11話 誤解
なんとなくカレンちゃんに格好を寄せて、ただ町をぶらつけばいいかと思っていたらアルバイトが続行された。
「この町で、仕事もないのに何日も徘徊してるなんて不自然よ」
この町にいるのはほとんどが旅人だから、町民ではない人はいて2日なんだって。
「そんな話は聞いてない」
憮然とした顔のラージが、机を1つ占領してずっとお客をにらみつけている。
「だからあ、店員としても営業妨害だし、客として来ても営業妨害なのよ、あんたは。クビちゃん達を見習いなさいよね」
視線を動かすと、おば様たちに囲まれてエルボー受けたり十字固めされているクビカッタ達がいる。
「だから、私の歩く先を邪魔しないでって言ってるでしょ!」
1発ずつキレイにリンの蹴りが入ると、店の外まで飛んでいった。
「きゃああああ!すてき!!」
「リン様~!」
ひらひらスカートまくり上げて、フっと息をつくリンに奇声を上げるおば様……。
あれ?想像していたのと違うのだけど。
「クビちゃん達は、リンちゃんの魅力を200%引き出せるやり手なのよ」
物は言いようだな。
「そもそも疑わしいのは、町はずれの金御殿でしょお?」
おコト姉から新情報だ。
「みんなあそこの使用人に声を掛けられて行くじゃない?」
「じゃあ、依頼を受けて仕事をするってことじゃん。別にいなくなってもおかしくないよね」
なんで問題になってるの?
「そういう子は今までの仕事にケリをつけてから職場を移動するのよお」
そういう子は問題にならない、と。
「けど、カレンは無断でいなくなったの。突然。金御殿が怪しいと思って入り込もうとしたんだけど、できなかったのよ。ますます怪しいわ!」
リンが入り込めないって、すごいな。
「影から入るのがダメなら、正面から入るしかないじゃない?私はいくらでも行くつもりがあるのに、声がかからないのよ」
「リンさんは声をかけてくる不埒な輩を、すぐに投げ飛ばすじゃないですか」
アカーシの独り言が流れてくる。
「何よ、私が悪いっていうの?」
「い、いえ」
首を絞められて、幸せそうなアカーシ。
「弱いやつが悪いのよね」
「そ、その通りです」
ああ、まあ、それだけでリンに声がかからない理由がわかるな。
「だからこその、アレスさんですよ」
クビカッタが力説する。
「アレスさんがリンさんみたいに凶暴さを前面に出すと囮になりませんから、ぐええ」
クビカッタにリンのヘッドロックが決まった。
「で、兄貴の出番っす。本来の兄貴に戻ってくれれば、アレスさんを守れるっス」
「そうよね。今のままだとただの役立たずで、むしろ邪魔だもんね、確かに」
闘争心むき出しで、誰も近づけないからね。
「かっこ悪いわよねえ、アレスちゃん」
おコト姉の言葉に、カ、カッコワルイってとラージが呆然とした。
「……本来の俺?」
呟くや否や、背後にぴたりと寄り添われる。
いや、動き感じないし、気配ないし、マジ怖いんですけど。
「それそれ、それっすよ」
「クールでかっこいいです」
いや、だから掴まれると肩痛いって。
くるっと向きを変えられ向かい合う。
「クールでかっこいいっすよね、姉御」
イタタタタ、痛いって。
「か、かっこいいんじゃないかな~」
「そ、そうか?」
照れたように髪をかき上げ、流し目された。
いや、うん、まあ。なんか変な好意を感じるが、どうしようか。
それ以来、影から見守っていてくれているらしいラージを感じることもなく、アルバイトに精を出している。
いやあ、時給がいいから私本当に幸せ。
平均50カーネのところ、この店150カーネだよ。
マジ幸せ。
ちなみに、ラージがいるかどうか確認する方法もクビカッタから教えてもらった。
時給の喜びをクルンと回り表す。ちょっとスカートを大きめに翻すのがコツだ。
と、隅の棚がガタンと鳴った。
あ、今日はそこにラージいるんだな~。姿は全く確認できないけど。
「アレスちゃん、みのり屋さんで小ムーギ粉買ってきてくれない?」
「はーい」
店内用エプロンを外すと、ワンピース感が増した。
「一応外に出るんだから、ジェリーちゃんを連れていくのよお」
「はーい」
ジェリーを服の中に装填して、準備完了!
「別に、ジェリーは無くても十分かわいいのに」
び、びっくりした。
「ありがと。でも、この方が少女っぽいってみんなが言うし」
囮だし。
「……心配だ」
「あれ、守ってくれるんでしょ?それとも自信ない?」
「任せておけ!必ず守るとも!!」
ラージが気合を入れると鍋が飛んできた。ラージがスっとよける。
「だ~か~ら~、それをやったら意味ないって言ってるでしょお!」
よけんな、ばか!
おコト姉が蹴りを入れると「気配消して行けよ、わかってんな」と男声ですごんだ。
「お、おお」
私とラージが呆然とする。
……おコト姉っておコト兄だったんだ。
ぜっんぜん気がつかなかった。




