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33話 人体入刀

「雰囲気が変わりましたね。髪色が変わっただけのようなのに、不思議です」


扉が閉まらないように身体で抑え込んでいるマーダは、他の人には目を向けず真っすぐとこちらを見据えている。


「途中で貴女の居場所を知らせる交信が途切れてしまいましたが、途切れた場所で待機していて正解だったようです」

彼の不気味さに、ラージが私を振り返り、壁になるようサッと間に入った。


「彼が貴女の想い人ですか?なるほど、酷なことをしました」

酷?


そんなこと微塵にも思っていなさそうだ。

発せられる言葉の抑揚の無さが、まるで彼を感情の無い、人ではない何かだと伝えているようで緊張感に包まれる。


「少年ではなく、彼との間に子をもうけてもらいましょう。それでいいですよね」

とてもいい提案だ、と言わんばかりの口調に反応したのはラージだった。


「アレスは俺の妻だ。アレスとの間にいずれ子は作るつもりだが、それがお前に何の関係があるんだ」

少しも怒りを隠せてないラージの気持ちを反射したかのように、彼の胸元で飾りがギラリと光る。


「もちろん、私がアレスさんの子どもになるためですが?」

「……全く理解できないんだが」

ラージの顔に戸惑いが浮かぶ。


「アレス、あいつがアレスと俺を交えて、変わったプレイでもしたい変態かと思いきや、なんか斜め上の回答が返ってきたぞ。どうしたもんか」

理解のできない生き物に遭遇して、ラージはゴクリと唾を飲み込んだ。


「嫌だなあ。私がそんな低俗な事に興味があるわけないでしょう?こう見えても昔は国を支える神官の1人だったのですから」


むうぅ、と考え込んでいたお姉ちゃんが、パッと顔を上げた。

何もない所から剣を取り出すと、その剣でマーダをペシッと叩く。


「ぐっ、がぁあ」

マーダが叩かれたところを抑え、蹲った。

お姉ちゃんが軽く叩いただけなのに、この苦しみようはなんだ?


「やっぱり、乗っ取られた系の人だ。それにあんた、あの時の神官長だよね?」

お姉ちゃんが真剣な顔をして、剣を構えた。


「私のお父さんが随分と酷い目に合わされたから、いつか見つけたら思っっいっきりど突こうと思ってたんだ!」

魔力いっぱい込められてギラギラと光を放つ剣を振りかぶると、マーダに向けて振り落とす。


「いや!私に酷いことをしたのは貴女たちの方ですからね!」

何かに気がついたように驚いて顔を引きつらせたマーダが叫んだ。

なんとかギリギリお姉ちゃんの攻撃を避ける。

と、どこにいたのかたくさんの人が湧いてきて、マーダの盾になるように立ち塞がった。


「1人1人刺して殺しちゃってもいいけど、あの虫を退治しないと敵の数は減らないよ!」

言うが早いか、お姉ちゃんが飛び出した。

お姉ちゃんの狙いはマーダだ。

こっちを見向きもしないで行ってしまった。


ペシペシ叩くお姉ちゃんの戦い方は、全然強そうではないのに、彼らはぐおぐおと倒れていく。


そして私はなぜか彼らに引っ張られ、拘束されそうになっている。

片っ端から蹴りを入れて引き剥がしてくれるラージがいてくれるからいいが、かなり気持ち悪い。

そんなに私の子が欲しいのだろうか。


ばあば、外の人は変わった人が多過ぎてちょっと疲れます。


「こうなってみると、お姉さんに本格的な結婚式をしてもらっておいてよかったな」

とにかくこの人混みから抜け出そうと走り出したものの、次々と湧いてくる人で足を止めざるを得ない。


私にしがみついてくる人の首を、ラージが力MAXで締め、後ろに投げ捨てた。

「はぁはぁ、なんで?」

蹴っても投げてもすぐ起きてくるな、こいつら。

こんな手強い相手は初めてだよ。弱いけど。


「いや、あいつらが仮にそういう意味でアレスを襲ってきてもあいつら女になっちゃうんだろ?」

おお!

「そうだったね」

なんか急に怖さがなくなった。


「ところでラージ」

「なんだ?」

「この剣、使ってみた?」

「いや。叩くだけの道具だろ?殴った方が早いから使ってないな」


お姉ちゃんは虫の数を減らせって言ってたよね。

そしてお姉ちゃんに叩かれた人は、私たちの殴り飛ばした奴らよりも復活するまでにだいぶ時間がかかっている気がする。


剣に魔力を通して試しに1人、斬り殺すつもりで懐に踏み込んだ。

ザックリいったつもりだったけど、彼は切れることなく、けれど今までのように復活することはなかった。地面をのたうち回っている。


見ていたラージが、かちゃりと切れる方の剣を構えると目の前の人の肩を打ち抜いた。

切れる剣で斬られた彼は痛みを訴えることもなく、立ち上がる。


「なるほど」

ただ叩かれただけなのにのたうち回る人と、斬られて血を流しても平然と向かってくる彼を見比べ、ようやく私たちはお姉ちゃんの言うことを理解した。


「本当はなるべく殺すなって言われてるんだけど、仕方ないよな」

誰に?

リンがそんな甘いこと言うようには思えない。


私が穴の空いた彼の肩の部分に、魔力を纏わせてプスっとする瞬間、ラージが寄ってきて同時に切れない剣を差し込んだ。


「これが人体入刀か。お姉さんが言っていた縁起のいい夫婦の共同作業だな!」


ニカってすっごくいい笑顔だけど、死屍累々のこの状況で縁起がいいって思えるラージの感性がすごいと思うわ。





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