30話 私のこと
「う~ん!」
爆発的な内エネルギーがどこかに流れていって、私の体調がすっきりと整った感じになった。
やっと身体のコントロールができるようになって、充足感もたっぷりだ。
床に座ったまま腕を上に伸ばすと、首をコキコキと鳴らす。
まあ、かわりにラージが少し疲れたように壁に寄りかかっているわけなんだけど。
色っぽくてかっこいいよ。いや、うん。なんかごめん。
「本当に銀のだったな〜」
声の方に視線を向けると、ゴンがかがみながら私の顔を覗き込む。それが楽しそうで、私も笑みを浮かべた。
お姉ちゃんが私の髪をすくように撫でると、テフテフライ粉で染めた水色が抜けて、元の髪色に戻っていくらしい。私には見えないけどね。
「さすがアンフルの娘だな〜。やっぱり魔力量が半端ないな!」
先ほど、私の家族構成をお姉ちゃんから教えてもらったところだ。母様の名前がアンフルって言うことも知らなかったよ、私。
「ワレがアレスに会った時はこんなに小さかったから、お主があのアレスだったとは気がつかなかったな」
ゴンが手でこのくらい、と示す。座った私の頭くらいの高さだ。
「ケイミーに頼まれて、アレスが暴走して民を傷つけないように壁で囲んだのは我なのだ!」
あの壁はゴンが作ったってこと?ん?暴走?
「ってことは、私が父様とドウシタンタ国に行っちゃったころだから、アレスが2歳くらいの時だね」
「お姉ちゃんは覚えてるの?」
私、母様のこともおぼろげなんだよ。ばあばのことはすっごく覚えてるけど。
「そりゃあ、私はもう5歳になってたもん」
そっか。お姉ちゃんは3歳上なんだ。
「ケイミーは私たちのババ様だよ。母様と同じくらい見た目が若くて、とてもババ様って感じじゃなかったし、化け物みたいに強かったんだよ」
ば、化け物?
「アンフルもだぞ。アンフルは感情が溢れると怒りが雷鳴に、悲しみが豪雨になる娘だったからな。娘の怒りで我の元々いた山も無くなってしまったぐらいなのだ」
え、ババ様だけじゃなくて、母様もなの?
「おかげで飢餓に苦しんでいた村人から感謝されたらしいぞ。険しい山で、出入りできぬ要塞のような地形だったからな。空を飛べる我には問題ないが、虫ケラのように小さな人間共にはさぞ辛かったことだろう」
うん、ゴンもよくわからなくなってきた。
空を飛べるって、猫人族の子じゃなかったのかな?
「そんな一族の血を引いているのだから、魔力のコントロールができないお主は人里から隔離しておかないといけなかったのだ」
私、暴走したことない、よね。小さいころのことはわからないけど。もしかして、暴走したことあるのだろうか。
「でも、その割に私は普通に生活できたよ。魔力の扱いで困ったことないもの」
私が考え込んでいると、お姉ちゃんが異論を唱えた。
「お姉ちゃんも?私も暴走した記憶がないんだけど」
私が首を傾げると、お姉ちゃんが「あ」っと声をあげた。
「アレスが暴走しなかったの私のせいかも。私、あの時お腹がよくすく子だったんだよね。母様もアレスもおいしかったよ」
どゆこと!?
「ラメルが暴走しなかったのは、お主が普通の肉体を持たずに生まれたからであろうな」
「ドウシタンタ人だから?人っていうよりはお魚だもんね!」
お姉ちゃんがポンと手を打って納得する。
「違うのだ。お主は2人の母から肉体を分けられて生まれたのだから、元々の容量が2人分なのだ」
お姉ちゃんが目を瞬く。
「じゃあ、アレスはどうなるの?」
いや、その前に2人分の身体に疑問を持とうぜ。
「アレスは普通に1人分の容量だ。生身の身体で魔力を受け止められなければ死ぬかもしれん、アンフルみたいにな!」
ゴンさんよ、今まさに身体の異常と向き合っている人間に、恐怖を与えてどうする。
全く危機感は湧いてこないけど。
「それを阻止するためにシルヴィアがアレスに制御を施し鍛えたのに、こんなに簡単に外れるとは思ってなかっただろうな」
シルヴィア?シルヴィアってばあばのこと?
「なんですと!むむ、じゃあアレスに制御機能を付けた方がいいってことなのね?」
お姉ちゃんがゴンに確かめる。
「なんだ、お主、制御魔法を施せるのか?では、問題ないではないか」
「ううん、できないよ。私、至って普通の人間だからね」
じゃあなぜ聞いた。いや、その前にお姉ちゃん普通か?
「でもアレスが母様みたいになっても困るよ。私のかわいい妹だもん。できそうな人は何人か知ってるけど、ここにいないし」
お姉ちゃんってすごい知り合いがいるんだね。
「まあ、そんなに心配いらんだろ。なんたって、そこの人間が、アレスの負担を半分引き受けているらしいしな」
え、そうなの?
「ラージ君がたくさん無理をしてくれて、先にくたばってくれるんだね!」
お姉ちゃん、言い方!
「いや、ラージとやらがくたばったら、アレスもその後すぐにくたばるだろ」
な~んだ、と安心していたお姉ちゃんがゴンの首を捕まえる。
「じゃあ、どうしたらいいのよ!」
ゴンをガッコンガッコン上下に振る。ゴンの首、もげそう。
「あの、楽しい家族の団欒?をしているところ申し訳ないのですが」
「なんじゃ?」
いや、ゴン。お前は家族じゃないし。
「お姉さんに解決の心当たりがあるのなら、ひとまずここから出ませんか」




