43話 銀色は癒し系?
アレスが行ってしまって、力が抜けた俺はその場に座り込んだ。
このままアレスが帰ってこなかったらどうしようかな。
ふと横を見ると、そこにはアレスの面影があるジルベイダがいる。
ああ、それもいいかもしれない。
うっそりと笑うと、ジルベイダが引きつった。
「な、なんだ?!」
「いえ。このままアレスが帰ってこなかったら、ジルベイダ様を剥製にして、アレスの格好させて飾り、残りの人生はそれを眺めて生きていけばいいかと思いまして」
「な、ななななななにをバカなこと言ってるのだ、君は!アアアアレスティーナは帰ってくるとも、君のところに、帰ってくる。帰ってきて!」
最後の方は絶叫になった。
「そう、あまりイジメないでやってください」
エスライトは自身の後ろに隠れて、ブルブルと震えるジルベイダをちらりと見る。
「銀の方達は癒し系ですからね。後ろ暗い欲を持つようになると、髪に色が宿ってしまうらしいので、からかって遊んではいけないのですよ」
へえ。まあ、見てて飽きないよな、この人達。
「ひとまず何日いることになるかわからないけど、食料の確保とかしないといけないな」
アレスが帰ってくると信じるならば、ここでちゃんと待機しないと。
俺が立ち上がると、エスライトが手で制した。
そして、白くなった壁を見る。
魔力溜まりがあるのか、そこにさっきから気配があるのはわかる。
が、どうせ入ってこれないから関係ないだろうと思ったのだが、違うのだろうか。
一瞬、白い壁を縦に割る光が走ると、黒い何かが飛び込んできた。
「あ〜、手こずっちゃった」
「ま、待てクロマ。足が挟まった」
人が2人、らしい。
「もう、パパ鈍すぎ!割ってもすぐ戻っちゃうから早くしてって言ったのに」
「いや、パパ頑張ったよ。光の速度分しか開かないとか、そっちの方がひどい条件だからね」
ようやく足を引き抜いて立ち上がったが、こちらを気にすることなく言い合っている。
「しかも、クロマが速すぎて部下たちを置いてきてしまったぞ」
「だって遅いんだもん。クズでノロマな部下なんて何人いても役に立たないわよ?」
声がアレスに似ているからか、その言葉はダイレクトに心臓に突き刺さった。
いや、俺はクズでもノロマでもない。
ちょっと最近カッコいいところを見せる機会がなかっただけで、俺はアレスのためならやれる。
「クロマが普通に泳げは良かったのに、海を割って泳ぎ進むから、後続の部下たちが泳いで続けなかったんだろ」
海が割れる?
「だってママが『モーゼモード』は速くてカッコいいって言うし。それにパパは並泳できてたじゃない」
「満身創痍だけどな!クロマの立てた波が凄すぎて小島がいくつか割れてただろ。パパじゃなかったら死んでたぞ。部下である国民を守るのも王族の役目だ。ママが泣くぞ」
言われてクロマがシュンとした。
ママのことが好きなんだな、ホッコリ。
なんてなるかあ!
島より丈夫な人間ってなんだ。
「え、と。ユヌカス様でしょうか?」
2人のやりとりにゴクリと唾を飲み込んだエスライトが問うと、やっと彼等がこっちに気がついたらしい。
彼がユヌカス様で、あの子が彼をパパと呼んでいるということは。
つまり、お姉さんの旦那さんと娘さんか。
「そうだ。久しいな、エスライト殿!」
ニカっと笑ったユヌカスが、隣の美少女の手を引きながら寄ってきた。美少女は額に青い宝石が埋まっていて、神々しい雰囲気がある。少し怖い。
「連絡がいったのは今朝だったと思うのですが」
たった半日で、どうやったら隣国からここまで辿り着けるのか……とエスライトが半眼になった。
「我が国の屈強な戦士に不可能などない。飛ぶように泳いできたに決まっているではないか。ところで愛しの妻はどこだ?」
あれ?国境の警備とかどうなってるの?
「え?何言ってるのよ、パパ。私より遅い戦士なんて、不可能だらけじゃないの。全員死ねばいいのに」
黒!怖!
ユヌカスまで引いている。
「あ、ママ、天界に呼ばれちゃってるじゃん。う〜ん、拒絶されちゃうなあ。どうしよう」
魔法陣に手をかざしたクロマが何やらやっていると、エスライトを、いやその後ろのジルベイダを見つめた。
「ママとおんなじ色だ。ねえ、貴方」
「な、なんだ?」
ジルベイダは何かを感じとったのか、しっかりとエスライトの後ろに隠れる。
「もしかしたちょっと死んじゃうかもしれないけど、身体貸してくれない?」
「はあ?ばっ!や、やだ!」
あれ?お姉さんと家族の人ってちょっと飛びすぎじゃない?
え、それ向こうの国だと普通なの?
外野はこんな感じで、アレス達の帰りを待つことになりました。




