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第六十七話「新衣装」


 てっきりローラがいつもの如く、俺の服をはぎ取るものと思っていたが違った。

 ローラは侍女に「あとは任せますね」と言い残すと、再び部屋を出て行く。

 

「し、失礼します」


 侍女の二人が服を脱がし始める。

 二人は俺の本来の年より少し下か同じくらいとみえた。

 取り敢えずなされるがままに身を任せる。

 しかし、どうにも二人の面持ちが緊張しているように見えた。

 なんでだろうと、少し理由を考える。


(俺が養子とはいえ、一応貴族だから?

 ……そもそも王城で仕えているのだから、貴族程度で緊張はしないか)


 そこまで考え、以前サチが俺の淡々とした様子から「嫌われてるのかな?」と心配したという話を思い出す。

 本来の年齢が年齢だけに、サチみたいに終始ニコニコと笑顔を振りまくとった真似はできないが俺の見た目の年齢であればもう少し表情の変化があって然るべきなのかもしれない。

 不機嫌な表情をつくっているわけではないが、比較的淡々とした様子は周囲を不安にしてしまうものだ。

 俺の現時点での王城での扱いがどういったものかは知らないが、この国のお姫様と親しくしている間柄の少女が無表情というのは気分がいいものではない。

 考えてみれば侍女二人が緊張しているのも頷ける。

 ここは友好的な関係を築いておくべきと俺は判断した。

 表情筋を和らげ笑顔を侍女の二人に向けた。

 

「今日はよろしくお願いします」


 その様子を侍女二人は動きを止め見入る。


(あれ、なんか間違えたか?)

 

 びっくりしたという表現がしっくりくるか。

 暫く俺の方を見ていたが、はっと我に返ると、


「「はい、お任せください!」」


 元気よく答えると、先程よりも張り切った様子で俺の着替えに取り掛かっていった。



 ◇



 着替え終わったタイミングで、ローラがアニエスを連れて戻ってきた。

 戻ってきたアニエスは、俺が初めて見る「お姫様」の出で立ちであった。

 淡い緑色のドレスを身に纏い、ティアラを頭にちょこんとのっけている。

 普段の生活ではあまり化粧をしていないアニエスであったが、今日は薄っすらと唇に朱色が塗られていた。


「アニエス姉さんはすごくきれいです」

「うん、ありがとう!」

「あの、アニエス姉さん。

 お聞きしたいことが……」

「なに?」

「私の服、その、派手じゃないですか?」


 俺が身に纏う衣装は白を基調としたデザイン。

 肩口にはフリルがあしらわれ、青いリボンで絞られている。

 アニエスのドレスは脚下まで覆うものであるのに対し、俺のドレスは膝下あたりまで。

 普段制服で着ているようなスカートと違い布が折り重なり、花弁のように見えるデザインとなっている。

 上に羽織るジャケットはベント部分から左右に分かれすらりと延び、その部分には王家の紋章が描かれていた。

 腰部分にはご丁寧に、帯剣するための吊革まで付けられている。

 女性用に仕立てられた服であるにもかかわらず、可愛さとかっこよさが混在していた。

 語彙力のない俺が言葉で表すと「すごくいい」と、なんとも残念な表現になってしまうが。

 ともかく、アニエスと並んで立つと十人中十人が俺の方に目を向けるのではと思う程の、非常に目をひく衣装であった。

 今から行く来賓席でお姫様より目立つ衣装はいかがなものかと思わずにはいられない。

 だが、心配をよそにアニエスは俺の衣装を満足気に眺める。

 

「うん、よく似合ってるわ。

 すごく可愛い!

 その衣装少しだけ私もデザインに協力したのよ。

 ……どう、気に入ってくれた?」


 楽しそうに笑いながらアニエスが言う。


「はい、素敵な衣装をありがとうございます」


 俺は正直な感想を述べることにした。

 目の前のお姫様監修であるならば、「姫様より目立ってけしからん!」と言った難癖をつけられても問題ないだろう。


「どういたしまして。

 アリス座って」

「?」


 手をひかれ、鏡台の前に座らされる。

 アニエスは後ろに立つと、俺の肩口よりも下に垂れるようになった俺の黒髪を優しい仕草で触る。


「だいぶ伸びてきたわね」

「はい、すぐ長くなります……」

「今度は勝手に切っちゃ駄目よ?」

「……はい」


 俺としては動きの邪魔になるので鬱陶しいとの思いが強いのだが、今度勝手に切ったら盛大に機嫌を損ねることだろう。

 アニエスは静かに俺の黒髪を丁寧に結いはじめる。

 途中、侍女の一人が「そのような雑事は私が」といった様子で変わろうとしたが、アニエスがやんわりと拒否したといった場面もあったが、垂れてた髪が後ろで結いあげられ最後もアニエスの手で青いリボンが結ばれた。

 その姿を鏡越しのアニエスが満足気に眺める。


「うん、これでよし」

「ありがとうございます」


 礼を述べ、俺は鏡台から立ち上がると鏡の前で二度、三度とくるくる回る。

 やっと慣れてきたと思ったこの姿だが、今目の前の鏡に映る姿は別人のようであった。


「アリス、あとこれが王城に今朝届けられたそうよ」


 アニエスの言葉で壁に立っていた騎士の一人が進み出ると俺の前に来る。

 その手には一振りの剣があった。

 俺はそれを受け取ると、覆われていた鞘から剣身を抜き取る。


「これは……」


 思わず息が漏れる美しい刀身であった。

 俺が理想としていた剣、そう刀だ。

 騎士は退き、今度はローラが近づく。

 

「ガルネリ様から伝言を承っています」

「何て?」

「『存分に振ってくれ』とのことで」


 短いガルネリの伝言ではあるが、その一言から並々ならぬ自信が伝わってきた。

 握った俺自身も、この刀は陛下から下賜された剣に引けを取らない存在に感じる。

 それを確認し、刀を鞘に戻す。

 

「せっかくだし、今日はその剣を腰につるしてみたらどうかしら?」


 アニエスが提案してくるが。


「いえ、でも今日は陛下も席に来られるのですよね?

 せっかく下賜されたものを身に着けてないのは――」

「大丈夫よ。

 こうしましょう。

 この剣も私からのご褒美。

 私とお父様の剣、どちらをアリスは身に着けてくれるの?」


 ずいっと顔を寄せ、有無を言わさぬ様子。

 

「陛下から下賜された剣は私どもで丁重に保管しておきますので、アリス様は是非姫様の剣をお使いください」


 にこにことローラも付け加える。

 

(お姫様もこういってる。

 それに新しいものっていうのは、手元に置いて愛でたいしね!)


 俺の中でも結論はでた。 

 

「では、ありがたくそうさせてもらいます」

「そう、よかった!」


(……?)


 アニエスの言葉に若干の違和感を覚えるが、その理由はわからない。

 新しい剣を腰の吊革に差すと、サイズを測ったのではと疑うくらいにぴったりと納まった。

 

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― 新着の感想 ―
あぁ、どんどんはめられていくアリス超逃げてww
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