781話 王都襲撃-3
「クロさん、どうしますか?」
「とりあえず最初に、グランドマスターのジラール殿を訪ねましょう」
「そうですね。私も、その方が良いと思います」
「あ、あの、私は何をすれば宜しいでしょうか?」
「ピンクー。あなたは私やクロさんのように人型に変化することが出来ないので、私の服の中に隠れていてください」
「分かりました。精一杯、隠れています」
ピンクーはシロの言葉で不安は払拭したかのように、嬉しそうな表情を浮かべていた。
――タクトと別れたシロとクロは、ジラールを探して裏門で発見をする。
「ジラール殿」
クロが、忙しそうなジラールに声を掛ける。
「タクトの……クロに、シロだったか?」
「はい、そうです。主より、騎士団の方々とは別の所で王都を守られている皆様に協力するよう言われております」
「それは助かる」
「私は負傷者の治療を行いましょうか?」
「連絡では左門で負傷者が多く出ているそうだ。シロはそっちに行ってもらえるか?」
「はい、分かりました。すぐに向かいます」
「左門の責任者には俺から連絡いれておく」
「お願いします」
シロは左門へと向かう。
「私は、どうしましょうか?」
「そうだな……ここで負傷した冒険者を連れてきてくれるか?」
「承知致しました」
クロが仲間に加わったことを、ジラールは他の冒険者に説明する。
ジラールはクロとシロが来てくれたことに――いや、それよりも王都全体に【結界】を張って守ってくれたタクトに対して、とても感謝していた。
この規模の結界魔法を施せるのは、エルドラード王国でもタクトくらいしかいない。
前護衛三人衆のカルアでさえ、これほどの規模の結界魔法を施すことは難しいだろうと感じていた。
それを簡単にやってのけるタクトの能力にも驚いていた。
ジラールは左門の騎士団の副団長ネラルトにシロのことを伝える。
一部の冒険者が先走って、魔物に対して攻撃を仕掛けたこと。
それが発端となり、攻撃を迎え撃つ作戦は崩壊して、冒険者たちは続くように魔物への攻撃を始めてしまう。
しかし、実力差も分からずに攻撃してしまうという初歩的なミスを犯した冒険者たちは、返り討ちにあう。
指揮官であるネラルトの命令を無視したことで、連携が崩れてしまいネラルトは頭を抱えていた。
冒険者ギルドのグランドマスターであるジラールに文句を言える訳でも無い。
何故なら、彼ら冒険者たちは無償で王都の防衛に力を貸してくれているからだ。
あくまでも指揮官が必要ということで、立場的にネラルトが仕切っているだけだ。
右門を指揮する同じ騎士団副団長のクトリーに、ネラルトは連絡する。
「どうした、ネラルト⁉」
この状況で連絡を貰うということは、決して良い話ではないとクトリーは感じていた。
自分が指揮している右門と反対側の左門から、戦闘のような音が聞こえていたのも影響している。
「そっちの様子は、どうかと思ってな。定期連絡だと思ってくれ」
「あぁ、そういうことか。相変わらず、膠着状態だ。そっちはどうだ?」
「こっちは――」
ネラルトの口から発せられた言葉に、クトリーは驚く。
冒険者が勝手に攻撃をした……ありえない話ではない。
しかし、「自分の所でなくて、良かった」と、心の中で安心している自分がいることも自覚していた。
ネラルトとクトリーは、副団長に任命されて間もない。
前副団長の二人が不正を働いていた為、急遽任命された。
クトリーもネラルトの二人は、騎士団長であるソディックを尊敬していたので、その横でソディックの力になれることには喜びを感じていた。
実力的に自分たちが伝統ある騎士団の副団長の責務に耐えられるか、それだけの資質があるのかと疑問を持っていたし、自信も無かった。
しかし、自分たちを選んでくれたソディックに申し訳無い。
決して、ソディックの顔に泥を塗ることは出来ない。
「大変なようだが、お互い出来ることをするしかない」
「分かっている」
クトリーはネラルトとの連絡を終えると、深いため息をついた。




