19話 どんどん増えるの
トカゲンが天井裏生活をするようになって、ジェリーも護衛として住処を移した。
あの後、なんと卵が合体しはじめて、こぶし大の1個の卵になった。
もう、何が生まれてくるのドキコワしている。
お腹の様子もひと段落して、トカゲンとジェリーも部屋に降りてくるようになった。ベッドの上で、チュズミボスと何やら話し合っている。
キカネは毎日帰りが夕方なので、午前中に貴賓室を掃除し終えてしまえば私は暇だ。部屋で自由だ。
集めた情報を見取り図に書き込んで、整理しながら思案中だ。
どうしたもんかなあ。
『いかにジェリーさんが強くても、ニャコには勝てないでしょう。ニャコは我々と違って大きいですからね』
『そんなことないし~。ジェリー強いし~』
チュズミが急に立ち上がると、ジェリーが声を荒げた。
かと思ったら、2人?して窓から飛び出して行った。
トカゲンがしっぽを振って私を振り返ると、親指を立ててのっそり歩いて行った。
ジェリー達の様子を見てきてくれるらしい。
トカゲンと視界を共有しておくことにするか。
頭の中で映像を映しながら、手では今までの集めた資料を地図に書き記す。
ふむ、白ニャコと対峙しているね。簡単に潰してしまえるスライムなんて怖くないぜという貫禄がにじみ出ている。
ジェリーのプライドに火がついたのか、果敢にニャコを攻撃しはじめた。
あ、白ニャコの毛が溶けちゃったね。
丸まって身体を隠す白ニャコの前で黒ニャコがジェリーから庇うように立ち上がった。
白ニャコが黒ニャコをおさえて、首を振る。抵抗せずに、降参することにしたらしい。
白ニャコがジェリーに飲み込まれて透明になった。黒ニャコがものすごく泣いている。
なんていうかさ、これだけ見てると、完全にジェリーが悪役だよね。
チュズミに乗せられて、まったく悪くないニャコを力ずくで子分にしちゃうとか、もう完全に悪役だよね。
『さすがでございます、ジェリー様。しかしながら、いかにジェリー様でもバウワウには勝てませんでしょう』
チュズミの一言で奮起したジェリー、チュズミの集団で作られた御輿に乗ると『行け~!』と走り出した。
お腹の重たいトカゲンも便乗して御輿に乗っている。
もう、いいように使われてるじゃんジェリー。
そうして始まったバウワウ戦。ニャコ戦と違って土煙が立っている。
土煙が邪魔で様子がわからない。
っていうかさっきから、地図作りが進まない。
ああ、もうっ!
気になる。行っちゃおう。子どもの喧嘩に手は出さないけど、ジェリーが何をやらかすか、把握だけしておきたい。
普段の使用人服ではなく、動きやすいパンツ戦闘スタイルに着替えると窓から飛び出した。
どっちに行ったかな。
魔力の繋がりを頼りに走って行くと、向こうからメイドさんたちが走ってきた。
「今、あっちに行くと危険ですわよ」
って、ジェリー、いったいどんな激しい戦いをしてるんだよ。
これは早く行って回収しないといけないな。
探索のスピードを風の速さに切り替えて疾走すると、ジェリーの傍らでしっぽを足の間に入れているバウワウが見えてきた。
なんだ勝負ついたんだ。
けど、なんか様子が変だ。
ジェリーから焦りの念派が送られてくる。
周りを確認せずにジェリーの前に飛び降りた。
なるほど、ベアモンか。
3匹もいるじゃん、うまそ。
「まだそんなところにいるのですか!さっさと逃げなさい!」
食料ゲット♡認定してベアモンと対峙していると、ベアモンに捕まったミザリーがいた。
「全員が退避しないとわたくしも逃げられませんから、早く行きなさい!」
って囮になったの?そんなに弱そうなのに?
「ミザリーさん、もう捕まっちゃってるじゃないですか」
服は破れ、血が滴り落ちている。
腕も折れているかもしれない。
「ここは私1人で大丈夫です。早く行きなさい!」
それって、食べられちゃうのはミザリーだけで十分ってこと?
なんかミザリー、使用人頭の鏡過ぎるでしょう。
私に気がついた1匹のベアモンが、エサ認定したようにこっちに向かってきた。
ベアモンの爪に、ミザリーの破れた服が引っかかっている。
それを意識した途端、頭のどこかが白く飛んだ。
ベアモンの腕を引っこ抜くと破れた服を回収。
それを見て怒ってやってきたもう1匹をワンパンすると、お腹に穴が開いた。
残るはミザリーを捕まえているヤツだけだ。
ベアモンがミザリーを殴ろうとした瞬間、彼女を捕まえいるベアモンの手を切り落とし、ミザリーを抱き寄せる。
もちろん振り返りざまに一蹴り入れるのは忘れない。
ベアモンが倒れたのを確認すると、安心したのかミザリーが泣き出した。
これはひどい。血を流し過ぎている。これ以上出血したら助けられない。
ポケットの中から取り出すふりをして、空間棚の中から完全回復飴を取り出した。
ミザリーの口に放り込む。
ああ、よかった。傷口ふさがったね。腕の形も戻ったみたい。
横抱きされているミザリーが、ほや~んと私を見上げ、ハッとしたように身じろいだ。
「わ、わたくし、重いですから」
降りますって、もう。
「全然重くないよ」
ケガは治っても、無くなった血は戻らないんだからね。
ミザリーが安心するように、感情をおさえた低めの声で話しかけ、にっこりと笑っておく。
だって風魔法で浮かせてるから、本当に体重なんて感じないんだもん。
空間棚に一旦ベアモンを収納すると『わかってます!』とジェリーが残った血痕のあとをぺろりと片付けた。
もうここで何かが起こったかなんて誰にもわからない。
木に傷がついていたり、斜めに傾いたりはしているけれど、一応元通り。
今日部下に加わったらしい動物たちも、地面にこすりつけるように一礼すると森に消えていった。
「私たちも戻ろうか」
ミザリーの服、破れたままだし。
あ、前方からマーダさんだ。
「ベアモンが暴れていると聞いたのですが、どちら方面でしょうか」
腕の中のミザリーが後ろを指さす。
ミザリーの乱れた服を見て、マーダさんが走り出した。
逃げていったメイドさんたちが、報告したんだろうな。
「でも、もういないけどね」
「はい、ダーリンのおかげです。ふふっ」
ミザリーが私の顔を見上げてほほ笑んだ。
ミザリーって厳しい人だと思ってたけど、なんかかわいくない?




