第八話「三人の再会」
俺がアレクに追いついたのは正門の前に辿り着いた時だった。
正門には一台の馬車がとまっている。
アレクが乗り込むのを確認すると、俺も続く。
中にはラフィもちょこんと座っていた。
「お、ラフィも来てたのか。久しぶり」
「うん」
短いやり取り。
アレクがラフィの隣に腰を掛けたので、対面に座ると扉を閉める。
それを合図に馬車は動き始めた。
対面に座る二人は何故か頭をすっぽり覆う帽子を被っている。
「その帽子、流行ってるのか?」
「うん、これか? いや別に流行ってないよ。
単にこれを隠すため」
アレクは帽子を脱ぐと、頭から覗く耳を指さす。
「王都はそうでもないけど、他種族を嫌う輩はどうしてもいるからな。
絡まれるのも面倒だから日中王都を出歩くときは被るようにしているわけだ」
「私のアドバイス」
得意げにラフィが呟く。
「いや、逆に目立ってないか?」
「だよね」
「え……」
俺の疑問にアレクは同意、ラフィは不満気。
「アレクを最初見たときは不審者かと思ったし」
「いやー、ローラさんにナオキがいる寮の場所を聞いたはいいけど似たような建物が多くて不安になってな。
ナオキがタイミングよく帰ってきて助かったわ」
「ローラさん?」
「おう。お前、王立学校の寮にいるって情報だけで、場所がわかると思ってたのか?」
そういえば、迷宮から帰還した時にそんなことを言い残して急ぎ去ったのを思い出した。
(うん、確かにわかるわけがないよな。
それでアレク達はローラさんに聞いたのか)
合点がいった俺は謝罪する。
「いや、そうだな。すまんかった。
あと、よく来てくれた」
「おう」
「うん」
三人は会話をしながら馬車に揺られる。
馬車は黄金色の宴に向かっていた。
◇
黄金色の宴と大きく書かれた看板がまず目に入った。
建物の前に馬車が止まる。
アレクが運賃を払ってる間に店の前、俺は建物を見上げていた。
すっかり辺りも暗くなっていたが、道を連ねるあちこちの店から明かりが漏れ出ており笑い声が響いていた。
「ここが今、俺達が泊まっている宿だ。
一階は酒場、王都でおすすめの店だ」
運賃を支払ったアレクがいつのまにか俺の隣に立っていた。
簡単な説明を終えると建物の中に入っていく。
その後をラフィ、俺と続く。
店内に入ると多くの人々が楽し気に大いに食べ、飲んでいる姿が目に入る。
「いらっしゃいませ!」
すぐさま給仕の少女が近づいてきた。
「マーサちゃん、三人でかけられる席空いてる?」
「アレクさん! ちょっと待ってくださいね」
パタパタと、マーサと呼ばれた少女は一度店内の奥にひっこむとすぐ戻ってきた。
「空いてます!こちらへどうぞ」
慣れた足どりでアレクとラフィは案内された店の奥へと歩いていき、俺も慣れない初異世界酒場の中へとおっかなびっくりで続く。
突然、肩を何者かにつかまれた。
驚き振り返るとそこには給仕の恰好をした少女が立っていた。
少女は何も言わず俺をじーっと無表情で見つめる。
「な、何でしょうか?」
「か……」
「か?」
「可愛い!!」
少女は叫び、俺を抱きしめると頬ずりまで始めた。
呆然。
どう対処していいものか困り、硬直。
「ちょっとリア! 何さぼってるの!」
「マーサ! 見て見て、この娘かわいい!」
贈答品のように、リアに抱え上げられマーサの前に差し出される俺。
マーサと呼ばれた少女は俺の姿を二度、三度まばたきをしながら見つめる。
後ろの娘より見た目、しっかりしているように感じられた俺はアイコンタクトで「た す け て」と送ってみる。
その言葉が通じたのか、マーサは頷くと――
「なにこの娘!かわいい!」
「でしょう!」
正面からも抱きしめられた。
駄目であった。
「名前は何て言うの?」
「あ、アリスです」
「アレクさんと一緒に入ってきたってことは、アレクさんの子供?」
「ちげえよ」
いつまでも席に来ないので様子を見に来たアレクがマーサの言葉を否定する。
「えー、なら何でこんな可愛い子がアレクさんと?」
「人さらい?」
「いや……、というかお前らさぼってていいのか? さぼっていると――」
アレクが言葉を言いかけた時、奥から怒声が響き渡った。
「マーサ、リア! 何あぶらうってるんだ!」
その声に、文字通りぴょーんと驚き跳ねると即座に行動。
「マーサ、酔っ払いからお替りのオーダもらってきます!」
「リア、出来た料理を運んできます!」
二人は俺に「またあとでね!」と手を振ると素早く店内に消えていった。
忙しそうだ。
やっと解放された俺は席に着くことができた。
◇
席に着くと飲み物を三人は注文をする。
アレクは麦酒、ラフィは蜂蜜酒、俺は果実酒――というわけにもいかず果実ジュースだ。
「俺も一応成人なんだけど?」
この世界では十五歳で成人。
俺の本来の年齢であれば成人していることになっているが。
「いや、その見た目じゃ駄目だろ」
「ダメ」
と二人に即座に否定されたので大人しく果実ジュースとなった。
注文をし、暫くすると三人の飲み物がテーブルに行き渡る。
「んじゃ、久々の再会に乾杯!」
「「乾杯!」」
アレクの音頭でジョッキをぶつけ合う。
渋々頼んだ果実ジュースであったが予想以上においしかった。
「三人でこうやって店で飲んでると不思議だな」
俺がしみじみと呟く。
「不思議」
「ま、俺達が旅してるときは店なんてなかったしな」
久々の勇者パーティで集まっての飲み会はこうやって始まった。




