13話 仮想恋人は
「どのみち、前の職場の制服で新しい職場に行く子なんていないから、ちょうどよかったんじゃない?」
リンが手に持っているのは、スイベリー柄の清楚系ワンピースだ。
「っていうかあ、私服を持たないで来るとか、いくらリンを心配して急いでたとしても考え無しよねえ」
旅行鞄にフリフリの服ばかりを詰めているのは、おコト姉だ。
「仕方ないから、私のお古あげるわよ」
「俺は反対だぞ」
着替えが終わって広間に出ると、足を組んで椅子に腰かけたラージがイライラと待っていた。
「え、似合わない?」
「むっちゃ似合ってます」
即答かい。
「じゃあ、いいじゃない、ねえ」
おコト姉が半分馬鹿にした顔でラージを見る。
「だからダメなんだろ!まだ子供だぞ!」
あ、そうか。年齢を訂正してなかったわ。
「私、もう16だから、成人してるよ。大人だから大丈夫!」
ウインク付きで訂正しておく。
ゴメリンコ!ってな。
顔面表情の無くなったラージを置いて、さっさと駅に向かう。
「余計、ダメじゃね~か~!!」
って遠くから聞こえるけど、まあいいや。放っておこう。
冷静になったら、かっこいいラージも戻ってくるだろう。
駅前に着くと、斜めに構えて右手で髪をヒラリンヒラリンさせている優男が立っていた。
他にも、何人かいるね。
うわさ通り、鮮やかな髪色の子ばかりだ。女の子3人と男の子2人。私を入れると6人だね。
「やあ、声を掛けた全員が集まってくれたね、うれしいよ。私はマーダ。じゃあ行こうか」
私が最後の1人だったのか、すぐに移動を始めた。
マーダさんは急いでいるのか、そこそこのスピードで歩くので、追いかけるみんなも大変だ。
「マーダさん、ちょっと休憩してもいいですか~」
とうとう頑張れなくなったキカネちゃんが弱音をはいた。
「速かったですか、すみません。金御殿まで距離があるので、暗くなる前に着きたいと思い皆さんを気に掛けるのを忘れてしまいましたね」
すでに遠くの空が赤くなってきている。
「まだかかりますか?」
同じ町なのに、遠いよね。
「皆さんは気がつかなかったようですが、先ほど門はくぐりましたから、もう敷地内には入っていますよ。もう少しです」
門なんてあった?
私の疑問はみんなも思ったらしい。
「私と一緒じゃないと、くぐりぬけられない門があったのですよ」
マーダさんが口を動かしたけど、何をしゃべったのか聞こえなかった。
「ほら、見えてきました」
マーダさんの視線の方を見上げると、見渡す限り金色の大きな御殿が現れた。
建物のでかさに、みんなあんぐり口を開いている。
それにしても、こんなに町の中心から離れていたらお客さんでも来なさそうなのに、すっごい立派な建物だよ。
料理とかが有名なのかな。
ちょっと楽しみになってきた。
「今日はもう遅いですから、各自使用人部屋でお休みください。明日、詳しい内容をお話ししましょう」
そう言うと、マーダは立ち去っていった。
音もたてず、スッといなくなった。
「マーダさんかっこいい~。イケメンよね~」
同室になったキカネがうっとり同意を求めてくる。
「イケメンだった?」
イケメンがどういうものを指すのかわからない。
「イケメンだったじゃない~。もう、アレスったら見る目ないんだから~」
いや、別にイケメンのレクチャーいらないし。
興味ないし。
「こうやって、こんな感じの人~」
「なんとなく理解できたよ」
斜めに立ってる人だね。
「今度そういう人を見つけたらキカネに教えるよ」
「アレスは興味ないの~?」
キカネがうりうりとつついてくる。
「ないね」
「ふ~ん」
ちょっと面白くなさそうな顔をしたキカネだったけど、急に顔を輝かせた。
「わかっちゃったかも~。アレスは~、もう意中の人がいるんだ~」
「え、いないよ!」
ふふふふ~と、キカネが気味悪く笑う。
「嘘はダメダメよ~。その年で恋バナに興味ないなんて何かの変態だけだもの~」
え、変態はやだ。
「アレスに好きな人がいないなら、アレスは変態よ~」
「す、好きな人いるし」
「え~、どんな人~?」
ズリズリとよってくるキカネの勢いに、とうとう壁まで押し付けられる。
「私のこと大好きな人。普段は寡黙でかっこいいの」
もう頭にはラージしか浮かばない。
それ以外の男たちを思い浮かべるけどしっくりこないし、ごめん、ラージ。
今だけ恋人になっておいて!あとで説明だけちゃんとしないと、うん。
あまりのキカネの饒舌さに、ラージを仮想恋人にしたてて、あることあること言ったけど、なんだか今日はむっちゃ疲れたよ。




