63 異世界裁判、閉廷宣言!うそくい草は枯れたけれど、結婚式は無事です。
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「むう……。同じ属性の攻撃であれば、効果があったのかのぅ。これはまた研究のしがいがあるの」
「わりと連携がとれてたと思ったんだけどねぇ、アダペペ」
皇后とアダペペは、ふたりで何やら相談している。
「ハイゼン、本当に大丈夫なの?」
「ああ、問題ない」
「……ありがとう、ハイゼン」
エミリアーナは抱きついたまま離れず、ハイゼンも照れながらも優しく抱きしめ返す。
「ところで、おふたりはどなたなんです?」
「以前、私たちが訪れたあのお店の方ですよね?」
ママコルタが皆が思っていた疑問をぶつけると、リリーは覚えていたらしく不思議そうな顔をする。
「おお、そうだったね? こうすれば分かるかな?」
くるりと指で円を描くと、男性は《悠久の間》で出会った少年の姿へと変わる。
隣の女性も姿を変えたが、その正体に気づいたのはエミリアーナだけだった。
「あなたは……! 私にカードをくださった方では!?」
「ハハハ、気づかなかっただろう? ……この姿だと、少々都合が悪くてね」
女性は、従業員の姿ではなく――帝国民が崇拝する女神・スクレアの像そのものに変化した。
「これは……! 失礼いたしました。まさか、実在されるとは――」
いち早く気づいたハイゼンが跪くと、周囲の者たちも慌てて彼に倣った。
「ああ、いいよ。ほんとは姿なんて見せないんだけど……。さすがにティアナが暴走しちゃったからね?」
「ティアナ、顔を上げなさい。もう、気づいているでしょう?」
スクレアの声に促され、ティアナは気まずそうに顔を上げる。
騎士たちが一瞬身構えたが、彼女はもはや抵抗する様子はなかった。
「まったく。200年も反省のために罰を与えたのに、何の意味もなかったとはね。……済まなかったね、時の愛し子ちゃん」
「うっ……、申し訳ありません。創世神様……」
「恐れ多いことでございます……」
エミリアーナは、少年の姿をした創世神に深く頭を下げた。
「それと、スクレア。お前もだ。冗談だったとはいえ、人間になればいいなんて、そそのかすからだよ」
「……申し訳ありません。本当に、ティアナが本気にするとは思わなくて……」
「えっ!? 冗談!? ……お姉様、それ本当なの!?」
ティアナはスクレアに食ってかかるが、姉は沈黙を守るだけ。だんだんと怒りがこみ上げてきたようだった。
「信じられない……どうしてそんなことしたのっ!?」
「だから冗談だったってば。悪かったわよ……。
そ、そうだ! そこの貴方、一言だけ言わせてもらうわ! 一体この子の何が気に入らなかったのよ!?」
「わ、わたくしですか? あの……そもそもお会いしたことがございません」
スクレアはティアナを抱きしめると、キッとグレゴリーを睨む。
急に指を差されたグレゴリーは、アタフタと慌てて答えた。
「え? そうなの?」
「はい。それに私はアンリエッタ一筋でしたので――」
「父様! それ以上は言っちゃ駄目ですよ!」
「ひどいわ……。うっ、うわぁぁぁん!!」
叫ぶエミリアーナに、場が一瞬ざわめいた。
しかしスクレアはフンッと鼻を鳴らして、ティアナの背をさする。
ティアナが大声で泣き出すと、涙を流す彼女の姿が、徐々に小さく幼くなっていく。
「ほうほう、これは……」
アダペペは興味深げに観察している。
「創世神様……彼女はどうなるのでしょう?」
心配そうなエミリアーナの問いに、彼は苦笑しながら答える。
「さすがに今回は見逃せないね。力も尽き、闇にも囚われた……。最後には、魂だけになるよ」
幼くなったティアナは、泣き続ける。
姉のスクレアが静かに彼女を抱きしめるが、ティアナの姿はどんどん薄れ、ついには手のひらに収まるほどの小さな魂だけが残った。
「このまま長い時を、魂として過ごすことになる。
再び女神になるか、あるいは別の存在として生まれ変わるか――それは誰にも分からない。
……けれど、彼女を求める声が集まれば、可能性はあるかもしれないよ」
そっと小さな魂に触れると、創世神はくるりと踵を返す。
「さて、我々の仕事は済んだようだね? スクレア行こうか」
「うぅっ……。はい、創世神様。愛し子ちゃん、またね?」
彼らが光りをまとい立ち去ろうとした瞬間、リーバスが飛び出してきた。
「ハハハ、結局その女が全ての元凶じゃないか! 僕はこの国の王子なんだ、それだけは揺るがない事実だ!
誰も、手出しは出来ないさ」
「あ、そうだ。お前王子じゃないよ?」
「えっ!?」
「だーかーらー。国王と血が繋がってないの! ……王妃、そうだろ?」
「……」
辺りがシン……と静かになる。
「じゃあ、そういうことなんで! またねー!」
ふたりはさらりと爆弾を落とし、光とともに消えていった――。
「こ、これは! ……どういうことだ、王妃!」
「う、嘘です! あの子は貴方の子です!」
「では、創世様が嘘を仰ったというのか! このバチあたりめ!」
「うっ……」
「王妃の周辺を、徹底的に調べろ!」
大騒ぎになってしまった。そのとき――、ふと光が差し込み、創世神がひょっこり戻ってきた。
「忘れてた、ホイっと」
彼が腕を振ると、崩れていた建物が一瞬で元に戻る。
「じゃあ、今度こそ本当にまったねー!」
◇◆◇◇◆◇
華やかな装飾に囲まれた神殿の前で、参列者たちがざわめいていた。
純白の花が風に揺れ、鐘の音が優しく空へと響いていく。
「お綺麗ですよ」
「本当? ……ありがとう」
花嫁は褒められてはにかむ。
「さあ、花婿がお待ちになってますよ。行きましょうか」
「おめでとう!」
送られる祝福の言葉に扉が開き、バージンロードの先に現れたのは――エイシャと、クロードだった。
次の瞬間、割れんばかりの拍手が会場を包む。エミリアーナが隣のハイゼンを見上げる。
「次は俺達の番だな」
「……もうっ」
エミリアーナは、嬉しそうに彼の大きな手を握り返す。
一方、神前に立つ神官見習いの姿。
真新しい衣をまとったハンターが、緊張の面持ちで祝福の言葉を読み上げていた。
その身体からは、どこか淡い光が滲んでいる。
「ハンターさん、光ってないですか? リリーさん」
「最近光り加減があからさまになってきたようですね」
照れくさそうに笑っている彼を見て、リリーとママコルタはこっそりと目を見合わせ苦笑した。
空は晴れ渡り、祝福の羽が舞い降りる。
誰かの悲しみが、今日という日のためにあったのだと――。そう思えるような、優しい光景だった。
そして、その少し後。
エミリアーナとハイゼンは、再び約束を交わすことになる。
「君に永遠に愛すると誓う。大切にする」
「ええ、私も……」
――物語は、一度、幕を閉じる。けれどその先の未来は、きっと温かな陽だまりの中にある。
◆ その後のみんな ◆
◇ エミリアーナとハイゼン
帝国へ戻ったふたりは、正式に婚約を発表。
どんなに忙しくても、エミリアーナの紅茶タイムだけは欠かさないのがハイゼンのこだわりらしい。
◇ リリー&ママコルタ
相変わらずのツッコミとボケの応酬を繰り広げながらも、ふたりは少しずつ距離を縮めている。
「私が怒るのは貴方のためですからね」とリリーが言ったとき、ママコルタが初めて照れたという噂もある。
◇ アダペペ
爆散した《嘘喰い草》の再生に取り組んでいるとかいないとか。
「次はもっと派手に咲くかのぅ!」と意気込んでいたが、周囲からはやんわり止められている。
◇ アイオロス&デリー&ジャハ
シルバーウッド兄妹は、しばらく帝都に滞在しながらエミィたちのサポートを続けることに。
覚醒の欠片はひとりにひとつしか生成できず、しかも女性に限定されるので、今後は守護者として表舞台に出る可能性も?
◇ ハンター(特別枠)
あの日誤って飲み込んだ『覚醒の欠片』は、いまだに消化されていないらしい。
「なんか最近、植物と会話できる気がするっす……」
……新たな力が発現しそうな予感がするが、今のところ彼の身体に害はないようだ。
◇ 王妃&リーバス&バート
聖女を害したことで、帝国で裁判を受けることになる。極刑は免れず地下牢で震えているとか。
――そして、誰かが誰かを大切に想う限り。
この物語は、どこまでも続いていく。
◇◆◇ Fin ◇◆◇
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