第45話 5月6日 決戦の日(3)
俺たちは優理の家に行き、昼ご飯を食べた後にさっそく動画の編集に取り掛かった。
【中堅youtuberが、中学生を食い物に? 第一弾】というタイトルを付け、やり取りしたメッセージをテキストで表示しつつ、音声合成ソフトで作った声で読み上げる。
第二弾は次第に過激になる発言、三弾で河川敷に現れた本人の動画と怒濤のDM攻撃を晒す内容だ。
『【花咲ゆたか】さんは確かにイケメンですので、学生世代の食いつきがいいようです。特に中学生(笑)』
そんな煽り文を入れておく。きっと再生数がぐんと伸びるだろう。
しかし、である。
動画を作るための資料集めを優理としたのだが、被害を受けたっぽい女の子のアカウントを何人か見つけてしまった。
その多くはSNSなどで体調を崩したり、精神的に不安定になっているようだった。絶対的な証拠にはならないけど、文脈から【花咲ゆたか】が元で間違い無かった。
動画がちょっと悪辣で過激になってしまったので手心を加えようと思っていたのに、いざ病んだ被害者のアカウントを見つけるとその気が失せる。
千照がそんな目に遭ったかもしれないと思うと、どんなに叩いても、あるいはどんな手段を使っても良いような、そんな気がしてしまった。
とはいえ、本人たちの本当の気持ちは推し量ることはできず、こちらからは触れないことにした。
あとは順次拡散する調べたり声を上げる人が増えればいい。
作業を終えると夕方になっていた。まだまだ日が高く、夜までは時間がある。
「はあー疲れた。優理もお疲れさま」
「はい。たつやさんもお疲れさまです。うまくいくといいですね。本当に」
そうだ。これが絶対うまく行くとは限らない。
これでダメなら、何か別の方法を考えなければいけないだろう。
「私はあまりお手伝いできなくて、残念に思います」
「いやいや、さっき河川敷の土壇場で、身体を張ってくれたし。それだけで十分だよ」
「でも……ほとんどたつやさんが考えていて……もっと私も色々知って、力になりたいです」
ここまで純情な優理にどこまで汚い奴らのことを教えたものか?
例えば、須藤先輩のような、人の弱みにつけ込み自分の思い通りにする、そんな奴の話とかしてもいいのかな。
まあ、それは追々考えれば良いし、それを教えるのは俺じゃなくて、もっと優理にふさわしい男なのかもしれない。
などと考えると、ちくっと胸が痛んだ。
「うん。まあ、それは追々でいいんじゃないかな」
俺は机の椅子から床に移動し座って答える。
「そうですね。これからも、たつやさんが教えてくれるんですよね?」
心の中を覗かれたみたいでどきっとした。そろそろ、復讐に優理を利用するのはやめた方がいいんじゃないかと思っていた。
こうやって、家にまで上がり込んで……俺は一体、何をしているんだ。
もっとも、優理と一緒にいることで、ゴールデンウイークが極めて充実したのは間違い無いことだ。タイムリープ前と大きく違っている。
優理自身も、少なくとも須藤先輩と付き合い、酷い目に遭うよりは良かったんじゃないのか?
でも、それでも。
「優理、そういうことを教えるのは俺で良いのかなって、最近考えているんだ」
「え……?」
「俺と優理って——もともと、クラスでもほとんど話をしたことがなかった。住む世界が違うとすら思っていたんだ」
「そんな、どうしてそんなこと言うのですか? 今一緒にいるじゃないですか!?」
珍しく優理が声を荒げていた。その様子に俺は少し驚く。
「ま、まあ、そうだけど。あの日、川に落ちそうなところにたまたま近くにいただけで、こうやって一緒にいていいのかなって」
「もう。たつやさんは意外に分かってないんですね」
「へ?」
「私は、私が一緒にいたいから、こうしているんです。どうして? って言われると……その、まだ答えは出ていないのですけど、一緒にたつやさんといると楽しいです。正直に言うと、たつやさんがここから帰るとき、もう少しいて欲しいって思っています」
そうか……俺が変えた未来では、こんな風に俺に対して考えるようになっていたのか。
なんだか嬉しくなったけど。でも、それは俺の力でも何でもなく、ただ「都合よく」俺が未来を知っていた、というだけなんだよな。
実際、タイムリープがなければ俺と優理の接点はなかった。
「そうか。嬉しいけど、素直に喜んで良いのかな」
「いいと思います。たつやさんが私と一緒にいて苦じゃなければ」
「そういう意味では、全然苦じゃないよ。正直楽しかった。今日だって……今でさえも」
「嬉しい……いいと思います」
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