22話 お菓子な菓子
私は今、奥まった部屋にいる。
こんなに奥にも部屋があったんだなあ。
マーダさんに呼ばれて廊下を行くと、急に扉が現れてびっくりしたもんね。
ただ、地図に書いた見取り図が明らかにおかしかったから、奥に部屋があるとわかって納得もしたけど。
「君の仕事ぶりが、本当に評判よくてね」
この恰幅のいいおじさんは、ミザリーたちが頭を下げて迎え入れる人だ。
つまりこの館を牛耳っている支配人だ。
「他の仕事もしてみる気はないかい?金額次第でいろんな仕事をしていると聞いたのでね」
なんていうか、その話、どこまで広まっているんだよ。
「毎日の給金も手元になく、いろいろなことをして、小遣いを稼いでいるらしいではないか」
給金が手元にないのは空間棚に入れてるからだし、小遣い稼ぎは私が意図したことではない。
まあ、けどとっても懐があったまったのは否定しない。
むっちゃ金持ちになったもん、本当。
私ここに乗り込んできてよかったなあ、ふふふ。
「まあ、たっておらんで座りなさい。ああそうだ。異国のお菓子が手に入ったんだよ。食べてごらん」
穏やかで、甘い笑顔で言われても、後ろから宝石やら魔石やらの後光が差していると、うさん臭く見えるから不思議だ。
前に受けた印象とは行ってくるほど違うんだよね。
目の前に用意されているお茶とお菓子のセットに目をやる。デコレーションの鮮やかな小さいお菓子。
町中でも見たことない、高級そうな一品だ。
でも、食べたくない。
飲み物も、お菓子も、薄っすらと靄がかかって見えるんだよなあ。
こういうものは口にすると、大概お腹を壊すんだよね。
きのこ類なんてテキメンにわかる。人の骸骨の模様が浮かび上がってる物は、ホントに危険だ。
「さあ、遠慮せずにやりなさい」
遠慮はしてなない。が、この状況で食べないのもおかしいか。
このくらいなら、命にはかかわらない、はず。
周りの様子を伺うと、配膳した使用人に違和感を感じた。
私に注目しすぎだ。
ここは、身を任せてみようか。
意を決して口にすると、予想外のおいしさだった。
「おいし!」
中に入っているの何だろう。
甘いんだけどくどくない。表面のプルプルが冷たくて、変わった食感だ。
今度ジェリーとラージに作ってあげたい。
「そうだろう。遠慮しないで、食べるといいよ。……全てね」
支配人の様子はおかしいが、もういいや。
このお菓子を今度作るためにしっかり記憶しておきたいし、お腹が痛くなる系ではない事だけははっきりした。
しばらくすると、眠たくなってきた。
そっち系だったか。
薬品の効果に身を任せ、意識だけを残すと寝たふりをする。
「寝たか?」
この声は支配人。
「寝たようですね。いつものところに運びましょう」
この声は聞いたことがない。
身体が持ち上げられ、これから私はどこかに運ばれるらしい。
「これほどに、髪色がはっきりと属性を表しているのは、あの子以来だね」
私の髪色?
「近年では、染めたわけではなく、魔力を纏う真正の髪色は貴重になりつつありますからね」
この髪色が貴重?
まあ、でもひとまず、これ以上にヤバそうな命にかかわる気配はない。
止めていた薬品の動きを開放し、眠気に身を任せると、私は意識を手放した。
耳元で気配がする。
『気がつかれたようですね。ボス』
おや、チュズミかな。
『声を出さない方が賢明です。部屋の外に見張りがいますから』
部屋にいないのなら、そっと起き上がるのはありか。
『ボス以外にも、このように寝かせられたままの部屋がいくつも並んでいます』
チュズミの言葉に、目だけで辺りを伺う。
この部屋はベッドが1つ置かれ、人が行き来するギリギリのスペースがあるだけの狭い空間らしい。
おかしいとは思ったんだよね。
繁華街から離れた場所にあり、それ程の人の出入りもないのに金回りはいい。
たくさんの客室が、宿泊客で埋まることはないのにだ。
『トカゲン様が、ボスの目になるためにそれらの部屋で待機しています。私たちは交代で、この部屋に必ず1匹いますから、何かあったら指示をください』
チュズミ、ただの腹黒ではなかった。使える奴だったか。
ジェリーとトカゲンに、こんなこと考えられるわけがないもんね。
トカゲンが動き回って部屋を回ってくれた結果わかったことがある。
部屋にいるのは、割とはっきりした色の出ている女性ばかりだということ。
この国で一番多い茶色の髪の人は1人もいない。
そして、全員のお腹に置かれた小さな箱。
これの意味することは何だろうか。




