726話 親善試合!
スタリオンの登場に、会場は盛り上がる。
一応、治療をして万全の状態だという事も、観客達に伝えていた。
俺との勝負で、負けた理由にしない措置だと思う。
考えたのはフェンだろう。
俺の登場にも、オーフェン帝国の観客達は温かく迎えてくれた。
そして、親善試合が始まる。
俺に向かって突っ込んでくるスタリオンに対して、俺は歩く。
出された拳を俺は弾く。
何度も出された拳を全て躱す。
スタリオンは一度、俺と距離を取る。
確かに以前よりも、強くなっている気はする。
今度は俺から攻撃を仕掛ける。
徐々に攻撃のスピードを上げる。
最初こそ、攻撃を躱せていたが俺の攻撃が当たり始める。
たまらず、スタリオンは再度、距離を取る。
今の攻撃でも、俺が本気を出していない事が分かっているので、攻撃の仕方を変えるつもりなのだろうか?
観客達も、ハイレベルな戦いになっている事が伝わっているのか、静まり返っていた。
俺は一気にスタリオンとの距離を詰めて、腹部を蹴ってスタリオンを飛ばす。
場外になると終わってしまうので、俺は【神速】を使いスタリオンよりも先回りして、更に蹴り飛ばす。
それを何回も繰り返す。
スタリオンは何も出来ずに俺に飛ばされ続ける。
観客達も自国の英雄スタリオンが、俺に遊ばれている状況が信じられない様子だ。
最後は地面に叩きつけて終える。
まだ、立ち上がるだけの体力は残っている筈なので、このまま終わる筈は無いだろう。
スタリオンは立ち上がってきたが、様子がおかしい。
体が小刻みに震えている。
「何故だ! 体が思うように動かない」
俺が魔法を掛けた攻撃ではない事は、スタリオンも理解しているのか、震える手足を動かそうと必死だ。
今の攻撃で、以前に俺から受けた攻撃を体が思い出して拒否反応でもしているのだろうか?
俺が近付こうとすると、スタリオンの意志に反して、体が後ずさりする。
一歩二歩と進むと、同じように下がる。
何をする訳でも無く、スタリオンはそのまま場外に落ちた。
あまりにも、あっけない最後に俺は勿論だが、観客達も呆然としていた。
負けたスタリオンもどうして、こうなってしまったのか分かっていない。
誰もが、納得出来ない終わり方だった。
俺はフェンの方を見る。
フェンも思っていた最後と違うので、どうしてよいかを模索しているようだった。
俺は倒れているスタリオンを慰めているグリズリーに向かって叫ぶ。
「来るか?」
俺は手招きをする。
グリズリーは俺を見た後に、観覧席に居るフェンを見ていた。
フェンも、俺の提案に乗る事に決めたのか頷いた。
グリズリーが闘技場に上がって来る。
観客は、もうひと試合見られると思い、喜んでいた。
そこにエルドラード王国の冒険者に、オーフェン帝国の者が負けたという事よりも、純粋に戦いを観戦する事を楽しんでいるようだった。
グリズリーは、俺の顔に向かって殴り掛かる。
俺は先程、習得した【硬化】を使用する。
真正面からグリズリーの拳を、額で受け止める。
怪力グリズリーの拳を、額で受け止めた俺に観客達は驚き歓声を上げてくれた。
ユニークスキル【硬化】はレベルに比例して、自分の硬度を上げるようなので、俺の体はかなり固くなっている筈だ。
加えて【身体強化】の効果もある。
俺に痛みは無い。
グリズリーは俺をひたすら殴り続けた。
しかし、俺は微動だにしない。
「こんなものか?」
俺が話すと、気に障ったのか拳だけでなく、爪を伸ばして掌で叩く攻撃も繰り出す。
段々と、先程同様に血飛沫が飛び散る。
しかし、それは全てグリズリーの血だ。
俺は一滴も血を流していない。
そして、グリズリーの手が止まる。
肩で大きく呼吸をしているし、目の焦点も定まっていない。
過呼吸なのだろう。
俺は小さな動作で、グリズリーに拳を当てる。
グリズリーは後方に吹っ飛んで、観客席と隔てている壁に激突する。
圧倒的な力の差を見せつけられたオーフェン帝国の国民は、「もしかして、人間族が最強なのか?」と話している声が聞こえてきた。
これは獣人族こそ最強と考えているオーフェン帝国の根本を揺るがす事になる。
俺は【念話】を使い、フェンにその事を伝える。
そして、「俺が特殊な人間族」という事を強調するようにとも伝えた。
俺の意図を理解したフェンが、俺の事を観客達に伝える。
フェンの言葉には説得力があるのか、観客達は納得していた。
俺はスタリオンとグリズリーに【神の癒し】を施す。
スタリオンは、俺への恐怖が蘇ったのか、たどたどしい態度だった。
グリズリーも、自分が全く敵わない相手に出会ったのが初めてだったのか、戸惑っていた。
どうやら、グリズリーは熊人族最強として、この武闘会に参加したようだ。
それは、熊人族の期待を一身に背負って来たという事になる。
かなりのプレッシャーだっただろうと、グリズリーに少し同情をした。
俺は倒れた二人を起こして、闘技場に上げて二人の間に入り、検討を称えるように二人の手を上げる。
もっともグリズリーは身長が高いので、肘を曲げている感じだった。




