839話 戦いを振り返って……-1!
「何も出来なかった……」
ソニックウルフとの戦いを思い出すと、後悔しかない。
忘れていたお兄ちゃんに、成長を見せる機会だった。
バレットモンキーも、辛勝だった。
自分から戦えると言ったわりに、何もできずに気を失った。
全く攻撃が見えなかった。
強くなっている自覚はあった。
コスカ師匠や、クレスト先生からも認められていた。
一緒に訓練していた騎士団の人たちからも、賢者候補だと言われていた。
ある程度の魔物であれば、負けない自信をつけたはずだった――。
しかし、所詮は世界を知らなかっただけだ。
お兄ちゃんに連れて来られた、この場所には見たことのない魔物がたくさんいた。
私が知らないだけで、お兄ちゃんは誰にも言わずに、強い魔物たちと戦っていたのだと思う。
私が目指すのは、お兄ちゃんに認められる冒険者になること。
お兄ちゃんの隣で一緒に戦うなんて、おこがましいことは望まない。
私を救ってくれたお兄ちゃん。
そして、私の生き方を変えてくれたお兄ちゃん。
そのお兄ちゃんを忘れていた。
お兄ちゃんは、気にしなくていいと言ってくれたが、忘れていた自分がどうしても許せなかった。
アルシオーネ様が連れてきたバレットモンキーと、ソニックウルフ。
二匹とも、私が見たことのない魔物だった。
初見の相手には、慎重に対応しなければならない。
これは冒険者として、基本的なことだ。
しかし、魔物の知識は最低限覚えているつもりだった。
バレットモンキーが突進してきたので、とりあえず足止めするために【炎弾】を放った。
とうぜん、【炎弾】を回避するために避けるだろうと思っていた。
私も、それに合わせて次の攻撃を用意していた。
しかし、バレットモンキーは唾液を吐いて、【炎弾】を止めた!
想定していなかった方法だった。
私の頭には、防御と回避しかなかった。
あの状態で反撃するなんて……。
しかも、バレットモンキーの唾液が【炎弾】に触れたことで、悪臭がする。
鼻がもげるかと思うほど、酷い匂いだった――。
悪臭だけでなく、唾液と【炎弾】が衝突したときに発生した水蒸気が目に染みる。
視界を失わないようにと、バレットモンキーを注意深く観察していた。
このバレットモンキーは近接攻撃を得意とする魔物なのか、それとも遠距離もしくは、中距離を得意する魔物なのか……。
選択を間違えると、対応が遅れて命取りになる。
こういった経験は、実戦からでしか得ることができない。
実戦経験の少ない私にとっては、いい機会だ‼
お兄ちゃんは、私の弱点を知ったうえでこの機会を与えてくれたのだと思う。
さすがは、お兄ちゃん!
お兄ちゃんの期待に応えなければ――。
中距離を得意とする魔物!
私はバレットモンキーを、そう分析した。
逃げ回りながら唾液を飛ばして攻撃をする。
まずは、動きを抑え込む必要がある。
効果的なのは――【雷鞭】!
【雷鞭】は【MP】の消費量が激しい。
どちらかと言えば、効率の悪い魔法だ。
短時間で、機動力となる足を痛めれば、動き回ることはできない
それだけでも、戦況的にも私のほうが有利になるはずだ。
私は【雷鞭】を使い、バレットモンキーの左足に【雷鞭】を絡ませる。
バレットモンキーは、悲鳴をあげる。
左足に絡みついた【雷鞭】を解こうとして、【雷鞭】に触れようとするが電気を帯びていることに気付くと、両手を引いた。
私も、これ以上【雷鞭】を使うと、今後の戦いに影響が出ると思い【雷鞭】の使用を止めた。
【雷鞭】でバレットモンキーの足を焼いたため、バレットモンキーは左足を引きずっていた。
(口元さえ、警戒していれば勝てる‼)
私は、そう思いながら、次の攻撃を考えていた。
その瞬間に、バレットモンキーから、なにかが飛んで来た。
咄嗟に体を反らす。
目では追えなかったが、確実になにかを飛ばした!
唾液以外のものも飛ばすことができる……。
何かをはじく動作をした気がする。
小石のようなものを弾いたのであれば、拾う隙を与えなければいい。
バレットモンキーは手の中に持っていた小石を弾き飛ばしてくる。
いつの間に、これほどの小石を拾っていたのか……。
手元だけ注意していれば……と思った瞬間に、唾液も交えた攻撃に変わった!
杖で手からはじき出された小石を弾く。
私は大きな思い違いをしていた。
弾いていたのは小石でなく、汗のような体液だった。
……バレットモンキーは、自分の体液を飛ばして攻撃をしていた!
鼻が痛くなるような、酷い臭いがする。
バレットモンキーの攻撃を受ければ受けるほど、臭いは増すのだと思うと、早く倒したい気分だった……。
自分の最大魔法【雷砲】【炎砲】を並列詠唱を試してみることにした。
まだ、試したことはないので失敗する可能性はある。
でも、お兄ちゃんに成長した姿を見せるのであれば――やるしかない‼
この二つの魔法を掛け合わせたイメージは、何度もしていた。
交わるようなイメージにして、詠唱を終える。
【雷砲】【炎砲】は私の思った通りに螺旋状になって、バレットモンキーへと向かった。
避け切れないバレットモンキー。
なんとか、バレットモンキーを倒すことができた!




