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【電子書籍化決定】悪役令嬢はやられる前にやることにした  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中
 

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やられる前にやるしかない~念には念を~

 攻略対象三人をやることができた。

 断罪を突き付けるのはこの三人なのだ。

 ならばもうこれで終了でいいか。


(ううん。念には念を入れた方がいいわ。悪役令嬢の天敵は、攻略対象三人だけではないのだから)


 そう。ヒロインである男爵令嬢ポメリア・マイリー・ポロロック。


(彼女もやらないと、悪役令嬢である私に安眠は訪れないわ)


 心が決まったなら、鉄は熱いうちに打て、先んずれば人を制す、だ。迅速に動くことにした。


 こうしてこの日。

 授業終了の鐘が鳴ったタイミングで、私はポメリアに声をかける。


「ポロロック男爵令嬢」

「な、何でしょうか……」


 平安時代の姫君のようなブルネットの長い髪に、ダークブランの瞳。その瞳は私から何を言われるのかと、おどおどしているのが見て取れる。


(前世記憶が覚醒する前のカトリーナが、既に嫌がらせを何度かしている。よってかなり警戒されているわね)


 ここは怖がっていることを利用し、押し切るのがいいのか。それとも……。


「ポロロック男爵令嬢、覚えているかしら? 私ったらうっかり自分からシチューを被ってしまったでしょう?」


 当然覚えているので、ポメリアは神妙な表情で「はい……」と応じる。


「あなた、あの時、ハンカチを貸してくれたわよね?」

「! はい、そうでした」

「あのハンカチ、屋敷でメイドに洗ってもらったの。綺麗にして返すつもりだったのよ。でも……洗ったらボロボロになってしまって……」


 ちゃんと手洗いをしているし、布はボロボロになどなっていない。実際はポメリアの刺繍が下手くそ過ぎて、ほつれてしまったに過ぎなかった。前世で刺繍なんてほぼやったことがないはずで下手なのは仕方ないこと。そして下手だと指摘しないのが貴族のマナーだ。


「あ、気にしないでください。安物のハンカチですから……」


 それはその通り。通常貴族令嬢が使うハンカチはシルクが主流。でもポメリアのハンカチは頑丈なコットン製だった。そこは確かに安物で間違いないけれど……。


「安物かどうかは関係ないわ。あなたが心を込めて刺繍までしていたハンカチを、きちんと洗濯してお返しできないのは……私の落ち度です」

「そ、そんな! 滅相もございません! たかがハンカチですから!」

「ハンカチは使い捨てではなく、繰り返し洗って使うものよ。だからね、今回お返しできないことのお詫びをさせてください」


 ポメリアは目を丸くして「お詫び……?」と首を傾げる。


「ええ。お詫び。我が公爵邸へ招待しますわ。特別にあなたのためだけのスイーツと茶葉を用意し、おもてなしをさせてください」

「え……!」

「あなたがあのハンカチに刺繍するために、どれだけの時間を費やしたのか。それを思うと、スイーツと特別な紅茶ごときで許して欲しいなんて……図々しいですわよね」


 そこはもうしおらしく、シュンとして見せる。すると……。


「あ、あの、本当に、あれは安物のハンカチです。メイドが大量購入したものを、刺繍の練習用に一枚いただいたようなもので……。使い捨てにするつもりでいました。だから本当に気にしないでください。……ただ、ベヴァリッジ公爵令嬢のお屋敷……。王都では第二の宮殿と言われていますよね。有名です。その……お招きいただけるなら、行ってみたいのですが……」


 これには口角を上げてニヤリとしたくなるのを堪えるのが大変!


(ここでニヤリと笑ったら、見事な悪役令嬢になってしまうわ!)


 なんとか聖母のような微笑を浮かべ、ポメリアに伝える。


「ポロロック男爵令嬢、あなたはなんて寛容なのかしら! ぜひいらしてちょうだい……そうだわ! せっかくなので明日はいかがかしら?」

「あ、明日ですか」

「……ご予定があったかしら……」


 悲しそうな表情で尋ねると、ポメリアは首をぶんぶん振る。


「何も予定はありませんので、う、伺わせていただきます!」


 かなり前のめりに返事をしている。


「ええ、ぜひ。お待ちしていますわ」


 思いっきりの笑顔で応じ、心の中では「これでやれる!」とガッツポーズ。


 私が覚醒する前のカトリーナはポメリアに嫌がらせをしてしまっていたが、それはまだ序の口だった。断罪される頃の嫌がらせは、本当に悪質であったし、犯罪すれすれ。それに比べたら、まだ悪戯の域を超えていない。それもあり、ポメリアも罠があるとは気付かずに、まんまと公爵邸に招かれることに同意してくれた。


 公爵邸の応接室。


 そこはカッセルを沈めた部屋であり、防音性は抜群だ。そして明日は水曜日。両親は……夜遅くにならないと帰宅しない。


 公爵邸で用意されるスイートと特別な紅茶。ポメリアは一切の疑いを抱かず、口にして飲み込むことだろう。


 そして予想通りの展開が、今、目の前で進行している。


「ベヴァリッジ公爵令嬢、スイーツと紅茶、どれも本当に美味しかったです。食べたことがない物ばかりで……。感動しました」

「それは良かったですわ。今日のために、特別なものをわざわざ用意したので」


(そう、今回はスイーツの方にたっぷりクスリを混ぜていたのよ)


「……沢山いただいたせいでしょうか。なんだか満腹で眠くなってしまいました……」

「ふふ。それはリラックスできている証拠よ。侍女とメイドを下がらせるから、良かったら横になってくださっていいのよ。十五分ぐらい休むと、すっきりしますわよ」

「……そんな……ベヴァリッジ公爵令嬢がいらっしゃるのに、昼寝、なんて……」


 ローテーブルを挟み、対面のソファに座っていたが、私は立ち上がり、ポメリアの隣へ移動。そうしながら侍女とメイドには目配せで退出を命じる。


「ポロロック男爵令嬢、よろしかったら私が膝枕をしましょうか?」

「えっ!?」

「十五分後。起こして差し上げるから、どうぞ」

「で、でも……ベヴァリッジ公爵令嬢は白の美しいドレスを着ていらっしゃるのに……私の頭をのせるのは恐れ多いというか……」


 白のドレスに着替えたのは、私が清廉潔白に見えるようにするためだった。ヒロインは他の攻略対象とは別格。ちゃんと騙すための演出の一つだ。


「あなたのそのシルクのような髪、とても美しいわ。むしろドレスの糸くずが付いてしまわないか心配……」


 そこで可憐な感じで視線を落とすと、ポメリアは「ひ、膝枕、お願いします!」と頭を下げる。私は「よし!」と心の中でガッツポーズ。


 こうなるともう、手の平で転がすことができる。眠気がピークになっていたポメリアは言われるがままでソファに横なり、私に膝枕をされた。見事なシルクのようなブルネットのストレートの髪を撫でると、ポメリアはうっとりした表情で目を閉じる。


(やられる前にやる。ヒロインに対しても容赦するつもりはないわ)


 私はゆっくりと手を動かした――。

お読みいただきありがとうございます!

いよいよクライマックス直前です……!

最後までお楽しみいただけましたら

ブックマーク&評価で応援をよろしくお願いします♡

結末はぜひ次話で!


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