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41話 私の問題

足元の底から、懐かしい何かに呼ばれている気がする。


すっかり周りが白い壁に覆われ、この辺りの土地ごと外の世界から隔離されてしまった。


試しに壁の近くまで移動し外に出ようとしてみたが、外には出られなかった。

壁を通り抜けたと思ったら、お屋敷のあった場所の近くまで戻ってしまうのだ。


あの壁には転移の魔法陣が設置されているってことなんだろう。

今まで外に出られなかったのは、この壁のせいだったってことだ。

まあ、壁の存在は見ることはできてなかったんだけど。


そして、大きく開けてしまった穴からじわじわと何かが出てきて、私とお姉ちゃんを誘っている気がする。


『こっちにおいで』


懐かしい声、というか光。

行かないといけない気がする。


「ねえ、アレスはやめた方がいいんじゃない?」

私が足を踏み出そうとすると、お姉ちゃんが少し考えた後、私を心配そうに見た。


「アレスは今あっちに行っちゃったら、後悔すると思うな」

お姉ちゃんは私が行くことに反対、なのかな。

でも、私もあの懐かしい声に逢いに行きたい。


「アレスの恋心きもちは、まだ生まれたばっかみたいな感じだからなあ」

仕方なさそうにお姉ちゃんが笑う。

私の恋心?


「向こうに行って、どうにもならなくなってから気がついても遅いかもしれないし」

何か気づいてないことがあるの?


「私はアレスが大きくなっていくのを、遠くからずっと見てたの。だから、アレスのことは遠くにいてもかわいい妹だったけど」


なんか嬉しい。私は知らなかったけれど、気にかけてくれていた人がいるということが。


「アレスは私のこと知らなかったでしょう?小さい時に別れたっきりだから。それでも私はアレスがかわいいと思うんだけど、アレスに同じだけ思ってもらえてるなんて思ってないよ」

目と目を合わせられて、お姉ちゃんを意識する。


「だからさ、私じゃダメだってわかってるの。じゃあ、ラージ君ならどうかなって」


ラージ?


「あっちに行っちゃうと、よっぽどこっちに帰りたいと思えないと戻ってこれなくなっちゃうんだって」


ビクッと隣でラージが反応する。


「ラージ君を一緒に連れて行くには、私の旦那ユヌカスと同じで資格がないっぽいし、なんとか自力で戻ってくるしかないんだよ。アレス、大丈夫?」


ーー戻る?



「私もこっちに飛んできちゃって、この状況を楽しんじゃってるからね。説得力ないんだけど、はは。うん、ユヌカスのこと大好きなの」


頰を赤く染めて、はにかむお姉ちゃんは幸せそうで。


「ちょっと離れてる分には骨休みなんだけど、この後会えないってなったら寂しい。ケンカもするし、こんちくしょう!とか思うこともあるけど、好き、なんだもん。会えなくなるのはイヤだなあって」


真剣な目になったお姉ちゃん。


「アレスは、ラージ君に会えなくなっちゃっても大丈夫?」


ラージに?


会えなくなっちゃうの?


……あの声のところに行くと?


「本当はもっと時間をかけるのが理想なんだけど、ごめんね。お姉ちゃん力になってあげられなくて。先に行って時間は稼いでみるから、ラージ君とお話ししておいで」


光の中に消えてしまったお姉ちゃんを見送って、ラージを見る。

なんだか泣きそうな。


「何がなんだかわからないけど、俺、アレスに会えなくなったら死ぬ。生きてる意味がなくなるぐらい、アレスのことが好きだから」


ああ、どうしよう。


ラージに会えなくなるのはイヤだな、と思うのに、あの声の元に行かないという選択肢は不思議とない。

行かないと、いけない。


これは義務、だから。普通とは違う力を得て生まれた者の本能に刻み込まれた、私達の義務なんだもの。


でも、ちゃんと考えないと、会えなくなっちゃう。

ラージに?


呆れるほど愛されてる感じがする、ラージに?


寂しかったことにすら気がついてなかったけど。

ずっと寂しかったから。


ラージと会ってからの毎日は、本当に楽しかった。


どうしよう。

白い光に誘われて、足が歩むのを止められない。


「俺!アレスが帰ってこなかったら、死んじまうからな。寂しくて」


私の耳元で、ラージの喉が唸るように言うとしっかりと唇が重なった。


「なんか、好かれてるって感じがする」

きちんとした、口付けなんて。


はじめてなんだもの。


「好きに決まってるだろ。愛してんだから。

待ってる、から、帰ってこい。必ず」


うん、って言いたかったけど、その前に光に飲み込まれてしまった。



行く前にラージに抱き締めてもらいたかったな、っていうこの恋心きもちが、私の答えだと思うんだけど。




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