16話 女子力
1日の仕事と南側の捜索を終えて部屋に戻ると違和感があった。
ん~、別に何かが取られているとかではなさそうだけど。
「あ、いましたわね」
部屋の何が違和感につながっているかと、カーテンの裏や床の下の気配を探っていると、先輩たちが訪ねてきた。
「ちょっとアレスさん」
その中の1人が前に出てくる。
「あなた、普段仕事を終えた後は何をなさっているの?」
まさか、ばれた?
「何、とは?」
ひやりとした緊張感で背中に汗が伝う。
「そ、その。これ、差し上げますわ」
袋を手渡される。ぎゅっと手を握られて、「がんばるのよ」って。
ものすごく意味不明なんですけど。
「マーダ様もおっしゃってましたものね、アレスはお金が必要なんだって」
はあ?
「わたくしも聞きましたわよ」
後ろで構えていたミザリーさんがつかつか寄って来ると、バンッと肩をたたかれた。
「キカナに頼んであなたのクローゼットの中を確認したら、服が2枚しかなかったじゃない!」
「そうですわ!下着なんて0よ、0!女子がそんなことでどうするのです!」
え~と、空気棚に入れてあるからね。さすがに無いわけないからね。と言えないのが困った。
「今日洗濯したところですから」
「そんなのうそよ。どこにも干してないもの。確認してきたわ隅から隅まで!」
あのたくさんの洗濯物を誰のか全て把握してるのか?怖いな。
「本当ですわ。いくら親元に仕送りをしなくてはいけないからって、自分のことも少しは贅沢なさいまし!」
「病気のご家族がいらっしゃるの?」
「あら、ご家族の借金を返すための働き口を探してたのよね」
私は一言も発していないのに、なんだか勝手に私の家族構成が作られていく。
「あの~、私、家族がいないので仕送りとか、別にして」
ないって言おうとしたら、みんなが泣き崩れた。
これは、どうしよう。
お父さんのことは全く覚えていないし、お母さんはキラキラと消えてしまった。
ばあばが言うには、ナンテコッタ国にお姉ちゃんがいるらしいけど接点はないし、私は結構自由だ。
1人だっていう不安があるわけでもないしなあ。
「まさかの、あの想い人に貢いでますの?」
どうしてミザリーさんが知ってるの!キカナか?キカナだな~、あのヤロ〜。
「そんなことないですよ!むしろ、して貰っていますから!」
「想い人!?想い人がいますの?」
「な〜んだ、マーダ様狙いじゃないのね?」
「かっこいいんですの?」
「アレスのどこに惚れたのかしら」
いや、胸揉まんでください。
先輩たちの迫力に、どんどん押しやられて後ろはもう壁だ。
「それにしても、恋人から援助してもらっていて、この質素な暮らしぶり……?」
「わかりました。わたくしたちあなたのおかげでお給金も上がりましたし、お手伝いしますわ」
「本当、女子力0ですもの」
鼻息荒く宣言したかと思うと、腕まくりした先輩たちにより部屋が模様替えられていく。
おおう。
今気がついたけど、人のクローゼットを勝手に見るとか、怒ってもよかったんじゃないかな。
もう言える雰囲気じゃないけども。
ああ、部屋がキラキラしてきた。
落ち着かないでござる。
うん、私決心したよ。
荷物はきちんとクローゼットにしまおうと思います!




