15話 スキルアップ
そろそろ1月は経つだろうか。
地道に仕事をこなしながら評価をあげていたら、なんと貴賓室のお部屋を任されることになった。
おお、さすがは貴賓室。
置いてある調度品が、キラキラピカピカしてる高価な物になった。
おまけに担当者が私1人じゃないのだ。高価な品物が多数あるし、短時間でこの広さを整えなければならないということで、何人もの人が一斉に仕事する。
あまり力を使っているところを見られたくない私にとっては不都合だらけだね。
困ったなあ。
力の調整をすると、気づくか気づかないかくらいでベッドを浮き上がらせる。
水を出して汚れを浮かせると、ジェリーが回収。ついでに、こびりついたシミなんかもジェリーが根こそぎやっつける。
あとは暖かい風を起こして乾かせば終了っと。
ふ~、緊張する~。
「ちょっと、そこのあなた。ダラダラしてないで、さっさと終わらせてよね!」
気の強そうな先輩メイド?さん達だ。
目を吊り上げると、私の掃除をした後を指でこすった。
ジェリーがそっとその指を舐める。
「マーダ様が推薦するから、仕方なくこちらに配属したのよ。全く使えないんだから。見なさい、この指!」
ピカピカになった指を突き出した。
「あ、あら?キレイになりましたわね……」
目をパチクリさせて、みんなで指を覗き込む。
次いでベッドの下を覗き込んだ。
ジェリー、ナイス!
続いて高価そうな壺やら絵画やらの額をジェリーが舐め始めた。
私は天井の汚れを、風の力を使って落としていく。
大まかに汚れを払ってしまえば、あとはトカゲンの仕事だ。
床に落ちてきた埃を広がらないように1か所に風で集めると、ジェリーがパックン。
先輩メイドたちが呆然としている間に終わったね。
「この部屋、こんなに明るかったかしら」
先輩メイドのミザリーさんが輝きだした部屋を見て呟いた。
時間になると、恰幅の言いおじさんが部屋に入って来る。
先輩たちが一斉に頭を下げたのを見て、私も慌てて頭を下げた。
「今日の出来は素晴らしいね。結構結構。君たちもようやく満足な仕事を覚えたとみえる。明日からも頼んだよ」
おお、褒められた。
先輩も褒められたのを感激したらしく、プルプル震えている。
いい上司だと、過ごしやすい職場で楽しいわ。
2日目以降になると、先輩が絞り終わった布巾を手渡してくれたり、汚れた水の取替をしてくれるようになった。
この間のは、私の根性を試すための試験みたいなものだったらしい。
上司もいい人で先輩も優しくて、バイト代も貴賓室1部屋で普通の100部屋分と一緒。
ね、すっごくいい条件じゃない?
これでカレンちゃんの捜索をじっくり取り組むことができるようになったね。
そういえば、すぐに追いかけてくると思っていたラージから、いまだに接触がない。
なんとなくお屋敷全体から不思議な気配を感じるのだ。ラージと接触できないのはそのせいかな、と思う。
お屋敷が広過ぎて会えていないだけってことも否定できないんだけどね〜。
「さあ、今日はこれでいいわ。もうすぐこの部屋にお客様が入られるから、後片付けをして下がってちょうだい」
ミザリーさんが指示を出すと、みんなが掃除道具片手に退室しはじめた。
「アレスさん、この後の予定は?部屋にいる?」
ミザリーさんの取り巻きの1人が、私の持っていたホウキを回収しながらこの後のスケジュールを確認しにきた。
「ん~、今日は洗濯したいのよね」
という理由で他の仕事は受けたくない。
「あらそう?じゃあ今日は南の川にいるのね」
「そうですね。お先に失礼しま~す」
部屋を出るとマッハで駆ける。誰かに捕まったら雑談が長いんだもん。
人通りのない廊下の端へやって来ると周りを伺う。
この間見つけた動く壁。トカゲンが天井のくぼみに嵌ると、ギギっと回転する。
さっと中に入ると壁を元通りに戻した。
懐から紙を取り出すと、今まで確認した場所を照らし合わせる。
まるでもともとあった建物を覆うようにかぶせられている、外壁。今日で一応ぐるっと1周確認できるだろうから、本格的な捜索は明日からできそうだ。
それにしても家の中に家があるなんて、どうしてそんなことしたのかね。




