勝利への執着と気味の悪さを感じる。

 敵から奪った剣とその持ち主と思われる手首。獣人族から奪ったと思われる耳……。それらを見ないようにしていると新しめの金のトレーに私から奪った指輪とネックレスが乗っていた。

「あった……」

 思わずフィーネに心の中でお礼を言ってすぐさまそれをつけ直した。

 これでもう、ここには用はない。念のために同じような指輪のダミーをトレーの上に置いておいて、ネックレスはあえてそのままにした。

 これはフィーネからの助言で、アーノルド王子は執着が酷いので、奪ったもののデザインまでは覚えていないだろうが無くなれば大騒ぎになるので必ず他のコレクションにも手を触れず、同じようなものを置いて返しておくようにと言われていた。

 部屋を元に戻してすぐさま王宮から出ようと考えた。しかし、ふとフィーネのことを思うと少しだけ神殿の様子を見ていくことにした。彼女が命を懸けて守りたいという聖女たちに興味が湧いたのだ。



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