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34話 どっちが残酷って

目の前の相手は決して強くはない。

ただ、どんなに打ち負かせてもすぐに起き上がってくるから面倒くさいだけだ。

顔や出ている身体の部位は、打ち身や裂傷で変色し腫れ上がっているし、多分骨だって折れているのに。


「もう、しつっこいな!」

アレスが向かってくる敵にひと蹴り入れると、地面にめり込んだ。


もしかして、これでしばらく地面から抜けられなくなったんじゃないか?

おお、ナイス!


「目一杯魔力を通したらどうなるんだろうか?」

少し考えて、動けなくなった相手の手に剣で一刺し入れて穴を開けると、模倣剣に魔力を通して差し込んだ。


魔力を通した模倣剣で叩くだけだと、ダメージはあるようだがその内復活してしまう。

痛さとかを感じないのか、面倒な敵なのだ。弱いのに。


どうせなら、この男が動かなくなるまで魔力を通してみようか。


「ぐ、ぐがっ」

グイグイと魔力を入れていくと、30秒ほどで魔力の動きが止まり、カクッと男が力を失った。

腕を取ると脈はあるようだ。

ふむ、死んではいないらしい。


「何か楽しそうなことをしておるな。ワレもやりたいぞ。ワハハ、見ろジェリー!こいつは右手右足を埋めるのだ」

「ジェリーもやる〜!」


試行錯誤して実験をしていると、楽しそうに見えたのかゴン達が、人間を埋め始めた。


ジェリーが足元の土をパクッと溶かして食べると、急に地面が無くなり人が穴に落ちる。

隙間を埋めるようにゴンが土を戻すと、ほら「できた〜!」って、お前らそのうちバチがあたるぞ。

生き物で遊んだらダメなんだぞ。


「ほれ見よ、アレス!人間オブジェじゃ!」

「バタバタ動いて面白いな〜」

「は、はははは、はぁ」

もう好きに遊んだらいいよ。

そうだね、埋める手間がなくなって助かったって思おう。


ゴンとジェリーが作ったオブジェに穴を開けては魔力を通しているうちに、朝日が昇り始めた。

辺りを太陽さんが照らすようになると、広場の様子がよく見えるようになる。

50体ほどのオブジェが出来上がっていたらしい。


「う、うん。ここまでしてくれると、魔力を通すのが楽にできてありがたいよ」

ということにしよう。


「やった〜!アレスに褒められた!」

褒めてない!


「な、なんだと。くぅぅっ!俺だってアレスに褒められたい!待ってろ!」

ジェリーに得意満面で報告されたラージまで参戦する。


なぜだかジェリーVSアレスの芸術大会が始まった。

みるみる半身を埋められていく、敵達。


地面に埋められた人がおよそ200体。

なんとか抜け出そうと蠢いている姿が……うん、ごめん。


足や腕が埋まってるぐらいならいいけど、頭が埋まってるのを見ると、さっきまで鬱陶しいと思ってたのが申し訳なくなるから不思議だよ。


「おお!ほんの2,3時間いなかっただけなのに、すっごい地獄絵図」

どこからか、お姉ちゃんが人間だったらしい物をズルズルとひこずってきた。


「神官長に逃げられたし!」

ぷりぷり怒りながら、お姉ちゃんが運んできた人を並べる。

30人くらいいるけど、よく運べたね。

あ、あれ?


「お姉ちゃん、その人達、腕とか足とか無いように見えるんだけど」

まぶたを何度かこすって見直しても、やっぱりない。


きれいに並べられた人達の、片腕が無かったり脚が無かったり、胴に穴が開いていたり……に見える。

血は流れていないし服も血痕で汚れていないのに、不思議だ。


「あ、アレスダメじゃん!穴開けて血が流れっぱなしだと死んじゃうよ!」

私が穴に魔力を通しているとお姉ちゃんがとんできた。


お姉ちゃんに並べられた人間だった何かを見ると、埋めてオブジェにするくらい普通なのかもしれないと思いなおしていたけど、お姉ちゃんにとっては違ったらしい。


お姉ちゃんがオブジェに近づいて手をかざすと、流れた血が体内に戻っていく。

最後に傷口が塞がると、次のオブジェに小走りした。


でも私はそっちの欠損人間の方が気になるよ。

「お姉ちゃん、この人達なんで身体の一部が無くなってるの?」


「ちょっと力加減を間違えちゃって消しちゃったけど、血は流れてないからちゃんと生きてるよ!私、優しいからね!」

優しいか?

人間ってどうやったら、こんな風になるんだろう。

そしてこれを優しいと言い切るお姉ちゃんが怖すぎる。


「意識が無くなるまで虫を退治できたら、遅くても2年くらいで目が覚めるから、またちゃんと人として生きていけるし、家族が引き取りに来てくれるといいね〜」


へえ、意識が戻るんだ。


「なのにアレスったらいっぱい刺すんだもん。死んじゃったら可哀想じゃん。もう!残酷だな!」


って、お姉ちゃんにそんなこと言われると、納得できないのはなんでだろうか。





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