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第三章 第八話:変わらない世界

トムさん達に見送られた後、俺は故郷のネアンドラへ向けて何もない静かな夜の道を歩いていた。

歩く以外にやることがないと、どういうわけか心が緊張してくる。

ある意味でリリーにプロポーズしたとき以上の緊張感だ。


静かな夜に虫の鳴き声が断続的に響く。


キン!ガキン!


(ん?)


俺は虫の鳴き声に僅かに混じった別の音に気が付いた。

少し離れたところから断続的に金属のぶつかる音が聞こえる。


(これは・・・、剣戟か!)


俺はそう判断すると即座に左腰の剣に手を添えて周囲を確認する。

その間にも剣戟は続く。


(俺の周りにはいないな、よし)


周囲に敵がいないこと確認すると、俺は体勢を低くしつつ背中の弓に手を伸ばした。

同時に矢筒から矢を2本引き抜く。

1本を弓に添えてすぐ撃てるようにしてから、目立たないように月明りを遮る雲の影を縫って音の方へ移動していく。


大きな足音を立てる気はない、あくまでもゆっくりだ。


(・・・あれか?)


少し離れたところで影が動いているのが確認できた。

俺は体勢を少し低くしながら、弓を構えてさらに近づいていく。


ガシュ!


「ぐっ!」


「ロベルト!」


どうやら1人が斬られたようだ。

影の一つが倒れる。

ロベルトと呼ばれたのは恐らくそいつだろう。


都合のいいことに、月明りが舞台照明のように殺し合いの現場をほのかに照らし始めた。


(今日はついてるな)


そもそもこんな現場に遭遇した時点でついてない気がするが、それ以上は考えない。

俺は膝をついて動く影に狙いをつけながら様子を観察する。


(賊か・・・)


どうやら荷馬車が襲われているらしい。

おそらく商人のものだと思うが確証の得られそうなものは見当たらない。

それらしいものと言えば1人だけ戦闘に参加せずに荷馬車の横でビビっている男ぐらいのものだ。

きっとあれが荷馬車の持ち主だろう。


(20年経っても世の中は変わらないか・・・)


相変わらずの世の中に溜息をつきたい気持ちを抑えつつ、俺は観察を続ける。


荷馬車とそれにしがみつく男を守るようにして動いている影は2つ。

これは雇われた護衛で間違いなさそうだ。


(さっき倒れた奴を含めると3人か。ただの荷馬車1台にしては豪勢だな)


これではこの荷馬車には大事なものが載っていますと自分から白状しているに等しい。

賊の方は全部で4人。

数の上では商人達と変わらない割には積極的に襲っているように見える。

きっと向こうも同じように考えているのだろう。


取りあえず状況は把握した。

商人たちも賊たちもこちらに気付いた様子はない。


俺は雲の隙間から漏れる月明りを浴びないように注意しつつ、弓を構えて賊の1人に狙いをつける。

まだ少し距離があるが、十分狙える距離だ。


(そういえば・・・。この体で弓を使うのは初めてだな)


バシュ!


俺は若干の不安を感じつつ矢を放った。

なーに、別に助ける義理があるわけじゃないんだ、外しても大丈夫。


(・・・間違えて護衛の方に当たったらごめんな?)


ドスッ!


「うっ!」


狙い通りに賊の首筋に矢が当たって、正直俺は少しほっとした。

矢を受けた賊はそのまま倒れ込む。


「おい!どうした!」


(そこっ!)


倒れた賊に反応したもう一人に向けて即座にもう一本の矢を放つ。


シュ!ドス!


「ぐっ!いてえ!」


今度は剣を持っていた右腕に当たった。

痛みで怯んだところに護衛の1人が斬りかかる。


「このっ!」


ドシュ!


「がぁっ!」


背中から切り付けられて、賊は倒れ込んで動かなくなった。

俺はその間に矢筒からさらに矢を3本引き抜く。


(残り2人!)


バシュバシュ!


うっすらと月明りを受ける賊の影に向けて2連射。

撃ってすぐに残りの1本を構える。


ドス!ドス!


「・・・!」


「くっ!」


両方とも胴体に吸い込まれた。

賊たちの動きが止まる。

その隙に護衛の2人が斬りかかった。


「うぉおおおおおお!」


「死ねえええええ!」


(どっちが賊かわからないな・・・)


俺は内心で苦笑いしつつ弓を構えて様子を見る。


ガシュ!


ガギン!


賊の1人は胴体を正面から斜めに斬られた。

あれではもう助からないだろう。

そのまま仰向けに倒れていく。


もう1人は辛うじて剣で受け止めたが体勢を崩した。


バシュ!


俺は重心の掛かった方の足に向けて残りの1本を放った。


ドス!


「うっ!どこから・・・」


狙い通りに太腿に当たる。

賊が体重を支えきれずに膝をつく。

これでもう逃げられないだろう。

後は護衛の2人に仕留めさせればいい。


「よくもロベルトをぉおお!」


「うぅおりゃあああ!」


「待てっ!やめろ!降参だ!うわぁぁあああああ!」


ドス!ドスッ!


「ぎゃぁああああああ!」


手を上げて命乞いしようとした最後の1人に容赦無く2本の剣が突き刺さった。

賊の断末魔の叫びが消え去るのと同時に、月明りのスポットライトが雲に塞がれて舞台の終わりを告げるように消えていく。


(終わりだな)


俺は放った矢を回収しようと一歩だけ進んで辞めた。

あの荷馬車の連中には関わらない方がいい気がしてきた。


お世辞にも高そうには見えない荷馬車に護衛が3人。

何かやばいものでも積んでるのかもしれない。

おまけに賊に襲われて護衛が1人欠けたところにちょうどよく表れた男、つまり俺。

俺があの商人の立場なら護衛に使いたいと思うだろう。

それで何も無ければいいが、この後も厄介事が起こる可能性は高い。


(・・・やめとこう)


俺は矢の回収を諦めて道中を急ぐことにした。

今度はさっきとは反対方向に向けて足を1歩踏み出す。


(・・・あれ?)


俺は再び立ち止まる。


(方向、どっちだっけ?)


俺はあっけなく迷子になった。


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