758話 見学ツアー(ゴンド村)-2!
クララたちが服を新調してくれる。そのことを聞いたゾリアスは驚く。
アラクネの糸を使った服など超高級品だ。
そもそも、入手困難な糸の為、絶対数が少なく小さな布でも庶民では手が出せない程の価格だ。
それを村人全員の服やズボンなど一式など……。
当然、アラクネの糸の貴重性を知らない子供たちは、服が新調出来ると大喜びだ。
前村長のゴードンは、意識を失いかけそうになっていた。
一度に全員は無理なので、今回は子供だけ製作して、昼から来るアラクネたちは女性たちの分を製作する。
当然、エルフたちの分もだ。
もしかしたら、断られるのではないかと心配したが、村での決定事項には従うようだ。
明日は男性たちや、ドワーフ族にコボルト族の分を製作するそうだ。
昼間で時間があるので、アラクネたちは製作している状況を村人たちに見せてくれた。
さながら実践販売のように、村人たちはアラクネたちの作業にくぎ付けとなり、「凄い!」「美しい!」と感動の言葉を口にしていた。
作業状況を褒められる。
クララたちアラクネにとって、今迄無かった。
自分達にとって、当たり前のことを褒めてくれる。照れながらも作業を進めているアラクネたちも嬉しそうな表情を浮かべていた。
クララが最初の一着を完成させると、自然と村人たちから手を叩く音が聞こえる。
手を叩く行為が何を意味しているのか分からないクララに俺は、「素晴らしかったので、感動を表す人族の動作だ」と伝えた。
クララは恥ずかしそうに、下を向く。
人族だろうが、魔族だろうが同じ仕草をするのだと、改めて感じた。
それは村人たちも同様だろう。
子供たちの服が出来上がると、時間は早いが午前の見学ツアーが終了となる。
「色々と有難う御座いました」
「いえ、こちらこそ服まで仕立ててもらって申し訳ありませんでした」
「いえいえ」
クララとゾリアスは、お互いに謙遜していた。
「では、妾たちがクララたちを送り届けよう」
「届けるの~」
「あぁ、頼めるか。俺もあとで行く」
「了解じゃ」
「分かったの~」
別れ際にもう一度、アラクネたちが挨拶をして、蓬莱の樹海にある集落へと戻って行った。
「あぁ~」
ゾリアスが、大きく息を吐く。
「色々と用意までしてくれたみたいで、悪かったな」
「客人だからな。しかし、アラクネがあれほど大きいとは知らなかった……」
「確かに、実際に見た奴は殆どいないだろうからな」
「まぁ、伝説に近い魔物だからな。それと、俺からもタクトに話さなければならないことがある」
「なんだ?」
ゾリアスの話は、ドラゴンが頻繁に魅惑の森付近まで行動範囲を広めているので、この村の管轄をしているジーク領主リロイと、ギルマスのルーノとで、魅惑の森へ近付かないようにと警告を出したそうだ。
それにより、ゴンド村付近には、今迄以上に人が寄らなくなったそうだ。
ゴンド村を守るためにリロイが対応してくれた事だと、俺はすぐに気づく。
ゾリアスもリロイの考えが分かっているので、それ以上は何も言わなかった。
「そういえば、鬼人夫婦と猫人夫婦の姿が見えないが?」
「ムラサキとシキブなら、今日はジークで用事があるらしいので、ジークに行っている。エイジンとイリアは家が完成していないから、まだこの村には住んでいないぞ」
「なるほどね。明日もアラクネたちが来るから、あの夫婦二組にも言っておいてくれよ」
「あぁ、それならムラサキとシキブにイリアには、昨晩伝えた。エイジンにはイリアから伝えてもらう。まぁ明日、村にいるのはムラサキとシキブだけだと思うがな」
「そうか、分かった。まぁ、俺がいなくても問題なさそうだから、明日はいなくても大丈夫だろう?」
「そうだな。タクトも忙しそうだし、アルシオーネ様とネロ様がいれば問題無いだろうな」
「まぁ、何かあれば連絡くれれば駆け付けるから、遠慮せずに連絡をしてくれ」
「その時は緊急事態だから、頼むぞ」
「確かにそうだな……」
「それと、興奮しすぎて土産を渡しそびれたので、届けてくれるか?」
「土産?」
「あぁ、アルシオーネ様とネロ様に相談して決めたんだが、なにぶん時間が無かったので、村にあるもので揃えたんだが……」
「何を用意したんだ?」
「あれだ……」
ゾリアスの目線の先には、三十センチ虫かごのようなものが幾つもあり、中には昆虫などが、種類ごとに分けられてはいっている。
「虫か?」
「そうだ。なんでもアラクネ族は、おやつに虫を食べると教えてくれたので、村人たちと昨日、森で捕まえて来た」
「……」
これは喜ばれるものなのかが、俺には判断が付かない。
とりあえず、シロとクロにも手伝ってもらい届けることにした。




