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捨てられた大聖女はエルフから溺愛されて自国に舞い戻る  作者: 竹輪㋠


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エルフのあなた2 

「うう、苦っ……」

 今日もヴィクタが持って来た薬湯を飲んだ。

 体調を戻さないとヴィクタの胸の釘は抜けない。肘の釘一本であれだけ衝撃があったのだから。

「口をあけろ」

「んぐっ」

 顔を上げるとヴィクタが口になにかを詰めてきた。いまさら拒否することでもないと迎え入れるとプチンと口の中でそれは広がった。

 甘くて爽やかな香りが口の中に広がる。

「おいしい……」

「エルフの幼子が薬湯の後にもらうご褒美だ」

 思わず顔をほころばせて食べてしまったが、『幼子』と聞いてリアクションに困る。

 そんな私を見てヴィクタが声を上げて笑った。

「ハハ……恥ずかしがらなくてもいい。気に入ったのなら薬湯と一緒にまた持ってくる。それに、長寿の私たちからしたらお前はまだ幼子のようなものだ」

「ヴィクタはいくつなのですか?」

「私はまだ百二十をすぎたところだ」

「ひゃ、百……」

 私のより二、三歳上……二十歳くらいに見えるのに。

 たしかエルフの寿命は五百歳くらいだったろうか……。

「驚きすぎだ。……お前は見てて飽きないな」

 クスクスとまたヴィクタが笑った。

 彼が笑うととても美しい。思わず見入ってしまって慌てて目を逸らした。

「頑張るお前に言いにくいのだが」

「な、なんでしょう」

「実は膝にもくぎが打たれている」

「えっ⁉」

 突然のヴィクタの告白に驚く。釘はもう心臓横の二本だけだと思っていたからだ。

「……できるか?」

 膝を出してきたヴィクタに私はコクリと頷いた。きっと言いにくかったに違いないが、普通に歩いているように思っていたから驚いた。

 右肘、左膝に釘を打ってやっと動きを封じることができたのか……。

 これに心臓の二本の釘で魔力まで抑えないといけないなんて、エルフの能力はすさまじいものなのだろう。

「アーノルドに奪われたエルフの指輪は一族に認められた者が持つ特別なものだ。それがあればエルフの里に入ることができる」

 私が膝に手を当てるとヴィクタが意を決したように話をした。

「……そんな指輪がアーノルドの手にあるなんて」

「指輪の能力が知れる前にヤツから取り戻さねばならない」

 ヴィクタの声が低い。エルフの里に入れると知ったら……エルフを捕まえたいと思っているアーノルドはすぐに指輪を悪用するだろう。

 そしてそれを私に教えてくれたのは信頼して貰えているからだ。

「王宮には裏通路があります。私が知っている情報はすべてお話しします。ですから、アーノルドから大切な指輪を取り戻してください」

 アーノルドの異常性は私も感じている。特にエルフへの憧れは度を越したものがあった。私は知り得る情報を事細かにヴィクタに伝えた。彼は簡単な地図をしたためながらそれを聞いてくれた。そして。

「……始めます」

 私はヴィクタの膝の釘を抜いた。


 ハア、ハア、ハア……。

 まだこんなにもダメージがくるのか。

 苦しさに動けないでいるとヴィクタが私を抱き上げてベッドに入れてくれた。

「フィーネ……ありがとう。今は休め」

 私を労うようにヴィクタが頭を撫でてくれた。

 たとえアーノルドのように利用されているとしても、こんなふうに優しくされるなら治癒しがいがある。

 痛みを紛らわすように息を吐き、アーノルドには文句を言われても『ありがとう』なんてお礼を言われたことが一度もなかったと思い返すのだった。


 それから数日分の薬湯を置いてヴィクタは消えた。

 指輪を取り戻しに行ったのだろう。

 十一時になるとそわそわして窓の外を眺める。

 以前の私なら心臓の釘も抜いて万全の体にしてあげられたのに。

 身体能力が戻っただけで、果たしてヴィクタは指輪を取り戻せるのだろうか。


 月を眺めると心配で涙がこぼれた。

 ヴィクタが私の能力を利用しているのは知っている。

 薬湯をせっせと持ってくるのもそれがあるからだ。

 そもそもアーノルドを治癒していた私に良い印象などないだろう。

 でも。

 どうか、ご無事で。

 祈るしかできない。

 ヴィクタがこなくなって不安でなにも手につかなくなってしまった。


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