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追放貴族の【土地鑑定】スキルで辺境開拓 ~役立たずと勘当された僕のスキルは、実は大地を創造する【神の視点】でした~  作者: かるたっくす
第3部

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第58話:王都の権力遊戯と、新たな火種


 僕が過去との本当の決別を果たした、数日後。


 村の集会所には再び、僕とミリア、グルドさん、リアムが集まっていた。

 しかし、そこに以前のような悲壮な空気はもうない。

 あるのは独立した一つの勢力として、未来へ向かうための前向きな緊張感だけだった。


 テーブルの中央に広げられているのは、聖獣の郷の地図ではない。

 王都の詳細な地図だ。その上にはリアムによって、様々な色で印がつけられている。


「――さて、リオ殿。我々はアークライト家という目先の脅威を退けることには成功しました。ですが、本当の戦いはここからです」


 リアムは教鞭をとる教師のように、優雅な仕草で地図を指し示した。


「ご存知の通り、王都は今、いくつかの貴族派閥によってその権力が分かたれています。また、アークライト家の失墜はその絶妙なパワーバランスを、大きく崩すことになりました」


 彼は地図の上に、いくつかの駒を置いた。


「現在、王都の権力構造は大きく分けて三つ。第一王子を支持する伝統と格式を重んじる『保守派』。第二王子を支持し、能力主義と改革を掲げる『改革派』。そしてそのどちらにも属さず、中立を保つ中間派です」


 その説明は僕にとって、初めて聞くことばかりだった。

 アークライト家にいた頃の僕は、政治の世界など全く無縁だったからだ。


「アークライト家は元々、保守派の筆頭でした。その彼らが自滅した。当然、改革派は勢力を拡大する好機と見ています。その彼らが今、最も注目しているのが……」


 リアムは意味ありげに言葉を切ると、僕の目をまっすぐに見つめた。


「――我々、聖獣の郷です」

「……僕たちを?」


「その通りです。辺境から突如として現れ、王国最強と謳われたアークライト軍を無傷で退けた、謎の新興勢力。今の我々は彼らにとって、喉から手が出るほど欲しい駒のはずです」


 リアムは改革派を示す青い駒の隣に、僕たちを象徴する白い駒を置いた。


「彼らは我々を高く評価しています。出自や種族を問わず、実力のある者を登用するその姿勢。何よりアークライト家を打ち破った、その未知数の力。彼らは近いうちに必ずや、我々に接触してくるでしょう。『手を結び、共にこの国を変えよう』と、甘い言葉を囁きながらね」


「……なるほど。それは悪い話では、ないように聞こえるけど」


 僕がそう言うと、リアムは「ええ、短期的にはですが」と、静かに首を振った。


「問題は、こちらです」


 彼が次に指し示したのは、保守派を示す赤い駒だった。


「アークライト家という重しを失った保守派。彼らは今、危機感を募らせています。その憎悪の矛先は、アークライト家を破滅に追いやった我々に向けられています」


 グルドさんが腕を組み、唸るように言った。


「フン。つまり逆恨みというわけか。貴族という奴らはどいつもこいつも、身勝手な連中よ」

「おっしゃる通りです、グルド殿」


 リアムは同意するように、頷いた。


「彼らにとって我々は、理解不能な脅威なのです。血統も権威も無視して、辺境の地で亜人たちと手を取り合い、独自の豊かさを築いている。その存在そのものが彼らがよって立つ伝統と秩序を、根底から揺るがしかねない危険な思想だと、感じている」


 リアムは赤い駒の中から一際大きな駒を、取り上げた。

 その駒には鷲の紋章が、刻まれている。


「――特に注意すべきは、このヴァインベルク侯爵家。彼らはアークライト家と長年ライバル関係にありました。アークライト家の失墜を喜ぶ一方で、その権力の空白を埋めるかのように現れた我々のことを、快く思っているはずがありません」


 ヴァインベルク侯爵家。

 その名前に僕も聞き覚えがあった。父ガレンがよく、苦々しい顔でその名を口にしていたのを思い出す。


「彼らは必ずや我々を潰しにかかってくるでしょう。アークライト家のように直接的な軍事力ではなく、もっと陰湿な、政治的な罠を仕掛けてくるはずです」


 リアムの言葉に集会所は、再び静まり返った。


 僕たちは一つの大きな山を、越えたばかりだと思っていた。

 しかし、目の前にはさらに高く、険しい山脈がそびえ立っていたのだ。


 王都の権力遊戯。

 それは僕たちがこれまで経験したことのない、全く質の違う戦いだった。


 リアムはそんな僕の心中を見透かしたかのように、静かに告げた。


「――もし、あなたが王都へ行くことになれば、彼らは必ずあなたに接触してくるでしょう。改革派は友好的に。保守派は敵意を剥き出しにして」


 その言葉に僕は、新たな戦いの始まりを予感せずにはいられなかった。

 僕たちのささやかな平穏は、どうやらまだ遠い先の夢物語のようだった。


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