表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘つきの護衛に助けられたら皇子でした〜婚約解消から人生逆転〜  作者: 秋月 爽良


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/63

48 ぎゅっとしてもいい? もふもふ三重奏

いつもご覧くださって本当にありがとうございます。

 誰かいないかと必死にエミリアーナは走る。何事かと素早く身構えるママコルタを見つける。


「はぁっはぁっ、ママコルタ!」

「エミィ嬢? はっ! ……何かあったんですか!」


 彼に駆け寄ると、転びそうになるのを抱きとめられた。


「……っ、ハイゼンが大変なの! こっちよ、来て!」

「一体どうしたんですか!?」


 ママコルタの手をグイグイと引いて、来た道を駆け上がる。


「彼に限って……。ハイゼン様! 大丈夫ですか!?」


 開けた場所を慌てて見回すママコルタは、ポツンと体育座りの大きな男を見つけたようだ。


「……」

「……ママコルタか」


 チラリとこちらを見る彼の頭には、獣の耳が生えていた。エミリアーナはおろおろと落ち着かない。


「急にこうなってしまったの……」

「はぁ……大丈夫ですよ、エミィ嬢。ハイゼン様、薬は飲まなかったんですか?」

「……飲んでない」


 ママコルタは呆れた顔をして彼を見ている。


「何やってるんですかぁ。あれだけ口を酸っぱくして――」

「彼女がいたから、最近は飲まなくても大丈夫だったんだ……」

「えっ、私?」

「だからって……。取り敢えず薬を飲みましょう、さあ」


 ママコルタは水筒の水をハイゼンに渡す。胸のポケットから小さな包みを取り出したハイゼンは、水と共に一気に飲んだ。

 ふうと一息ついた彼は、ぼうっと景色を眺めている。


「しばらくすれば、元に戻りますから」


 ママコルタはエミリアーナにそう言うと、水筒を腰に下げた。


「あ、あの……」

「ハイゼン様、ご自分の口から説明しますか?」

「……ああ」


 ハイゼンは両膝を抱えたまま、エミリアーナの方を向いた。


「俺には、獅子の獣人の血が流れている」

「獣人?」

「そうだ、皇帝も俺の弟妹達もだ。個人差はあるが、感情が高ぶった時にさっきのような状態になることがある」

「いつもは抑制剤で抑えているんですよ」


 ママコルタが付け加える。獣の耳がたまにピクピク動くのを、エミリアーナは見つめたまま問いかけた。


「私に話していいの?」

「もう見られてしまったからな。出来れば内緒にしておいてもらえると助かる。この国では、獣人に理解がある者ばかりではないからな」

「私からもお願いします」

「分かったわ」


 エミリアーナには、言いふらす気はこれっぽっちもなかった。


「城に戻るぞ」

「え? もういいんですか?」

「ああ。もう耳は収まったし、用事は済んだ」


 あたふたするママコルタの問いに、ハイゼンは淡々と返す。

 ゆっくりと坂道を降り、彼女達は馬車に乗り込む。ハイゼンは口を開くが、言葉少なだった。

 ママコルタは、ふたりを交互にチラチラと見る。エミリアーナはずっと窓の外を眺めていた。


「そ、そういえば今日、取り調べの結果が出るんでしたねぇ。ハイゼン様」

「ああ、そうだな」

「……」


 エミリアーナは心ここにあらずといった様子だ。


「どうしたんです? ふたりとも様子がおかしいですよ」

「俺はいつも通りだ」

「……」


 面倒臭くなったのか、ママコルタも黙り込んだ。


 馬車は城のエントランスに到着する。ツカツカと執務室へと歩くハイゼンの後ろを、エミリアーナとママコルタが続いた。

 部屋の中には前回と同じように書類が用意されており、ハイゼンは書類に目を通すとママコルタに手渡す。


「報告書によるとハウスマン子爵夫人は、直接関与していないようですねぇ。ただメイフラワー家が怪しいとは、薄々思っていたようですよ」

「そう、良かったわ」


 エミリアーナはほっと胸を撫で下ろす。


「ただ、ちょっと飛び火してますね」

「どういうこと?」

「前辺境伯のバーバラ夫人と、懇意にしていると言ってましたよね? ですが、ハウスマン夫人の認識は違うようですよ。

バーバラ夫人とは上下関係にあったようです。ハウスマン夫人が下の立場ですが」

「そうなの?」

「とりあえず座ろうか」


 ハイゼンに促され、ソファに座った。


「ハウスマン夫人のご実家は男爵家でしたが、商売をされていました。アンリエッタ様の屋敷にも出入りしていたようです。

毒殺事件の捜査は適当に終了し、責任を追求されて数人の使用人がクビになっています。

それに商品を卸していた彼女の実家も噂が流れ、商売を辞めざるを得なかったようですね。その時に男爵の爵位も手放したようです」

「酷い話だ」


 ハイゼンは眉間に皺を寄せている。


「家族でカレンヌ王国に移住した彼女は、バーバラ夫人と出会います。移住の理由を何度も詮索されて、メイフラワー家について話してしまったようですよ」

「では、バーバラ夫人は事件のことを知っていたの?」

「はい。ただ、明確な証拠がありませんでしたからね。その代わりと言ってはなんですが、グッドマン伯爵夫人を脅迫していたそうです」

「脅迫!? それに何故グッドマン夫人が関係あるの?」


 エミリアーナは驚いて、ソファから腰を浮かせた。


「伯爵夫人の実家は、帝国のメイフラワー家なんですよ。姪であるエイシャさんと、伯爵子息のアダムとの縁談を無理強いしていたようですねぇ。将来的に、伯爵家の乗っ取りを画策していたらしいです」

「……何てことなの」


 エミリアーナは力なくソファに座ると、呆然としている。


「大丈夫か? エミィ」


 心配そうなハイゼンを見る彼女の視線は、自然と彼の頭に向かった。


「え、ええ。ありがとう」


 ハッとした彼女は顔を赤くして、目線を逸らす。


「……?」


 様子のおかしい彼女を、ハイゼン達は不思議に思い首を傾げた。


「……それで、これからどうなるの?」

「前辺境伯夫人についてはカレンヌ王国の事件ですから、我々は供述調書をあちらへ渡すだけですねぇ。

あまり他国の事に、口を挟むわけにはいきませんから」

「実際に帝国で何か仕出かしたわけではないからな」

「そう、分かったわ」


 はあと溜息を吐く三人。


「私、カレンヌ王国へ戻ろうと思うの」


 カップのお茶を一口飲んで、エミリアーナが口を開く。


「えっ! 戻られるのですか?」


 驚いたのはママコルタだけだった。


「ええ。バートとの婚約解消も、自筆の署名が必要だわ。侯爵家もエイシャ達もリリーのことも心配なの。

……それに私だけ逃げているのが何だか嫌で」

「待ってください。犯人に目星が付いているとは言え、馬車の襲撃についても完全に追求できていないんですよ?

今戻れば、また危ない目に遭う可能性も高いです。……ハイゼン様も、何とか言ってくださいよぉ」


 ママコルタはハイゼンを急かすが、彼は黙ったままだ。


「……君が望むなら、俺には何も言う権――」


「あきゃああ――!!」


 廊下から激しい叫び声がする。激しく扉が開かれ、同じ顔をした三人の小さな子供達が飛び込んできた。


「兄様! いた!」

「兄様遊ぼ!」


 彼らはハイゼンに飛び付くと、きゃあきゃあと騒いでいる。


「こらお前達。今は会議中だ」

「やだ! 遊ぶの!」


 どうやら彼の弟妹らしい。男の子一人に、女の子二人の三つ子のようだ。よく見ると耳と尻尾が出ている。

 呆気にとられているエミリアーナを見つけると、彼女の周りに群がった。


「ねぇねぇ、だあれ?」

「あ、あの、……わわわ私は」

「兄様のお嫁さん?」


 一人が口を開くと、連動して他の二人も喋り出す仕様のようだ。


「違うよ。まだ婚約してないから、恋人って言うんだよ」

「へぇー。恋人かぁ」


 三人とも尻尾をパタパタと動かしている。


「す、すまん、エミィ。お前達こっちに来るんだ。彼女が困っているだろう?」

「かっ、かかか可愛いぃぃ……!」

「えっ?」

「すっすっっごく可愛いぃぃ! ぎゅっとしてもいい!?」


 エミリアーナは、ぎゅっと3人を抱きしめる。三人のちびっ子達は満更でもないようだ。


「悪かったな、騒いで」


 侍女達に子供達が回収されて、元の静かな部屋に戻る。ママコルタは袖を離してもらえず、そのまま連行されていった。

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!

もしよろしければ、ブックマークや★評価をいただけると嬉しいです。今後の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ