37話 一方そのころ
すみません。閑話が2話続きます。
「クロマ!何かわかったか!?」
パパ、昨日からママをずっと探してるの。
いつもみたいに泉に遊びに行ったまま、急に気配の消えたママ。
というよりも、急に遠くに飛ばされたママ、が正解かな。
ちゃんと遠くにいるって言ってるのに。
「ママ、大丈夫よ」
あのママだよ?
「そんなことなんでわかる!?今頃不安で泣いてるかもしれない」
……絶対無いと思う。
「ユヌカス様!」
不測の事態が起きたため、執務室に集まって会議をしているところに兵士が1人入ってきた。
「ラメル様がみつかりました!」
「本当か!それで、どこにいる!攫ったのはどいつだ!」
いや、だから、パパ。
「グゥ、グフッ」
そんなに締め上げたら喋れないし。
「ナン、テ、コ……ダに」
兵士がガクッと意識を失った。
「おい!おい!大丈夫か!何があった!」
いや、だから、パパのせいだし。
「落ち着け、ユヌカス。そんなに締め上げては話すものも話せんだろうが」
「あ、あぁ。す、すまん。大丈夫か?」
オクスィピトおじさまに制止され、やっとパパが落ち着きを取り戻した。
「ええい、事情がわからんだろう。目を覚まさんか」
パパに連続往復ビンタされてる彼が、別の理由で意識を取り戻せなくなってるけど。
「ユヌカス様、ナンテコッタ国から通信が繋がっております。ラメル様のことのようです」
気を失った彼ではない兵士が、透明な石でてきている通信具を運んできた。
石の中に茶色の髪を1つに縛っている真面目そうな青年が映っている。
この通信具を使えるなんて、きっと魔力の多い人なんだろうな。
『お久しぶりでございます、ユヌカス様。実はラメル様がこちらにいらしておりまして』
茶色の人が通信具の向きを横にずらすと、ママが映った。
ママによく似た男の人が、ママに組み敷かれて悲鳴をあげてるね。
「ママ、元気そうだね」
よかったね、とパパを見る。
見なきゃよかった。
「ラメルがご迷惑をおかけしているようで、申し訳ありません!……ジルベイダ殿下を踏んで蹴り上げるなんて、ああ、なんてことだ」
オクスィピトおじさまの顔が真っ青だ。
「ラメルに踏まれるなんてなんて羨ましい……くううぅ……あいつが、あいつが俺のラメルを攫ったのか?あ"ぁ?」
「ユヌカス!落ち着け!戦争でも起こすつもりか!」
『ち、違います!ジルベイダ様が攫ったわけではありません!攻めて来るのはお止め下さい!』
茶色の人とおじさまが声を上げる。
『もう!なんか細かいことやるの面倒くさいな』
画面には映ってないけれど、女の人の声がする。
ドッガッドォォォォォオン!!
と思ったら急に大きな音と一緒に砂煙が立った。
通信具が真っ白になっちゃって、全く見えない。
『ああ!アレスティーナ様!!』
なんか向こうも大変そうだ。
頭に血がのぼりすぎているパパでは話にならないからか、おじさまと茶色の人で話が済んだらしい。
ママを迎えに来て欲しいって。
先程死にかけていた兵士が、もう1人の兵士と共に通信具を部屋から出していく。
「俺は行くぞ」
「わかった、わかったから少し待て。お前だけでは不安だ。すぐに人員を調整するから待て」
ぐぬぬぬ、とパパが唸り声をあげたけど、おじさまは負けなかった。
「兄上だって嫁さん達が攫われたら平静ではいられないでしょう!?」
貧乏揺りするパパは不機嫌だ。
「僕の嫁達は強いし迂闊なことはしないから、こんなことにはならん。それにいなくなっても気にならん」
「ほほ〜う?オクスィピト様?」
「へ?な、なんでここにお前がいるんだ?」
さっきまで青かったおじさまの顔が、土色になっていく。
「今のお言葉が、どういう意味なのか、ふふ、今夜じっくりお聞かせくださいませ。ああ、でも私達はオクスィピト様の忠実なる僕でございますから」
マリンが腰にある剣をカチャリと鳴らすと、おじさまが後ずさった。
「私達を受け入れるのと、いずれくるであろうランディン様のために肉体を改造されるのと、どちらがいいか選ばせてあげますわ、ふふふ」
マリンの顔が笑っているのに笑ってない。
「マ、マリンがいいです。あ、愛してますからね。きょ、今日はマリンとイチャイチャしたいな〜あ?」
ママがよく『ドナドナ』って言ってるけど、おじさまって本当、みんなに愛されてるのよね。
まあみんな、ママに対するパパの愛には勝てないと思うけど。




