35話 再会
「そろそろ来ると思うんだけどなあ」
そこら辺にいた人間を全部埋めてしまうと、ラージが呟いた。
「誰が来るの?」
「今回の件の正式な依頼主が、様子を自分で見て確認したいらしくて」
へえ。
「そういえば、アレスのことも知ってるっぽかったぞ?」
「あれ?リン達じゃないの?」
依頼主って、ずっとリンのことだと思ってた。
「うん、金払いの異様にいい貴族なんだけど」
ん?
「そんな知り合いいないけど。私ずっとばあばと2人きりの生活だったから、貴族の知り合いなんていないよ?」
私とラージが?マークを浮かべながら顔を見合わせていると不思議そうにお姉ちゃんがこっちを見た。
「っていうか、アレスは私の妹なんだから貴族っていうよりも王族でしょう?あれ?アレスってどんな扱いになってたの?」
「へ?オウゾク?」
ラージがアホ顔で私とお姉ちゃんを比べ見る。
と、玄関口の大きな通りのずっと向こう側に砂煙が立った。
目を凝らすとすごい勢いで魔車が1台走ってきてるのが見える。
その後ろからは騎乗した1軍隊、かな?
みるみるうちにその姿が大きくなると、広場に急停止した。
魔車から男の人が降りてきて、顔を上げて周りを見渡す、と動きを止めた。
「……ええと、ラージ君?これは一体どんな状況か確認しても?」
そりゃまあ、辺り一面、地面にめり込んだ人間がいっぱいぐったりしてればそんな顔にもなるわな。
魔車から降りてきた男性がしばらくの沈黙の後、氷のような笑顔を浮かべてラージを見やった。
「君からは魔力が無いと屋敷内に辿りつけないことと、アレスという少女が行動を共にしていることしか連絡を受けてなかったよね」
まあ、ちょいちょい電話から声は聞こえてたけど、と小声が続いた。
「あ、アレスと結婚しました。紹介します、嫁のアレスです」
空気を読まずにっこりとラージがつげる。と、さっきまで高圧的な不機嫌さだった男性がさらに冷気を纏ってラージを無視し私に向き直った。
この人、見覚えがある。
「随分とお久しぶりになりましたね。急に姿が消えてしまって心配していたのですよ。アレスティーナ姫」
うん。あの人だ。
声をかけてきたこの人は、いつも商隊の人を引き連れてやってきていた、銀髪の人だ。
「アレスティーナ姫のお住まいから外に出る門には、兵士が配置されているのですよ。兵士から『外に出るという様子も報告もなかった』と聞いています。その姫が、何故こんなところにいるのでしょうね」
おお、むっちゃ非難されてる。
と言われても、勝手に出てはいけなかったことも、外に出るのに許可らしきものがいることも私は聞かされてなかった。出口の存在も知らなかったのだ。
仕方なくない?
私はなんかヤバイことしたのか?と不安に思っただけだったけれど、お姉ちゃんは違ったようだ。
「不思議だと思ってたんだよね。お母さんが『アレスをサバイバル生活させて』とか言ってて。ちゃんとお姫様扱いされてたらそんなことをさせられる理由がないはずで……」
ぶつぶつと呟いたお姉ちゃんがキッと顔をあげた。
「んで、わたしのかわいい妹をこんな扱いしてくれたヤツを心底懲らしめたいんだけど、誰を締め上げたらいいと思う?ジルベイダ様」
ふふふと笑うお姉ちゃんの怒りの形相は、何故だか彼に向けられた。
「は、はあ?ま、待て。何故貴女がここにいるのです?!は!このことをユヌカス様はご存知で?」
さっきまでの高圧な態度が一変して、ジルベイダの顔色が真っ青だ。
「知らないんじゃない?急に呼び寄せられちゃったから、誰にもこっちに来ること言ってないもん」
そんなことよりもさ、とお姉ちゃんがジルベイダさんを見上げる。
「私は当然のように、アレスがそれなりの生活してたと思ってたんだよ。でも違ったんだね。それになんでアレスの行動を、いちいち貴方が管理しないといけないのかなあ?あぁ?」
すっと目を細めたお姉ちゃんに、ジルベイダさんの顔色が無くなっていく。
ちょっとかわいそうかも。
私、そんなに酷い生活してなかったんだよ、お姉ちゃん。
「お姉ちゃん、ジルベイダさんと知り合いだったの?」
「うん。ジルベイダ様は母様の弟だから、私が向こうの国に行くまではお城で会ってたよ。もちろんアレスもね。それにこの間、私の結婚式に来たし」
お城での生活は何にも覚えてないなあ。
「何呑気なこと言っているんですか!ラメル様がここにいることを、ユヌカス様がご存知でないのなら、急いで対応しないと私の首が飛ぶでしょう!?物理的に!」
なぜだかものすごく焦っているジルベイダ様が、私とお姉ちゃんの会話を切って入ってくる。のに、イラッとしたらしい。
「わかってないなあ」
ジルベイダ様にお姉ちゃんがゆっくり歩み寄ると、ジルベイダ様が後ろに下がる。
「ユヌカスじゃなくても、私が飛ばしてやる気はあるんだよ。私のアレスに対する愛情をナメてんじゃないわよ」
お姉ちゃんから闘気が上がると、ジルベイダ様も構えた。




