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44話 私の系譜

これは帰れなくなっちゃうわ。いえ、帰らなくてもよくなっちゃうわ、だね。

……想像してたのと真逆なんだけど。


ホカホカした暖かい光に包まれて、これは気をしっかりと持っていないと時間を忘れて微睡んでしまうと認識した。


眩いはずの光が、目に痛くなく優しく広がっている。


「アレス来たの?こっちだよ」


お姉ちゃんの声を頼りに少しずつ前に進むと、急に視界がひらけた。


おお!どこかの神殿みたいだ。階段がいっぱいある。


「いらっしゃい。愛しいアレス

周りを見渡していると、抱きしめてきたのは母様らしい。

記憶の面影がある。


なんかわからないけど、泣きたくなった。


グリグリグリグリと、うん。

痛いけど、嬉しいのはなんでだ。

お姉ちゃんがこっちを見て、うるうると頷いている。


冷静になって視線をあげると、この場所には私を入れて5人いたらしい。

私とお姉ちゃん、それと私を抱きしめている母様は知ってる顔だ。


離れた場所でこちらを見ている、少し冷たそうな笑みを浮かべているのが、記憶になんとなく残っているお祖母様だと思う。

よく覚えてたな、私。


そして、全く知らないけれど、お姉ちゃんに雰囲気がよく似た綺麗な人がいる。


「アレス。あの方はリーナ様よ。私のお祖母様だから、2人にとっては曾祖母様ね」

母様が優しい顔でその人を紹介してくれた。


「え?リーナ様って、あの女神様?」

ラージが言ってた?

実在した人だったの?

ただの伝説だと思ってた。


「め、女神様って何!?」

リーナ様はアレスの口から出た『女神』に反応して、とっても変な顔になった。

美人が台無しである。


というか、そっか。それが、ご先祖様か。


……私のご先祖様すごくない?


「さてこれで全員集まったから、説明してもいいかしら」


祖母ケイミー様が視線を動かすと、私を含めた4人が下段に控える形になった。

自然と身体が動いてしまう。

と同時に、女神リーナ様までがお祖母様に従うような仕草をすることに、とてつもない違和感が浮かんだ。


お祖母様って女神様の子供よね?


「ケイミーは私の子だけど、この星の創造神なのよ」

私の疑問がわかったのか、女神リーナ様が答えをくれた。


そ、創造神!?

お姉ちゃんも驚いたのか目を見開いている。


「アンフルは、ケイミーと結ばれたのが嬉し過ぎたリリアスが、考え無しに全力で孕ましにかかった結果できた子なの。だから内含神力がそんじょそこらの神より多いっていう、まあ、生まれた時から人であり続けるのは無理ってわかってた子なのよね」


一旦言葉を区切ったリーナ様が、少し眉を下げるとそのままもう一つ爆弾を落とした。


「ちなみに、リリアスは一度滅びに向かったこの星を再生するのに尽力した、リリタース神の人体バージョンよ」


ふふっと微笑んだ女神リーナ様の、言葉の意味がすんなりと頭に入ってきません。

あれ?神様っているの?

見える形でいていいの?


っていうか、母様って神様と神様の間にできた子?

えっと、あのジルベイダ様も?

嘘だあ。


「で私なんだけど、別のことわりがある世界の、ニホンっていう国からケイミーに連れてこられた普通の人間だから、この中で一番 くらいが低いのよ」


「え!ニホン、ですか?私もそこから来たんです!」

「ほ、ホント!?」

きゃ〜!と喜んだ2人が、何やら2人にしかわからない話で盛り上がっている。


伝説の女神と、あのハイレベルな姉を輩出する国ニホン。

リーナ様の『普通の人間』という言葉が事実なら、その女神様が普通レベルの国ということになる。


な、なんて恐ろしい国なんだろうか、ニホンという国は。


「こ、コホン!」

私が気を遠くしていると、ケイミー様がみんなの意識を集めた。


「まあ、そういうわけで、簡単にいうとやってもらいたいことがあるの」


ケイミー様が手を振ると、白いモヤっとした壁が色を失い、向こう側を見ることができるようになった。


「あの空間はリーナが創り出した結界異空間で、中の人はアンフルが探し出して隔離した、人と神の狭間を漂う生物よ」


中の人を見て驚いた。

マーダがいる。他にも7人ほど。

立ったまま、意識がないのか目を閉じて。


「な、なんでここにザンダイがいるの?消したはずなのに」

お姉ちゃんが声を震わせている。


「彼らは、どうしても神になりたい『クワイベル』という人間が支配した元々は人間だった物よ。奥に横になって浮いているのが『クワイベル』本人なの」


目は閉じているけれど、それでもわかる程のとても美しい、少年、だ。


「私はかつて、狂ってしまったあの子をきちんと葬ろうとして、この星そのものを壊してしまった」


とても悲しそうなお祖母様を見てると、それがどんなに辛かったことなのかわかる気がする。


「この星には生きているものがいた。人であり動物であり植物であり魔物であり、そのどれもが愛しい我が子。そのほとんどが消えてしまったわ。罰を受けた私も力のほとんどを失ってしまったし」


「ケイミー」

近づいて抱きしめるリーナ様は、ケイミー様より下位の元人間であっても、彼女の母なのだ、と理解する。


「再生するにあたってリーナを呼びよせ、やっとここまで戻したんだもの。前と同じ過ちを犯せない」

ぎゅうっとリーナ様に抱きついたまま、ケイミー様が私とお姉ちゃんを見て頭を下げた。


「リーナが結界を、アンフルが空間隔離強度を、私が星に生きるもの達の命を守るから、彼らの討伐をお願いしたいのよ。私達3人は力が大き過ぎて地上に降りられないから、地上戦は2人に任せたわ」


神様に頭を下げられて、断れる人間なんているのだろうか。


なんの疑問も持たず頷きそうになって、急にラージの顔が浮かんだ。

ハッと意識が戻る。

ちゃんと疑問は聞いておかないと。


「そもそもなんで、『クワイベル』さんは神になりたいなんて思ったんですか?どうして討伐しないといけなくなったのかなって」


マーダに対してだって、殺さないといけない程の思いが抱けない。

ましてや、会ったことのない『クワイベル』さんを討伐しないといけないというのがわからない。


私が間違ってるのかな?と思っていると、お姉ちゃんがぎゅっと手を握ってきた。「そうだよね」と。


ケイミー様に従いたくなるこの空間で、心が不思議と満たされるこの空間で、それでも私は私でいいんだと思わせてくれるお姉ちゃん。


なんだか、ラージに会いに行きたくなってきた。



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