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アレス外伝3

アレス様がお帰りになって、部屋を整え終わりました。

旦那様とお茶を、と思って振り返ると、なんだが寂しそうな表情です。

「旦那様、どうされました?」

そっと腕に触ると、ものすごく驚いたように飛び上がりました。


「ナシテール様はリアナ様と関係を清算されまして。ティアラ様を正式な奥様として新たな関係を結ぼうとせれているのです」

お付きのアルフィー様がおっしゃいました。

ナシテール様が真っ赤な顔で「ナイス」とおっしゃっています。


私は首を傾げました。

清算っていうことは、えっと、要するに。

「旦那様はご傷心、なのですね」

かわいそうですわね、振られてしまわれたのでしょうか。

どうしたら、元気になっていただけるでしょう。


ひとまずは頂き物のお菓子で、お茶でもしましょうか。


「こちらはハニトロンの蜜を使って作ったクッキーですよ。なんでも、寝なくても働けるようになる元気の出るお菓子なんですって」


少し口に含むと、ホロっと割れる優しいお菓子です。

私はこれを食べて夜なべをしながら、お姉様の仕事をすることがあります。

これならナシテール様も元気になるに違いありません。


無理矢理席を薦めて、お茶会に参加してくださったアルフィー様が「これはなかなか」とご満悦です。

けれど旦那様の様子がおかしいです。


「これはダメだ。夜我慢できないかもしれない」

ブツブツと呟く旦那様を、アルフィー様が冷たい目でご覧になってます。

「そんなことだから、いろいろと女性関係で失敗するのです」

やっぱり、相当ご傷心なのですね。


「そういえば、今日のお昼に食べたオオウルカミや夕食にと思っているシシオンのお肉は、アレス様が仕留めてくださったのですよ。このお屋敷の森には、随分たくさんの生き物がいるのですね」


高級なお肉なのに食べきれなくて困っていたのですが、いいタイミングで旦那様達が来てくださいました。

お昼は久しぶりにあっさりとした食事ができましたもの。旦那様のおかげです。


と、ナシテール様が顔を引きつらせました。

「なるほど、そのようにしてそなたの心も仕留めたと、フフフ」

不気味です。


「アルフィー様、旦那様は傷心が過ぎて気が触れてしまったのでしょうか?」

「いえいえ、今夜は元気が有り余って、狩りにでも出かけられるかもしれませんね」

夜、ですか?危険ではないかしら。

「心配でしたらカギをかけてご就寝くださいね。ティアラ様」



そうアルフィー様はおっしゃいましたけど、夜、狩りに出かけられるなんて心配です。

旦那様が出かける気配がわかるように、私は扉を少し開けて寝ることにしました。


けれど、毎晩遅くまで起きていたからでしょうか。ぐっすりです。

「んん」

ぐっすり過ぎて重いです。金縛りです。

「んっ」

身体が動きません。


「は、あ」

あまりの違和感に目が覚めました。

「えっ!」

旦那様?

旦那様が、なぜここにいらっしゃるのかしら。


「ティアラ」

「は、はい」

「こんな私だが、貴女と一緒に寝てもいいだろうか」

旦那様、なんておかわいそうなんでしょう。

傷心なのですね。

「もちろんですわ、旦那様」


「……そうか。そなたはあたたかくて優しいな。今まで済まなかった」

旦那様!

傷心の旦那様を慰めるのも仕事のうちですもの。相当の金銭を得て、実家の弟妹達は学園にも通えるようになりました。

旦那様には本当に感謝しているのです。


てすから、今度はわたくしの番ですわ。

旦那様の悩みを一晩中聞いてさしあげましょう。旦那様の気が晴れるように誠心誠意お勤めしなくてわ!



って、あれ?

え?

え?

え?

ええ〜!?



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