24話 ミザリーの公認
カタッと板を外して床に降りる。次いで、ラージも降りてきた。
誰もいない。それに、変わってないな。
別の誰かが入ったというわけではなさそうだ。
「ここは?」
素早く周りを見渡すと、窓の近くにラージが場所をとる。
「2・3日前まで私がいた部屋だよ。まだ荷物もそのままだ」
そのままベッドに腰かけると、ベッドの裏に隠してあったものを引っ張り出した。
「ラージ」
それを広げると、私の横に座って覗き込む。
「細かいな」
「隅々まで確認したからね」
トカゲンもいるし、私もそれなりに時間があった。
この屋敷の見取り図だ。
「外壁と内装の間が広すぎるな」
「うん。人が通れるくらいの通路があった、よ」
私が全部言い終わる前にラージが私を背にかばい、小手に隠れていた武器を構える。
バンッ!
「誰ですの!?」
入ってきたのはミザリーだ。
制止するより早く、ラージがミザリーを組み伏せる。
「ラージ、ストップ!ミザリー、声を出さないで」
私の姿を確認すると、ミザリーが身体の力を抜き、頷いた。
「ラージ、この子は大丈夫。話せばわかってくれる子だから」
私とミザリーを交互に見やって、ラージが拘束を解いた。
私の前に立って、ミザリーと向かい合う。
「アレス様。ご無事でなによりです」
ミザリーはラージのことは気にならないようで、私の手を握ると涙を浮かべた。
「私の扱いはどんな感じになってるの?」
ミザリーが涙を浮かべるなんて、私、死んだことにでもなってたのかな。
「アレス様は、ご実家に帰られたと通達がありました。けれど荷物は置いたまま。アレス様はわたくしたちの誰にも挨拶なく行ってしまわれるような方ではありませんもの。話し合ってこの部屋はそのまま残すことにしたのです」
おかげで助かった。
まさかいきなり庭に小屋を出すわけにはいかないし。
「そう、ありがとう」
にっこり笑うとミザリーが赤くなる。
「ところでアレス様、そちらの方は?うわさの想い人様ですか?」
へ?
「アレス様のためになんでもしてくれて、アレス様もここで毎日想いを馳せていた方ですものね」
わ、わ、わわ!
「ま、待って、待ってミザリー!私、まだ、ラージに何も言ってなくて!ちょっとの間でいいから2人にしてくれない?」
怖くて隣を見れない。ラージがワナワナと震えはじめてる。
「はい、アレス様。わたくしアレス様と大事な方との逢瀬を邪魔するような野暮ではございません。明日の朝またご機嫌伺いに参りますから、どうぞごゆっくりとなさってください」
なにか大きな誤解をしたまま、ミザリーがスキップで行ってしまった。
「え……、と、ですね」
ここは潔く謝るしかない。
目をぎゅっと閉じて、勢いよく頭を下げようかと思ったその瞬間、ガシッとつかまれ顔がぶつかった。
口に張り付いているものが取れない。
手で腕で必死に引きはがそうとしてもビクともしやがらない。
ああもう、これはあれだ、バウワウモードだ。落ち着くのを待つしかない。
「アレス」
うん。バキッ。
「アレス」
うん、うん。ボカ、ドスッ。
「アレス」
うん、うん、うん。ベシ、ドタ、ベキッ!
「っていい加減にせんかい!」
返事代わりに、壁やら机やら椅子やらに当たっていた攻撃が、やっとラージの顔面に決まった。
「その前にいろいろ話さないといけないことがあるよね」
いろいろ飛び過ぎてるのだ。まず、落ち着いて話!
状況確認!
ため息をついてにらみを利かせると、ラージがぴょんっと飛び上がって正座になった。
おいおい、いつの間にベッドに乗ってたんだよ、私達。
「ずっと前から気になっていました。籍はいつ入れようか」
「決定事項かよ!」
照れ隠しに一発入れると、腹に決まってラージがドアの近くに飛んで行った。
「いたたた。は!もしかしてこの腹に入った1発は、もう籍は入ってるってことを意味しているのかも」
「入ってないわ!」
思わずもう1度こぶしを突き出すと、ラージの右頬にいい具合に決まった。
横の壁にガツンと当たってそのまま気絶したようだ。
ふ〜やれやれ。結局なんの説明も確認もできなかったな。
まあでも疲れてる顔をしてるし、そのまま寝るといいよ。
それに別に嫌ではないのだ。
人の気配が落ち着かない私が、こうして同じ布団で寝れるくらいには、うん。
「よいしょ」
ラージの腕を持ち上げると、中に入り込む。胸の中におさまると私も寝ることにした。
ふふ、落ち着く、不思議。
「おはようございます」
ミザリーの声で目が覚めた。
「早い時間に申し訳ございません、アレス様。お仕事から戻るのが昼過ぎになりますから、またあとで参ります」
抱き布団をはがして半分身体を起こす。
「うん、わかった」
返事を返すとミザリーが手で顔を覆った。
「さ、昨晩も、その、ラージ様は激しい方なのですね、キャッ」
はあ?
意味不明のテンションミザリーを見送ると、隣で寝転んでいたラージが照れたように頭をかいた。
「公認だな」
って一体なにが?




