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20話 魔石の素の正体は

私今、凄腕マッサージ師として名を馳せている。


いや、この間いろいろやらかしてミザリーを助けちゃったもんだから、それをごまかすためにはじめたんだよね。

パックリ開いていいた傷跡をふさいで、治療するところまでは予定通り。

その時長年消えなかった傷跡というものも区別を付けず治したことで、口コミで評判が広がった。

ミザリーから。


「傷跡はなくなったけど、もう少し艶がほしいわ、あとハリも」

それはどうにもできないよ、ミザリー。

「そうよね、なんていうかツルっていうか、すべっていうか」

ツルッとすべっ、ねえ。

「アレス様みたいなこんな感じですわ」

いや、ミザリー。マッサージをしている手を握られたら、続きができないよ。


でも、私みたいにツルっとしたいっていうなら、方法はある。

「ジェリー」

『なあに~』

「ちょっと手伝って」

『は~い』

つまりアレだ。ばあばと水中戦をする前に、いつもジェリーにやってもらっていたアレだ。

何回か繰り返しているうちに、産毛が生えてこなくなったから、今はもうやってないけど。


「ま、まあ。なんですの?これ」

「ちょっとあなた、すべすべじゃないの」

「これよこれ、これが欲しかったのよ!」

部屋にいたお姉さまたちの目から炎が飛び出した。


「かっこいいアレス様に触られながらゆっくり横たわって、気がついたらすべすべで美しくなるなんて……はっ!こんな近くに天国があったなんて!」

いやもうなんか、まじコワイ。


「はいはいは~い。ご予約はこちらからですよ~」

声を張り上げて同部屋のキカナが号令をかけると、一斉に列ができた。……最後尾が見えないけど。

先ほど施術が終わったばかりのミザリーは、キカナの横で助っ人受付嬢に変身した模様。


「ふふふ、金額次第では私この部屋から移動してあげてもよろしくてよ。もちろん移動は皆様の手で行ってもらいますけど」

キカナが目をカーネ型に変えて変なことを言い出した。

「どういうことですの?」

誰も意味を理解できない。


「私がこの部屋から移動したらどうなります?」

目の奥を光らせて、キカナが部屋を見渡す。

「ベッドが空きますわね」

「荷物を持ち出せば部屋が広くなりますわね」

「椅子を持ち込んだら、ここでお茶会して待っていられますわね」

「あら、それいいじゃない」


いやいや、ちょっと待って!私、こればっかりするわけにはいかないのよ。探し人がいるんだってば!……ん?ちょっと待てよ。

ここに人が集まって、出入りすればそのうちカレンもやってくるんじゃない?

な~んだ。なんか楽ちん。


「あ、じゃあ私ちょっとシーツ持ってきていい?隅っこでやるから」

「あら、私もタマオニ持ってきて皮剥くわ」

「どうせならジェリーボックス運んじゃいましょうよ」


みんな、この部屋に仕事を持ち込まないでくれる?

どうせ聞いてもらえないことはわかってるんだけどね。

うん、心の中で言ってみただけだから。口に出す勇気はないから、うん。


しかし、女子トークが止まらんなあ。

「本当、タイ長達の腹のたつことったら!」

「そうよ、そうよ。この棟の掃除を3人で終わらせろ、とか」

「ほんとよ、何部屋あると思ってんのよねえ、あのハゲ!」


ちなみに、タイ長さんとは、使用人長の一番偉い人のことだ。ポチャッとしたおじさんだ。

その下に3人のモウ長さんがいて、それぞれのモウ長さんの下に、これまた3人のショウ長さんがいる。

ミザリーはショウ長さんの1人だ。結構偉い人なのである。


3人でこの棟の掃除を命じられた彼女たちの担当洗濯物は、只今この部屋のジェリーボックスで洗濯中だ。

ん、終わったっぽい。


〈乾いて、伸びて、収まりなさい〉


命じておけば、勝手にジェリーボックスからシーツが出てきて、速攻乾燥、皺を伸ばしてそのまま畳まる。それが部屋のソファーの一角に次々に積み上がっていく。


はじめは白目をむいていた彼女達だったけど、順応するのが早かった。

その上、今日最後の予約のメモリーは次々に話が変わっていく。もう話題についていけない。


「それにしても、全員の持ち物を調べるのは大変でしたわね」

「なんでも、隣国との取引材料だった魔石の素が、ごっそりと無くなってしまったんですって」

「まあ、盗まれたの?」

「って、なにそれ。私たちが疑われてたってことじゃないの」

「失礼しちゃうわよね~」

ああ、おしゃべりが止まらない。


「それにしても、魔石の素ってなにかしら」

「魔物の卵、らしいわよ」

「なにそれ~。そんなもの、そこにあったって触らないわよねえ。気持ち悪い」

ほうほう、ごっそりとなくなった魔物の卵……とな。

ん?

イヤイヤ、まさか、な。


思わず天井を仰ぎ見る。


トカゲンが顔の前でパタパタと手を振った。知りません、知りませんってか。

その横で、話を聞いていた小鳥が上下に震えている。

この間孵化したばかりだ。

トカゲンのことを母だと思っているらしく、自分もトカゲンだと思っている。

いや、その前にトカゲン雄だからね。パパって呼んであげてね。


「できましたよ」

メモリーの身体を消毒もかねて大きな水の玉の中で洗い流すと、施術終了だ。

「はあああん。大、満足ですわ!」


こうして、使用人みんなが輝きだした。

みんなが楽しく輝いているってことは、このチームがまとまってる証拠だと思うんだ。


なんかいいことした気分!


でも、使用人全員が終わったけど、カレンっていう名前の子は来なかったなあ。う〜ん。



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