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45話 罪と崩壊

くそ、あいつら。

悔しい。

僕の方が魔力が多いからって妬みやがって。

1人で戦えない弱虫達め。


集団で暴行され、複数箇所の骨が折れている。

投げ捨てられた場所が悪かった。廃棄された武器の中だったからか、その瞬間に何かが刺さった。

息ができない。

身体中から血が流れ出し、体温が下がっていく。

もうこのまま死ぬのか、と諦めようとした時だった。


「ぐああぁ!」

痛いってもんじゃない。

熱いってもんじゃない。

身体に何か入ってくる。

「うあぁぁぁあ!」

あまりの衝撃にのたうち回った。


「はあ!はあ!はあ!」

と、地面に座り込んで息ができていることに気がついた。


「ごめんごめん。人間なんてはじめて治癒したから、加減がわからなかったんだよ」


声の方を見ると、見たことのない神々しい何か、だ。

人ではありえない。

「あ、貴方が助けてくれたのですか?」


「うん、無くなってしまうには美しい人間だと思って。でもケイにバレたら怒られちゃうかな。この星のことわりを曲げてしまったからねえ。まあ、いいや」


それだけ言うと、その場を立ち去ろうとする彼を引き止める。

「あの!お礼、お礼をさせてください!」

「ん〜、わざわざ人間にしてもらうことなんてないからなあ」


だ、ダメだ。行ってしまう。

「ぼ、僕はクワイベルです!せめて貴方のお名前を教えてください!」


僕は必死だった。

初めて見た、圧倒的な何かに。

自分のカケラでもなんでもいい。彼の記憶の一部に引っかかりたい。


「う〜ん。人間ってなんか必死でかわいいもんなんだねえ。うん、私のことはフォギバと呼ぶといいよ」


フォギバ様!


この日、僕の全てがフォギバ様の物になった。



☆☆☆



「君に会うようになって、私ははじめて寂しいということを知ったんだ」


フォギバ様は長い間、何もない空間で漂っていることが多いらしい。

少し寝て起きて、どこかで用事を済ませてここにやって来る。


それで数年経ってしまう……僕にとって。

お会いするのは何年かに一度、たったの数日。


その度に、引き止めるために、僕はたくさん喋る。

フォギバ様がいない間に何があったのか。面白おかしく。

フォギバ様は僕と話をしていると楽しいって言ってくれるんだ。

僕はこの方のそばにいたい。


「空間でほんの少し漂っているだけなのに、この世界の2、3年があっという間に過ぎてしまう。だから次に来た時に、クワイベルがもう死んでるってこともあるのかもしれないんだねえ」


僕が死んでしまったら、この方は1人で寂しい思いをし続けるのだろうか。


フォギバ様にそんな思いをさせてはならない。



☆☆☆



僕はフォギバ様に救われてから、魔力値がさらに上がった。

この国で僕より魔力がある人間はいなくなった。

魔力の量は寿命に直結している。だから、誰よりも長く生きられるとは思っているけれど。


いつからだろう。

それで満足ができなくなったのは。


もっと長生きしなくては。フォギバ様に会うために。

フォギバ様をお一人にしないために。


そのための魔力は、どうやって増やしたらいいんだろうか。


魔物は魔力の多い生き物を喰らうことで、長い時間を生きている。

ふむ。


王国医療管理センターでは、神の文字を使った魔法陣で延命を行なっていると聞く。

ふむ。



☆☆☆



「おい、クワイベル!そっちは立入禁止区域だぞ!」


知ってるさ。

お前らには、足を踏み入れることすらできない領域だってな。

そこでせいぜい喚いてろ。


神の降臨する白い聖域に、人間の中で僕だけが、僕だけが入れるんだ。


僕はあの方にだいぶ近づいただろう。

でもまだ足りない。


なぜなら、僕がまだ成長しているからだ。


あの方と同じようになっているならば、僕も年をとらないはずなのに。

まだ、大人になっていく僕の身体。


まだ足りない。まだ足りない。

魔力がいる。もっとたくさんの魔力が必要だ。


でも、魔力の多そうな魔物は食べ尽くしてしまった。


僕は血に濡れた手を見る。

こんなちっぽけな魔力しかない魔物を食べたって、何も変わらないんだよ。

もっとたくさん。


どうする?


ああ、そういえば、去年生まれたアーサの子供は魔力が多そうだった。

あれを食べたら僕の魔力が増える気がする。


フォギバ様が来たときに、僕がまだ生きていたらきっと喜ぶと思うんだ。


あの方のためだもの。

きっとアーサの子だって、フォギバ様のために、僕のために、その魔力を使って欲しいと思うに決まっている。



☆☆☆



僕は眼下を見下ろした。


巨大な力を手に入れて、この国は僕のものになった。

延命のための魔法陣は、それ以外の大きな力も与えてくれたからね。

僕より強い人間なんてそこら辺にはいなくなった。


定期的に寄越される魔力たっぷりの貢ぎ物。

あれを喰らわないと。

ふふふはははははは。


なんだ?

僕に逆らうつもりか?

弱いくせに。

ちっ、面倒くさいな。


弱くても数が多いと面倒だ。


ああ、そういえば、人間を支配する神の文字があったな。

あれを使って従順な手駒を創り出そう。


僕の使い魔。

僕の使役蟲。


未知なる生物を創り出す力。

あれ?命ある生き物を生み出すとは、なんていう神の所業!

僕、フォギバ様に近づいたんじゃないか?


使役蟲が、人間を人形に変えていく。


あはははははは!


ああこれで、誰も僕に逆らわなくなった。


あれも、それも、みんな僕の餌。

延命のための生きた餌。


あれ?もしかして、僕はあの方になれるんじゃないか?

あの方を待つだけの、そんな小さな人間ではなくなったんじゃないか?


僕は、フォギバ様に追いついた、きっと。

僕だけが、フォギバ様と同等のナニか。



☆☆☆



『愚かな。

なぜ、人が神になれると考えたのか。


少しばかり天界にいる間に、私の愛し子達に何をした!


フォギバ、そなたのごう、小さくはないぞ』


『ケイ、ソナタの怒りは最もだ。我は其方の世界に2度と干渉しないと誓おう』


イヤダ、イヤダ!

違う、違う!

貴様は誰だ!

ここは、ここは、僕のものだ!

僕と、フォギバ様の!


やめろおォォォォオ!!



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