表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/53

アレス外伝2

俺はナシテール。


ど田舎貴族の三男として生まれたが、この美貌を生かして商売に手を出し、成り上がった新手の貴族だ。

女は少しいい顔してやれば、ホイホイと金を出すからな。


だが、金も女も手に入れたら当然権力も名声も欲しくなる。

故に地位を得るために妻を買い取った。


が、これが面倒の発端になった。

それまで大人しく傅いていた女が、なぜ自分と結婚してくれなかったのかと喚くようになった。

慰謝料だと言って、金を使って派手に生活をするようになり、嫌な女に成り下がった。

正直、立場をわきまえない平民の女なんてもういらん。


これもそれも、あの女と結婚なんてしたからだ。

大した生活費もなく、惨めに暮らしているのを見れば溜飲も下がるだろう。と思ってきて見れば、あの女は前と変わらずの雰囲気だ。

ちっ。


「旦那様?」

俺は何も言わずに止まっていたらしい。彼女が訝しげに首をかしげた。

「お疲れでしょうか?あちらの日当たりの良い場所で、お休みされますか?」

案内された場所は柔らかい色調で整えられ、花の咲く庭がよく見える。

生まれ育った家を思い出して、少し懐かしくなった。


いやいや、和みにきたのではないだろう、俺!


「ふん、昼食時にやってきた夫に、食事も出せないとは気がきかないにも程がある」

わざと大袈裟に嘆くと、すぐに食事が出てきた。


「旦那様は食べごたえのあるものがよろしいでしょうし、こちらをどうぞ」

食べていただける方が来てくださって、ようございました、と使用人達が言っている。意味がわからん。

不味いものだったら、怒鳴り散らしてやろう。


ん?なんだ?口の中でとろけるような肉だな。


「こちらはオオウルカミのお肉をスイベリーソースで煮込んだグッドラッグ添えです」

ゴクリと飲み込んだ。


目玉が飛び出てないか?

「オ、オウルカミの肉だと?」

バカな。本物だったら王都に屋敷が建つぞ。それにグッドラッグっていったら、ある地域の幻の特産品だ。


「旦那様が健康でいてくださるようにと、精のつくものを調理人が用意したようですね。……いただきものだったのですけど、お口に合いませんでしたか?」

俺の反応に、不安そうなティアラの顔だ。


「い、いや美味いよ」

贅沢すぎるくらいだ。

なのにティアラが食しているのは、質素なスープだ。

控えめに微笑むティアラが眩しく感じる。

慎ましく生活しているティアラを見ていると、生活費を与えていなかったのが、申し訳ない気がしてきた。


「これほどまでにもてなされては仕方ない。きょ、今日はこちらで泊まっていこうかな」

なぜ、自分の家に泊まるのに緊張せねばならん、俺!


「では、南側のお客様部屋がいいかしら。エノヒ、旦那様のお連れになった侍従の方のお部屋と合わせて用意してちょうだい」

お客、さま部屋……?

あれ?ティアラと同じ部屋ではないのか?


部屋に案内されて、ソファに座り込む。

「そんなに落ち込むくらいなら、ティアラ様を最初から奥方様として扱えばよかったんですよ。完全に雇い主扱いじゃないですか」

生意気なことを言ってくるのは、田舎から付いてきたアルフィーだ。


「リアナがあれほどまでに傲慢になるとは思わなかったからな」

平民だぞ?いつまでも俺の言うことを聞いて、大人しくしておればいいものを。


「ナシテール様は案外騙されやすいですからねえ。あのお屋敷をリアナ様にお譲りになって、以後お会いにならないことをお勧めします」

そうだな。もうあの女に興味はないな。


「ところでティアラは何をしている?」

部屋に控えていたエノヒに尋ねる。

夫婦というのは部屋でくつろぎながら、一緒にお茶をするものではないのか?


「ティアラ様でしたら、今頃アレス様とお話をされているかと思いますよ。ご案内いたしましょうか?」

アレス?

聞いたことのない名だ。


エノヒに付いていくと、西側の割合と広い部屋に通された。重厚なカーテンがひかれ、天井には今流行りのシャンデリアが輝いている。

「こんな物この屋敷にあったか?」

思わず声が出ていたらしい。


「旦那様」

ティアラの声で我に返る。

「いや、一緒にお茶でもと思ったのだが」

この部屋は布だらけだな。


「こちらがくだんの旦那様かい?」

少しハスキーで柔らかい声の持ち主がティアラに話しかける。

「はい、アレス様」

ティアラが今までに見せたことのない笑顔だ。

なんだかモヤッとする。


「では、旦那様とやらとお茶を楽しむといいよ。出来上がったころ、また来るから」

「お待ちしていますわ」

立ち上がると、こちらを一瞥し鼻で笑って帰っていった。


顔も中性的で立ち姿がスラッと、女子が好みそうな甘い雰囲気だ。ムカつく。

が、背は俺より低かったな、ふっ勝った。


思ってティアラを振り返ると、俺を無視して片付けなどしている。

なぜかわからないが、俺、泣きそうなんだが。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ