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四度目の婚約破棄〜妹と弟に婚約者を奪われ行き遅れた私と、腹黒美少年公爵令息の訳あり契約婚・完結  作者: まほりろ・ネトコン12W受賞・GOマンガ原作者大賞入賞
第二章「それぞれの初恋」

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32話「甘やかされた令嬢と赤い目の男」イリオス侯爵令嬢視点




イリオス侯爵令嬢視点




「なぜ、なぜですの……!

 なぜエリオット様は私ではなく、あんな年上の女を選んだんですの……!」


バルコニーでエリオット様に叱責された私は、そのまま会場を飛び出しました。


会場を出てからどこをどう走ったのか覚えていません。


気がついたとき私は、廊下の隅にある長いソファーに座っていました。


私が幼い頃からお父様は私に甘かった。


私が「欲しい」と言ったものは全て、買ってくださった。


大きな宝石のついた指輪でも、ネックレスでも、一流のデザイナーが作ったドレスでも、金で出来た靴でも、お金で買えるものは何でも手に入れてくださった。


だけど私が欲しいと思った物の中には、お金で買えないものもありました。


例えば亡くなった祖母が作ったぬいぐるみ、亡くなった職人が作った一点もののアクセサリーなど。


死人を墓から呼び起こして、もう一度同じものを作らせることはできません。


だけど私は、友人が大事にしているぬいぐるみやアクセサリーが、どうしても欲しくてたまりませんでした。


私が友人が持っているぬいぐるみやアクセサリーを指さして、お父様に「あれが欲しいです」と伝えると、翌日には私のものになっていました。


私には手に入らないものは何もありませんでした。


翌日、お友達は真っ赤に腫れた目で、私の持っているぬいぐるみやアクセサリーを恨めしそうに眺めていました。


ですがこれはもう私のもの。


あなた方が持つより高貴な私が持った方がいいと、ぬいぐるみやアクセサリーも言っております。


どんなに高価なものでも、二度と手に入らない貴重なものでも、父は私の為に必ず手に入れてくれました。


私が一番欲しかったのはエリオット様。


彼は公爵家の嫡男で、銀色のサラサラした髪に、アメジスト色の瞳の高貴な顔立ちをしておりました。


彼はスタイルも良くて、頭も良くて、剣術も馬術の腕も一流。


私は一目で彼に心を奪われました。


彼に初めて会ったその日から私は、彼のことが欲しくて欲しくてたまりませんでした。


私は何度もお父様に「彼と婚約したい」と伝えました。


だけど私と彼の婚約は、今日まで結ばれることはありませんでした。


ベルフォート公爵家には当家から何度も婚約を打診をしました。


ですが毎回断られていました。


お父様は、

「エリオット様はまだ幼く、恋のことがわかっていないようだ。

 もうしばらく待ちなさい。

 待っていれば彼はお前の魅力に気付くだろう。

 お前は彼に愛されるために美しさを磨いておけばいいんだよ」とおっしゃっていました。


だから私はお父様の言いつけを守り、異国から美容に良い化粧品や乳液を取りよせ、お肌の艶とはりを保ってきました


艶々の髪も保つように、高級なトリートメントを使いましたし、毎日メイドにブラッシングをさせました。


スタイルを維持するために、バレエのレッスンも欠かしませんでした。


ダンスをした時彼に恥をかかせない為に、ダンスのレッスンにも励みました。


ピアノのお稽古にも、乗馬にも、バイオリンのレッスンにも真面目に取り組んできました。


次期公爵である彼の会話にもついていけるように、社会の情勢や、歴史についても詳しく調べました。


異国からの客人ももてなせるように、異国の言葉も学びました。


服はいつも一流の職人に作らせ、所作にも気をつけてきました。


その努力の甲斐があって皆に、花のようだ、妖精のようだ、彼女と結婚できる男は幸せだ……そう言われるようになりました。


私は非の打ち所がない完璧な淑女へと成長したのです。


あとはエリオット様が私の美しさに気づいて、私のプロポーズを受け入れてくれるのを待つだけでした。


その日はそう遠からず訪れるはずでした。


なのに、それなのに……エリオット様が私の知らないところで結婚されていたなんて……!


なぜなんですの、エリオット様……!


なぜあんな年上の女と結婚なさったの?


彼のお相手が、王女とか、皇女とか、異世界から召喚された聖女だというのならまだ納得できました。


エリオット様の奥方になったのは、四度も婚約されたアメリー・ハリボーテ 元伯爵令嬢でした。


六つも年上の元伯爵令嬢が、エリオット様の結婚相手だなんて、納得できる訳がありません!


私は現実を受け入れられませんでした。


何としてもエリオット様を手に入れたかったのです。


そのためにはアメリー様に消えていただくしかありません。


だから今日のパーティーに取り巻きを連れてきました。


彼女達は使い捨てのコマ。いくらでも代えの効く存在。


彼女たちにアメリー様を攻撃させ、私は見ているだけでいいのです。


万が一、取り巻きがアメリー様を攻撃している所を誰かに見られても、「彼女たちが勝手にやったことです」といえば逃げられます。


なのにアメリー様は、取り巻きがいくら攻撃しても微動だにしませんでした。


それどころか、私の企みを見抜き、反撃してきました。


取り巻きの二人はあっさりと寝返り、アメリー様の側につきました。


その上泣き叫びながら私が彼女を罵ってるところを、エリオット様に見られてしまいました。


エリオット様は信じられないぐらい冷たい目で私を睨み、「二度と俺の前に姿を見せるな」と言い放ちました。


なぜなの?


私に手に入らないものはなかったはずです。


なぜ一番大切なものは手に入りませんの!?


「悔しいですわ!

 アメリー様なんて大嫌いです!

 彼女なんていなくなってしまえばいいのに……!」


いつしか私は心の声を口に出していました。


「消してあげましょうか?」


誰もいないと思っていたので独り言を聞かれ、ドキリとしました。


「あなたは……誰ですの?」


ソファーの前に立っていたのは、黒い 短めの髪に、燃えるような真っ赤な目をした、私と同じ年ぐらいの少年でした。


彼の顔はとても整っていましたが、どこか人間離れした美しさで、彼の浮かべている笑顔は作り物のように見えました。


彼の真っ赤な瞳に見つめられ、私は背筋がゾクリとしました。


どうしましょう?


彼がエリオット様のお仲間だったら、私の独り言をエリオット様に告げ口されたら、私は今以上にエリオット様に嫌われてしまうわ。


「心配しないでください。

 僕はあなたの味方ですよ、イリオス侯爵令嬢」


「どうして私の名前を……?」


「私はあなたの父親から、あなたをの願いを叶えるように言われて、ここに来たのです」


「お父様から?」


お父様の知り合いなんだと分かり、私はホッと息をつきました。


「はい侯爵閣下は、あなたが泣きながら会場から出て行くのを見て、あなたに何かあったんだと思い、僕をあなたの元につかわせたのです」


「そう……でしたのね」


さすが、お父様ですわ。


私のことをいつも思っていてくださる。


「ところであなたは、ベルフォート公爵夫人であるアメリー様が邪魔なようですね。

 よろしければ僕が、消して差し上げましょうか?」


「それは……彼女を殺すって意味ですの?」


私は確かにアメリー様を憎んでいます。


ですが、さすがに殺人の依頼まではできませんわ。


「心配なさらないでください。

 殺すわけではありません。

 二度と公爵閣下の前で姿を見せることがないよう、遠いところに連れて行くだけですから」


「遠い所に連れて行く……?」


それなら殺すわけではないから、罪悪感も少なくて済みます。


彼女がいなくなったら、エリオット様は目を覚ますはずですわ。


そして今度こそ私の美しさに気がつき、私のプロポーズを受けてくださるはずですわ。


「私が依頼したことが、他の誰かに知られることはありませんわよね?」


「もちろんです。

 ただあなたはベルフォート公爵夫人の前にいき、このペンダントを見せるだけでいいんですよ」


「ペンダントを……?」


男の手には、真っ赤な宝石のついたペンダントが握られていました。


そのペンダントを見た瞬間、私の頭はぐらりと揺れ、意識が朦朧としてきました。


「さあお嬢様、このペンダントを手に持ってください。

 そしてベルフォート公爵夫人の前に行き、このペンダントを見せるのです。

 あなたはそれをやるだけでいいのです」


「はい、わかりました……」


私の意識は眠っている時のように深い深い意識の底にありました。


なのに私の体は勝手に言葉を話し、勝手に動いていました。


これではまるで……操り人形のようですわ……。



読んで下さりありがとうございます。

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