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第三十七話「裏技 3」

「先程帰ったと思ったのだが、何故ここにいる?」

「えっ、お茶を飲みに」

「そういうことを聞きたいわけではないのだが……、まあいい。私にも一杯淹れてくれ」

「了解ー」


 執務机には山積みの書類が所狭しと積み上げられ、僅かな隙間から覗くのは相変わらず芸術家が彫刻したのかと思う程のイケメン。

 一カ所減点するのであれば、今は眉間に皺を寄せている点だろう。

 レイは諦めたような表情で大きな溜息を一つつくと、俺から視点を外すと再び書類に目をおとす。

 ここは王立学校の敷地、レイの居室だ。

 俺は慣れた手つきで棚にしまってある茶器を準備。

 備え付けられた魔道具で湯を沸かし、お茶を淹れる。

 レイが常備している茶葉は産地こそわからないが、とにかく美味しい。

 

「はい。お待たせしましたー」

「ん」

「いっつも大量の書類に囲まれてるけど、レイがやらなくてもいいんじゃない? やってくれる部下とかいないの?」

「これは転移陣に関する資料だ。君も知っているように、森国も復旧作業で人手が足りない。他国へ貴重な人材を派遣するほどの余裕はない」

「ふーん」


 最早人をもてなす役割を果たせていない、中央に鎮座した応接机の一角の書類を勝手にどけさせてもらい、自分用のカップを置かせてもらう。


「で、君がここを訪れた理由は茶を飲みに来たのは確かに一つの理由かもしれないが、他にあるのだろう? 私もこの通り常に暇を持て余しているわけではないのだ。早く本題を話してくれ」

「……忙しいなら毎回毎回課題を課してくれなくていいんですけど」

「私は女王陛下より、転移陣の復旧と、君に対して魔術を指導する使命を受けている」

「……殆ど魔術以外な気が」

「そんな愚痴を聞きたいわけではない。早く本題を話しなさい」

「んじゃ……」


 レイの言う通り、もちろん茶を飲むためだけに訪ねたわけではない。

 本題はというと、先程まで居たウォーレスの冒険者ギルドでのやり取り。

 ちなみに、その時に会話した老婆はウォーレスの冒険者ギルド支部長、名前はドロシーということを後から知った。

 

「俺が冒険者として活動するにあたり、色々と便宜を図ってくれる交換条件に仲の良い貴族を紹介しろって言われたんだけど、レイの知り合いに貴族はいない?」

「……何故私に相談する?」

「え、だって森国のお偉いさんなら色々と顔が広そうだから。良さそうな人紹介してくれないかなーと」

「いや……そういう意味では、はぁ」


 何故か可哀そうなものを見るような眼差しを向けられた。


「そもそも、君が冒険者として活動する理由がわからない」

「暇潰し?」

「……大人しくしていろと言っても無駄そうだな」

「いや、ほら、ちゃんと忠告は受け取って目立たないように行動はするつもりだし? 何なら今回の相談も俺が目立たないようにするための交渉の結果なわけで」

「ならサザーランド家で大人しく過ごして欲しいものだが、君の場合は……」


 人の顔を見ながら、何やら諦めたようにレイはガックシと肩を落とす。


「面倒だな……」

「面倒とは失礼な。それにほら、レイは俺の魔術指導をする必要があるわけでしょ? 知識も大事だけど、俺としてはやっぱり実践って大事だと思うわけ。だったら冒険者ギルドで魔物討伐依頼を受ければ、魔術の実践にもなって、困ってる人の役にも立つ。ついでにお小遣いもゲット。一石三鳥なわけ」

「そこら辺の魔物程度が相手では君の練習相手には些か役者不足だとは思うがな。……一応聞いておくが、その便宜を図ってくれる交換条件として何故貴族の知り合いを紹介しろと言われたかわかっているのか?」

「全然」

「…………はぁ」


 再度レイは深々と息を吐き、更に眉間の皺が深く刻まれた。

 心を静めるようにレイはお茶を口に含む。 


「君は見た目通りの年齢でないのだから、もっと思慮深い行動を身につけた方がいい」

「確かに見た目通りの年齢ではないけどさ」


 少し不貞腐れたような返事に対し、レイはやや呆れた様子で続ける。


「もう一つ聞いておく。もし、私から貴族を紹介してもらえなければどうするつもりだったのだ?」

「んー、エルサにでも相談しようかな」

「エルサ……というとルシャール伯爵のとこの子か」

「……よく憶えてるね」

「君の周囲で仲の良いものは、良い意味でも悪い意味でも要注意人物だからな。……まぁ私から言えることは、その子と今後も友好的な関係を築きたいのであれば相談するのはやめておきなさい」

「理由は?」

「便宜を図る条件で貴族を紹介しろというのは、要は君が何かやらかした時の尻拭いのために名を借せといっているのだ。後は、恐らくだが冒険者アリスとして活動するのはあまりにも目立ちすぎる。そこで、推薦人として名を借りる意味もあるのだろう」

「……つまり別名義で活動するための保証人として名前が必要ということ?」

「そうだ」

「でも冒険者になるのに身分とかは関係ないよね? なんで保証人が必要なの?」

 

 首を傾げながら尋ねる。


「勿論冒険者ギルドは広く門戸を開いている。その場合は一番下のランクからだ。確かに、ただ別名義で活動するのであれば、貴族の名など必要なく、新たな人物として活動すればいい。だが、今回の場合、君は魔物の討伐をしたいのだろう? そして、君にこの交換条件を出した人物もそこそこのランク依頼の魔物を討伐して欲しいのではないか?」

「うん、多分そう。つまり、貴族からの紹介があれば冒険者ギルドで最初から上位ランクに登録できると?」

「何を今更。君だって、その特例でいきなりAランクを貰ったのではないのか?」

「そうでした……」


 言われてみれば俺も特例中の特例。

 考えたことはなかったが、俺の今のランクを保証してくれているのは国王ということになるのだろうか。

 

「……そもそも、その交換条件を出してきた者は君にこういった説明はしなかったのか?」

「いえ……。交換条件を言うだけ言ったら、とっとと名前を借してくれそうな貴族に挨拶に行ってきな!っとギルドを追い出されました」

「……その人物もなかなか癖のある御仁だな。そんな扱いをされても、なお冒険者として活動したいと思う君も稀有な人物ではあるが」

「というかレイも苦言は言ってるけど、俺が別名義で活動することに反対はしないんだね」

「言うだけ無駄だからな」

「ひどい……!」

「こっそりと活動されるよりも、ある程度容認しておいた方が君の行動は監視しやすそうと思ったまでだ」

「なるほど」

「そこで納得はしないで欲しいのだが……」


 さらにレイの眉間に深い皺が刻まれそうになるので、間髪入れず発言する。


「で、本題! 今の話の流れからしてレイから誰か貴族を紹介してくるんでしょう! 教えて!」

「心当たりはある」


 レイは顎に手をやり少し何やら考え、再び口を開く。


「……いや、そうだな、うってつけの人物がいたな」

 

 そう発言したレイはにやりと邪悪な笑みを浮かべながら、とある人物の名を告げるのであった。

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