先生は説明不能というスキルでも持ってるの?
「はぁ……はぁ……ぜぇ……。」
「くるぞ!」
「はぁ……はぁ……おぇっ。」
遠くから緑色の波が押し寄せてくる。
粘性を帯びた唾液が気道に絡まってほんとに辛い。
……4km全力疾走ってなに?
酸欠で頭が働かない。
まって……無理……
今はどうにか足をぺたんとつけて上体は起こしてるけど、立ち上がるのも辛い。
このまま押し寄せてきたら確実に波に飲まれてしまう……。
もうこうなったら押しつぶされる前に押しつぶしてしまえ……。
「複合魔法術式・重力圧潰」
ぐしゃっ!!
突然緑色の波が押しつぶされる。
「わわっ!!」
「ぬっ!?」
「なんだ!?」
あれ!?
っ!!! やば!
発生点を地面より上に設置したせいで、効果範囲の外にいるボク達もモンスター群の中に吸い込まれるような引力に襲われた。
すぐさまモンスターの群れと、パーティメンバーの間に設置盾を置き、吸い込まれないように守る。
設置盾は次元ごと切り離されるので、どうやら引力の影響も切れるらしい。
一気に引っ張られる感覚が消えた。
緑色の波が押しつぶされ、大量に流れ出た緑色の液体が流れ込だす。
設置盾でせき止められるので、こちらに流れてくることはない。
むしろ流れてきたらどんな浅い波だろうが今は溺れる自信があるよ……。
「え?」
「何!?急に体が引っ張られたと思ったら……」
「な、何が起きたのであるか?」
「も、もしかして、れてぃーしあ……ちゃん?」
「お前、今度は何したんだ……?」
「はぁ……はぁ……。ひゅーっ……。」
そんなすぐに息が整うかっての。
あ~も~無理。仰向けに寝っ転がる。
精一杯の反抗を目で訴えるけど、びくともしないようだ。
「おい、ウル。頼んだ。」
「は~い。……ごめんね、れてぃーしあちゃん。頑張って。」
そういいながらウルさんが手を翳すと、嘘のように体が軽くなった。
体力が元に戻り、4kmの全力疾走など無かったかの様に疲労が消える。
な、何これ?
神聖種回復魔法?
それにしても疲労まで消えるなんて聞いたことがないけど。
そして熱をもって汗をかいていた体が一気に冷えていく。
「さっさぶっ!!」
「回復したか?」
「さぶいっ!」
「ほれ。炎で暖くらい自分でとれんだろ。」
そういいながらも先生が定点に炎を出してくれた。
うう、暖かい。
「うぅ……。」
「ね、ねぇレティ子ちゃん。さっきのって何?」
「レティーシアさんがやったのであるか?」
「あ、うん。なんか魔法を組み立てられるようになったから、重力魔法でも作ってみた。」
「重力……魔法?ってあの重力魔法? 聞いたことはある程度だけど……。重力魔法って、そもそも固有魔法クラスの超難度魔法なんだけど……」
「うん。あ、でもあれ、あんまし使い勝手よくなかったかも。ゴブリンがやわらかかったから潰れたけど、ある程度硬いモンスターなら耐えられちゃうだろうし、あんまし威力を強くしすぎると、さっきみたいにボク達まで引っ張られちゃうっぽいし。改良すれば使えるかなぁ?」
ん~……地面より上に魔法発生点を設置したから体が引き寄せられちゃったんだよね。多分。それなら地面より下に発生点を設置すれば大丈夫なのかな。引き寄せられても地面方向であれば大丈夫だよね。中心点近くに行かない限りそこまでの重力は感じなかったし。
「ね、ねぇ! 今度お姉さんにも魔法術式の構造全部教えて!? 変わりになんか教えてあげるから!」
「え? いいけど、威力間違えると自滅しちゃうよ・・・? 引力を分断できるような魔法がないと危ないかも?」
「引力……? う~ん、そっかぁ。味方を危険に晒しちゃう解決策も必要となると……かぁ。レティーシアちゃんはどうやって皆を守ったの?」
「うん?設置盾で引力を分断したんだよ?」
「???」
「???」
「???」
「???」
「ああ、こいつはこういう奴だ。気にするな。後メル。こいつの使う魔法は危険すぎて魔法構造も門外不出だ。悪いが諦めろ。」
「えぇ!? ちょっと待ってよ! 正直レティ子ちゃんが何言ってるか全く理解はできなかったけどっ……! あれっ!? もう聞きたいこといっぱいありすぎて混乱してきたわ!?」
「自分も同じくであるな……。そもそもその子、魔道士だったのであるか……?」
「そう!まずはそれよ!?」
魔道士とは、攻撃や火力に特化した魔法士のこと。
治癒や補助に特化した魔法士は治癒士。
神官も治癒や補助に特化してるけど、神官は神官という職種なので魔法士とは別に扱われる。
イオネちゃんのような回復よりもエンチャント系魔法に特化してる人は付与士。
配置は魔道士と兵士の間で、もしも前線が崩れてしまえば最初に被害を受けるのは付与士になってしまうだろう。
そういう配置もあってか、付与士は相手へ状態異常を付与する魔法を登録してる人も多い。この間アークゴブリン戦でアークゴブリンの下半身を捕まえたイオネちゃんの魔法みたいなやつね。
そういった様に、役割によって魔法士は呼ばれ方が変わる事が多い。単純に魔法士と言っても、適正や得意魔法でパーティで活躍する分野が大きく異なる為、呼びわけは必要なのだ。
もちろん、これ以外にも色んな呼び名がある。
「あん? だからシュヴァルツ・クラウンウルフを倒したのはこいつだって言っただろ? 火力がなくてどうやってあいつを倒すんだよ。」
「た、確かに……そうであるが……」
「いやいや、この距離を全力で走らされてる子がまさかの魔法士で? さらに魔道士だなんて思うわけないでしょ!? 100歩譲って魔法士だったとしても、治癒士か付与士よ!」
治癒士や付与士は強化魔法が得意なことが大前提だからね。
「あ? お前らこいつが何だと思ってたんだ?」
「学園の生徒で、あんたが連れてきた子なんだから兵科の子だと思ってたわよ!! だってフラ、冒険者ギルドの中では槍で戦えって指示してたじゃない!?」
「魔法科の生徒だ。大体ギルドであたしにひでぇことしやがったじゃねぇか。なぁ? あんなのどう見ても魔法士だろ?」
「兵科の固有魔法持ちだって十分にありえるでしょ!?」
「だから魔法士だって。ああ、そうだ。レティーシア。ちゃんと槍で戦わないとだめじゃねぇか。」
思い出したように今更そんなことを言われても……。
だいったい!!
4kmも全力疾走させられた後で、槍でまともになんか戦えるもんか!
「さっき知ったわよ! しかもなんで魔道士の子が槍で戦わないといけないのよっ!?」
先生の説明不足はボクだけへの話じゃなかったのね……。
メルさんがボクの変わりに不満点を全部抗議してくれる!
とてもありがたい。
アルト様はボクの次元断裂を、直接見てはいないけど、結果は見てたから驚きは少ないようだ。
「そりゃ前衛訓練もしてるからだろ。」
「重力魔法って、むか~し確認された空間魔法ですよね?? ギルドでフラに掛けてた魔法といい……。れてぃーしあちゃんって、もしかして空間魔法の固有魔法持ちさんなんですか?」
空間魔法の固有魔法なんていうのもあるんだ。
どんなのだろ?
「あ? 違ぇよ?」
「え……? じゃぁなんで重力魔法……?」
「こいつはそういう奴なんだよ。賢王と同じで、物事の性質から理解してるっつったらわかるか? だから自分で自分の身を守れるように兵科訓練もすんの。」
「えっ?? じゃぁもしかして本当に重力魔法を自分で作り出したの?」
「え?あ、はい。今即席で。」
「はぁ?マジもんの超天才……どころの話じゃないくらいの逸材じゃない……。」
「お前会った瞬間に超天才ちゃんって呼んでたじゃねぇか。」
「ここまでぶっ飛んでるなんて思ってもいないわよ……。」
ぶっ飛んでるって……。
正直、今の重力魔法は大分失敗作だったんだけどな……
「魔法兵士の基礎能力をもった戦術級魔道士であるか……。正直同じ国に生まれてきてくれて感謝しかないのであるな……。」
「ほんとだぞ。こいつがエリュトスにいたらあたしは戦争には出ん。強制的にでも出されるのだとしたら先に国を捨てるわ。」
「ボ、ボクは人を殺すのは勘弁してほしいかなぁ……なんて。」
「お前シルヴィアや家族が殺されても同じ事言えんのか?」
「え~……」
まぁ絶対怒り狂いますよ、そりゃ。
でも出来る限りボクは殺す為の魔法を人に向けてなんて打ちたくないなぁ。
平和ボケしてるんだよね。
何かを失ってからじゃ遅いのも判ってるんだよ?
必要とされるその時が来たら逃げない。
そのくらいの覚悟はちゃんとしておこうと思う。
「ああ、まだ1層でこんな時間使ってる暇はねぇぞ? しょうがねぇ、ウル。レティーシアだけ各層ごとに診といてやってくれ。その代わりあたしら3人の体力回復は5層に1回だ」
「わかったよ。」
「問題ないであるな。」
「5層ごとかぁ。まぁいけるかなぁ。」
「殲滅戦は基本メルに任せる。レティーシアも参加できたら参加しろ。だが基本は槍で戦うように。」
「えぇ……。りょうかいでーす……」
4km全力疾走した後に、モンスターと接近戦で戦えって……。
鬼かよ……。
あ。知ってた。
鬼だったわ。
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