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追放貴族の【土地鑑定】スキルで辺境開拓 ~役立たずと勘当された僕のスキルは、実は大地を創造する【神の視点】でした~  作者: かるたっくす
第3部

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第54話:勝者と敗者


 ハクが生み出した濃霧は、アークライト軍が完全に森から撤退したのを見届けた後、まるで何事もなかったかのようにすうっと晴れていった。


 後に残されたのは、朝日を浴びて静まり返った森と、そこに点々と残された戦いの残骸だった。


 僕とミリアは村の仲間たちと共に、その「戦場跡」を検分して回っていた。

 しかし、そこに血の匂いは一切なかった。


 あるのは兵士たちが恐怖のあまり投げ捨てていった、大量の剣や槍、泥まみれの鎧の数々。

 それらはもはや武器ではなく、ただの鉄くずの山にしか見えなかった。


「……ひどい有様ですね」


 ミリアが呆れたように呟いた。


「ええ。ですが、誰も死なずに済んだ。それが何よりです」


 僕がそう言うと、ドワーフの一人が興奮した声で叫んだ。


「リオ様! こっちだ! まだ逃げ遅れた奴らがいたぞ!」


 僕たちが駆けつけると、そこには十数名の兵士たちが木の根元で力なくうずくまっていた。

 彼らは僕たちの姿を認めると、びくりと体を震わせ、恐怖に歪んだ顔で命乞いを始めた。


「た、助けてくれ……! 俺たちはもう戦う気はない!」

「殺さないでくれ……! 何でもするから……!」


 彼らはもはや騎士ではなかった。

 ただの戦に敗れた、哀れな男たちだ。


 僕は彼らの前に進み出ると、穏やかな声で言った。


「……安心してください。あなた方に危害を加えるつもりはありません」


 僕はミリアの方を振り返り、指示を出した。


「ミリア。彼らに温かい食事と、傷の手当てをお願いします。それが終わったら解放してあげてください。アークライト領へ、無事に帰れるように」

「……! はい、分かりました!」


 ミリアは一瞬、驚いたような顔をしたが、すぐに僕の意図を理解して力強く頷いてくれた。


 僕たちの目的は彼らを罰することではない。

 僕たちの意志を明確に示すことだ。僕たちは無益な争いを望んではいない、ということを。


 解放された兵士たちは何度も、何度も僕たちに頭を下げながら、故郷へと帰っていった。

 その背中を見送りながら、僕はこの「無血の勝利」を静かに噛み締めていた。


          ◇


 その日の夜、聖獣の郷は村中が歓喜に沸いていた。


 広場には巨大な焚き火が焚かれ、それを囲むように村人たちの笑顔の輪が何重にも広がっている。


「「「乾杯!」」」


 誰かの音頭で皆が一斉に、エールのジョッキを掲げる。

 僕たちの勝利を祝う盛大な宴の始まりだった。


 ドワーフたちは回収した武具を肴に、自慢の酒を酌み交わしている。


「見ろよ、この剣! 王都の騎士様が使うもんだってのに、なまっくらだぜ!」

「こいつは溶かして鍬にでもしてやるのが、お似合いだな!」


 兎獣人たちは自分たちが奪った食料で作った、豪勢な料理を振る舞っている。

 子供たちはそんな大人たちの周りを、嬉しそうに駆け回っていた。


 その輪の中心で、僕は仲間たちから次々と祝いの言葉をかけられていた。


「リオ様! あんた、すげえよ! 本当に血の一滴も流さずに、あの三千の大軍を追い返しちまうんだからな!」

「ええ、リオさん。あなたのやり方は正しかった。私たちはそれを証明することができました」


 そんな中、グルドさんが僕の隣にどかりと腰を下ろした。

 彼は僕のジョッキになみなみと酒を注ぐと、その無骨な顔を少しだけ赤らめながら言った。


「……リオ。お前さんはワシらの誇りだ。この村の全ての民の、誇りだよ」


 その不器用だが、心のこもった言葉に僕の胸は熱くなった。


 僕はこの村に来て、本当に良かった。

 このかけがえのない家族たちと出会えて、本当に良かった。


 宴は夜が更けるまで、いつまでも、いつまでも続いた。


          ◇


 一方で、その頃。

 アークライト城は墓場のような沈黙に、支配されていた。


 ボロボロの姿で城に逃げ帰ったバルドを待っていたのは、ねぎらいの言葉ではなかった。


 家臣たちの冷え切った、侮蔑の眼差し。


 彼らはもはや、バルドを次期当主として見てはいなかった。

 アークライト家の誇りを地に貶めた、愚かで惨めな敗軍の将。ただ、それだけだった。


 父ガレンは、バルドの顔を見ることもなく自室に閉じこもってしまった。

 彼が何を思っているのか、誰にも分からなかった。


 バルドはたった一人、がらんとした謁見の間で立ち尽くしていた。

 彼の心は屈辱と絶望で、完全に折れていた。


 聖獣の郷の歓喜の宴。

 アークライト城の絶望の沈黙。


 勝者と敗者のコントラストは、あまりにも鮮やかだった。


          ◇


 しかし、ただ一人、村の喧騒から少し離れた場所で夜空を見上げていたリアムだけは、冷静にこの勝利の先に待つものを見据えていた。


「……やれやれ。確かに見事な勝利でした。ですが、問題はこれからです」


 彼は誰に言うでもなく、静かに呟いた。


「このまるでおとぎ話のような勝利を、王都の権力に飢えた狐たちがどう判断するか。――本当の戦はまだ、始まったばかりですよ、リオ殿」


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